閉店SALEがそんなに長いわけがない -13ページ目

閉店SALEがそんなに長いわけがない

タイトルとは無関係の極私的読書感想文

世界に類を見ない速度と航続性能で、戦うために産み出された飛行機、零式戦闘機。

機械としての性能もさることながら、操縦士の練度の高さも相まって、日中戦争や太平洋戦争の初期~中期にかけては無敵の強さを誇りました。

アメリカなどいわゆる敵対国の兵士たちは空を縦横に駆け回るゼロセンに恐怖すら抱いたといいます。

それほどまでに恐れられたゼロセンですが、やがて攻略法を研究され、そしてアメリカとの圧倒的な生産能力の差もあって、徐々に苦戦を強いられます。

追い込まれて追い込まれて、そして神風特別攻撃隊、すなわち特攻の悲劇へと繋がっていくのです。

かつてその存在を世界に知らしめた戦闘機が、最期は肉弾となって突っ込んでいくしかなかった。その運命に思いを巡らすとき、零式戦闘機の搭乗員たちが見た空は果たして何色だったのだろうと思う。

零式戦闘機 (新潮文庫)/吉村 昭


2009年は後藤正治を愛読するものにとって嬉しい悲鳴が出てしまう一年でした。

短編の小品をまとめた三部作『人物ノンフィクション』刊行。

初期からの代表作を網羅する『後藤正治ノンフィクション集』全10巻刊行開始。

講談社100周年記念書き下ろし『奇蹟の画家』発売。

盆と正月にクリスマスとハロウィンがくっついたかのような大騒ぎ。改めて固定ファンの多さを感ぜずにはいられません。大学教授に就任されて以来、やや作家活動を目にする機会が減っていたのでは、と思っていた一読者としてホッとするものでもありました。

『孤高の戦い人』は人物ノンフィクションの第三弾で、これまで様々な雑誌に発表した原稿に大幅な加筆をしている。本書はスポーツ選手、そして指導者が登場します。作者自身の好みにもよるのかもしれませんが、皆一様にまっすぐで他者への優しさに満ちています。至極まっとうな人たち、という印象を受けます。今、まっとうであることがどれだけ難しいかを思えば、非常に示唆深くもあるといえます。

とりわけ、ボクが後藤正治を知ったきっかけとなった騎手・福永洋一、祐一親子の物語には、やはり胸を打たれるような感慨があります。

祐一騎手が公私ともに世話になった師匠について述べたひとことが胸に残ります。

「たとえ何があっても、そうですね、たとえ動けないような体になっても一緒に暮らせる人です」

人物ノンフィクション〈3〉孤高の戦い人 (岩波現代文庫)/後藤 正治

カメラマンという職業は、その名の通り「カメラ」で勝負する人たちだ。
その場に己がいなければ勤まらない、ある意味では最も現場に近い報道関係者と言える。

藤原の現場は渋谷、というよりも「渋谷的な世界」である。

駅周辺を底にすり鉢状になっている渋谷、その蟻地獄の如き世界を漂う人々(今回は少女たち)の声をすくいあげるようにして、藤原は彼女たちと向き合う。

かつて井田真木子も渋谷を同じように喩えたことがあった。人を惹きつける、むしろ渦の中に絡めとりながら存在する渋谷という街がそら恐ろしく感じられる。

ただ、絶望するような世界を描いていて、それは悲観的な嘆きでとどまる訳ではない。それでも明日また生きるという感じが伝わってくる、不思議と温もりが伝わる一冊だ。

渋谷 (文春文庫)/藤原 新也