大宮BL小説です。
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和也 42
僕は今…
あの日父上と話した…
「行きたい場所」に、立っている。
そこは草原の国と聞いていたが…
和「意外と都会だな…」
市内を一望できる、小高い丘の上で…
僕はそう小さく呟いた。
あれから…
早いもので数年の歳月が過ぎた。
あの後すぐ父上により、僕からスダの王位継承権の移動が宣言されたが…
僕が次期国王と信じて疑わなかった国民の反発は想像以上で、しばらく国内は混乱を極めた。
しかし、そんな完全アウェーな状況下においても…
スダは持ち前の明るさと根気強さで、真っ直ぐに民と向き合い…
少しずつ少しずつ、支持者を増やしていった。
そんなスダのサポートを、僕は続けてきたのだった。
そしてつい先日、やっと…
王位が、父上からスダへと継承された。
それを見届けた僕は、その夜…
父上とスダに「王室からの離脱」の意向を伝えた。
あの日宣言した、
「生きる道を見つける」こと。
もうずっと…
ずっと前から見つかっていた。
あの日、僕の櫛にキスをして…
城から消えたサト。
彼のそばで、僕は生きていく。
それが僕の生きる道だから。
そのためなら、全てを捨てる。
父上には申し訳ないし…
スダもまだまだ大変だろうとは、思うのだけど。
でも、僕は…
その強い気持ちが伝わったのか。
はたまた、何が言っても無駄だと思ったのか。
二人は何も言わず…
ただ、静かに頷いた。
こうして…
僕は今、サトが生きる街に、足を踏み入れたのだけど…
フーマ「…お気をつけて」
城を後にする日…
ひっそりと出て行きたくて、全ての見送りを断った僕。
唯一見送りにきたフーマはひとこと言った。
馬に跨り、フーマに視線を落とす。
和「…いろいろ…」
「世話に、なったな」
「…ありがとう」
初めて…
やっと告げることができた、感謝の言葉。
ずっと反抗的な態度を取ってきたし…
今更気恥ずかしいんだけど。
もう、きっと…
これが最後だから。
そう思って絞り出した言葉。
僕の声に…
いつも無表情な顔が、ゆっくりと歪んでいく。
パラパラッと涙の雫が溢れるのが見えた。
なんだよ…
泣くなよ…
こっちまで泣けてくるじゃないか…
泣いてる顔を見られたくなくて、顔を背ける。
拳で涙を何度も拭った。
フーマ「…カズナリ様」
フーマの声に、視線を戻す。
すると、小さな紙切れを渡された。
フーマ「こんな日が来ると思って…」
「…いや、来て欲しいと思って」
「リョースケに聞いておきました」
和「…?」
フーマ「…カズナリ様が今から向かわれる場所」
「…そちらの住所、です」
和「…」
フーマ「…お元気だそうですよ、あの方は」
和「…!!」
フーマ「…お気をつけて!」
そう言って…
フーマは、笑った。
涙でぐちゃぐちゃになった、初めて見る笑顔。
それに僕は、背中を押されたような気持ちになって…
その紙をぎゅっと、握りしめた。
手の中にある、小さな紙切れを広げる。
住所の書かれた紙。
ここに、サトがいる。
さぁ、行こう。
僕がこれから…
生きていく場所へ。
ここからが僕の人生の…
本当のスタートだ。
サトのいる地域は、ゲルと呼ばれる移動式住居が多く立ち並ぶ場所だった。
狭い地域にたくさんのゲルが密集している。
そこの唯一の市場の端にある、古びた店。
そここそが、紙に書かれた住所だった。
乱雑にいろいろなものが置かれた店先。
どこかで見覚えがある。
あ…
あの日…
僕が最後に街へ出た、あの日。
こんな店、たくさんあったよな…
まるであの頃に、タイムスリップしたかのような…
不思議な気持ちが湧き上がる。
僕は、あの頃の自分や…
サトに出会い、惹かれていった自分が、この中にいるような気がしていた。
*次回は本日18時
蓮さん家(智サイド)
です!