大宮BL小説です。
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和也 29
ユッチの言ったS様とは、サトのことだった。
その事実にただただ驚く。
だって僕らの関係は…
殺し屋と依頼人。
王位継承者とその夜伽係。
どちらの関係にも…
心の繋がりなんか、必要なくて。
ただ無機質に、相手の肉体に向き合うだけ。
ただそれだけ、なのに…。
なのに、わざわざ僕のために…
時間を割いて、危険を顧みず。
国を追われたユッチを探すだなんて…
わかってる。
これはきっとサトの…
気まぐれな親切心だって。
この人は乗り掛かった船に、身を任せただけ。
でも…
なんだか…
それで片付けてしまいたくない自分が確かにいて…
その行為の奥に、僕に対する何かしらの感情があるんじゃないか、なんて…
そんなありもしないことを思いながら僕は、ぼんやりとサトを見つめていた。
その顔が、よほど面白かったのだろう。
豪快に笑ったサトは…
僕の髪をクシャッと撫でた。
我に返る。
カァッと顔に熱が集まる。
僕の肘を突きながら、ニコニコと笑うユッチを制しつつ…
僕はパタパタ…と熱い頬を扇いだ。
短い時間だったけど…
ユッチと過ごす時間は、本当に楽しかった。
幸せそうなユッチから…
昔の自分を返してもらったような気持ちになる。
僕は、昔みたいに…
ユッチにたくさん甘えた。
和「…元気でね」
お別れは悲しいけど…
ユッチには温かいお家があって。
彼を待つ人がいる。
ユッチにはユッチの生きる場所がある。
ユッチが幸せならそれでいい。
僕は小さく手を振った。
でも…
一緒に出て行こうとするサトの後ろ姿に。
不意に心が揺れて。
僕の手は、真っ直ぐサトに伸びた。
「…どうした?」と尋ねられ、自分の手を見る。
僕の手は、サトの服の裾の端を握っていた。
なんで僕は、こんなことをしているのか。
自分でもよくわからない。
ただ…
なんていうか…
サトまで一緒に帰らなくても、なんて…
そんなことを思ってしまったんだ。
この人だって、ユッチと同じで…
生きる場所が他にある。
なのに…
ユッチは見送れても。
この人を見送りたくない、なんて…
僕は心のどこかで思っているのかもしれない。
自分の行動への気恥ずかしさから、僕が口籠ると…
不意にサトの影が近付いた。
ちゅ…と優しく頬に柔らかいものが触れる。
そのまま
智「また、近いうちくる」
そう耳打ちされた。
僕は…
サトの声が、耳を、僕自身を温めるのを感じながら…
コクコクと頷いた。
*次回は明日12時
またあおたん家です!