大宮BL小説です。
閲覧ご注意ください。

蓮さん家
登場人物紹介」
上がっております✨✨

ぜひぜひこちらもご覧くださいラブ下矢印下矢印





先にこちらをお読みください♡







本日よりいよいよラスト泣くうさぎ
「再始動編」スタートです!




和也 41




サトの命を奪う書類に押印してしばらく…


僕は以前のように…

心を失った抜け殻のような毎日を送っていた。




フーマはああ言ったが…

本当にサトは、生きているのだろうか。



もしサトの命を、この手で奪ってしまったとしたら…

もう僕は生きていられない。



全てが終わったら、その時は…

前みたいに誰かの力を借りるのではなく、自分で自分の全てを終わらせよう。



そんなことまで考えていた。







フーマ「カズナリ様、今宵は満月にございます」



フーマの言葉がぼんやりと耳を掠めた。



フーマ「…大変月が美しい」



フーマが硝子窓に近づいたことを視線の端に感じる。



フーマ「今宵夜半の…」

「丑三頃が特に」

「特に、美しいと聞いております」



和「…」



フーマ「カズナリ様」


「丑三頃、朱雀門側の月を…」
「どうか、ご覧ください」




和「…朱雀門?」




フーマの言葉が、ふと引っかかった。



宮殿にある4つの門の中でも、全く人の出入りがなく、いわば開かずの門である朱雀門。


生まれた時からずっとここにいる僕ですら…

まともに開いているのを見たことがないほどに、その門はいつも固く閉ざされている。


その手前には鬱蒼と茂る森があり…

森の中には、罪を犯した王族の者のみが収監される、特別な牢屋がある。


そこは昔から…
収監された者たちの怨念が澱んでいる…と、まことしやかに囁かれていて。


少しでもこの城の中を知る者は…
決して近づくことはなかった。




和「朱雀門、と言ったな?」



フーマ「…はい、左様にございます」



和「なぜ朱雀門なのだ?」


「丑三つのような夜半であれば、松明も最小限になり」
「どの門でも月は綺麗にみえるであろう」


「にも関わらず…」
「なぜ、朱雀門…」



そこまで言ってハッとする。



まさか…

まさか、その時間に…?



…きっとそうだ。


他の3つの門とは比べ物にならないほどに人気のない、開かずの門。

そこを、そんな時間に…
僕に見ろ、ということは…


それしか考えられない…!!




和「…いや、もうよい」

「わかった」

「…丑三つ、だな?」




僕は、そう言って…
フーマに視線を送った。



多分僕の予測は当たっているのだろう。

フーマは大きく、頷いた。








確かに月は綺麗だった。

キン…と冷えた、澄んだ空気が、更に月を美しく魅せる。


でも今の僕に…

月を愛でる余裕は、なくて。


サトの…

愛しい人の影。

生きている鼓動。

それだけを感じたくて、目を凝らした。




森を一望できる監視塔の中で…

ただ一人息を潜めている僕。



いつもなら必ず監視役が常駐しているはずの塔。

しかしそこには誰もいない。


きっとフーマが…

サトのために、そして僕のために。

人払いをしたのだろう。


僕はチラリと懐中時計に目をやった。


そろそろ丑三つ…

ぎゅっと拳を握る。


たのむ…
頼むから、生きていて…



柄にもなく、神に祈る。


これから先に待ち受ける、僕の幸運全てを…


何なら僕の命すら、捧げてもいい。



お願い。

お願いだから…

無事でいて…






真っ暗闇の古びた塔で…
真っ暗な森を見つめる。

不気味に揺れる木々。
その葉は不穏にざわめく。

でも不思議と怖くはなかった。


その時…

ふわっと、何かが、森から生まれ出た。


黒い…

いや。

蒼い、影。


その蒼い影は…

森からまるで浮き上がるかのように…

音もなく静かに、現れ…

朱雀門へと移動していく。


開かずの門が、わずかに開く。

その影は、そこをすり抜けようとしたが…

不意に、動きを止めた。



じっと…

宮殿の方を見据える瞳が…
キラっと月に反射して光った。


暗闇なのに、僕の目にははっきりと見える。
まるで…
スポットライトが当たるみたいに…



和「サ、ト…」



生きている。

生きてそこに、サトがいる。


その姿に…
目も心も。
僕の全てが奪われる。

瞬きもせず、その姿を目に焼き付ける。
すると、キラッとまた何かが光った。


和「あ、れ…」


櫛。

僕の、櫛。


月の光が櫛に集まり…
まるで星のように、輝いてみえる。

僕のその櫛に…

サトが口付けするのが見えた。



和「…なんだよ…」

思わず呟く。


和「なんなんだよ…」


文句と一緒に涙も溢れた。


和「人の櫛、勝手に持ってってさ…」

「なに、大事そうに、してんだよ…」



僕の悪態は…

古びた塔に、溶けていった。






*次回は本日18時
蓮さん家(智サイド)
です!