映画の新作もなかなか興味を引くものがないので、旧作を探しているとなぜかトム・ハンクスかマット・デイモンが演じる作品によく当たります。(恐らく好みの傾向かも)

 特にトム・ハンクスは作品数も断トツで、アカデミー賞はノミネート6回、受賞2回という人気俳優です。それで何度も観ましたがまた観てしまいました。2000年の作品「キャスト・アウェイ」です。

 ネタバレになるので、まだ観てない方は以下飛ばしてください。

物語は、トム・ハンクス演じるFedexの社員チャックが専用機の墜落で無人島に独り漂着し苦難の末生還するというストーリーですね。

 すでに多くの映画ファンが投稿しているように、脚本では話の冒頭から多くの伏線が配されていてその謎解きに諸論飛び交うにぎわいです。

 読者諸氏にはあらすじを先刻ご承知と拝察し割愛しますが、物語の展開上登場する重要な二つの「キャラクター」についてお話します。 

 Fedex便の「謎の箱」とバレーボールの「ウィルソン(Wilson)」です。

 

①   謎の箱

 これは謎解き諸氏も指摘していますが、冒頭の場面でテキサス州のアーティスト、Mrs.ピーターソン(ベッティーナ)の工房から送り出された「配送品」と「配送品」です。

「配送品」は画面に登場します。送るベッティーナの気分は晴れ晴れ(ピンク色)です。「配送品」のほうはFedexの集荷人が、ベッティーナの頼んだ次の木曜日の集荷で預かったと思われこの場面では登場していません。

 この「配送品」は、ロシア(寒い北の国)にいるMr.ピーターソン(ディック:ベッティーナの夫)に届けられます。(実はディックはロシアの女と暮らしており不貞の夫です) 映画では一切説明抜きで進んでいますが、ベッティーナとディックの仲は終わっており、「配送品」の中身は「離婚同意書」であると考えられます。なぜそう思うかは後ほど解説します。

 物語の中で最も重要な「キャラクター」が「配送品」です。

 

 

チャックが無人島に漂着したあと、生存のためにやむなく幾つかの配送品を開封しますが「配送品」だけはなぜか開封を思いとどまります。開封した物の中にはVHSのテープやスケート靴など役に立った物もありましたが、ダメだコリャというものもあり、その中に誰かの「離婚同意書」もありました。前述の「配送品」は別便でロシアに届けられたのですからこの「離婚同意書」が「配送品」であるはずはありません。しかし、脚本家は最後で視聴者に「ハハーン、配送品の中身は離婚同意書じゃないかしら」と暗に気付かせようとしています。憎いね。

 それでは、ベッティーナとディックの仲は終わっていて、離婚しようとしていたことはどこで分かるかというと、やはり最後の場面でチャックがベッティーナの工房を訪ねたときにはゲートの看板 “DICK&BETTINA” の “DICK” が無造作にもぎ取られていたところです。

 また話は前後しますが、「配送品」、「配送品」、ゲートの看板、ベッティーナのトラック にはロゴマークである「天使の羽根」が表示されておりチャックとベッティーナを結ぶシンボルとなっています。


②  バレーボールの「ウィルソン(Wilson)」 

 やはり開封した配送品の中の一つにウィルソンのバレーボールがありました。孤独の4年間をともに過ごした親友です。一時は喧嘩をすることもありましたが、島を脱出する際には「配送品」も携え、共に出帆します。しかし不測の事故からウィルソンとは悲しい別れとなります。

 でも帰国してちゃっかり新しいウィルソンを車に乗せていましたね。

読者諸氏はご存じでしょうか? トムが実生活で1988年に再婚した女性は俳優で歌手のリタ・ウィルソンです。(大好きなウィルソン:パロディー感満載です)

 それから、Fedexの創業者フレッド・スミス(Frederick W Smith)氏も会長本人役として出演しています。

 また名前でいえば、物語中、島に葬った同僚の名はアルバート・ミラーですが、映画「プライベートライアン」でトムが演じたのはジョン・ミラー大尉でしたね。

 

③   届けられた謎の箱「配送品

 ここでひとつ疑問が残ります。

墜落したFedexの専用機はメンフィスを飛び立ち、太平洋上でタヒチの管制と交信していましたから目的地はアジア方面でした。ですからベッティーナの「配送品」はアジア方面の受け取り先に届けられるべき荷物だと思われます。

しかし、どうしてFedex社員のチャックは受け取り先に配達完了するのではなく、発送元のベッティーナに届けたんでしょうね。中身は? わかりません。

 

④  チャックとベッティーナはどうなるのか

 最終場面で、チャックの車がそのあとどこへ向かうかは画面では示されません。

しかし、あそこでチャックがすぐベッティーナの家に向かったのでは安易なストーリーになるので、チャックは淡い希望と予感を胸にとりあえず帰途につくであろうと思わせています。

 

 物語の最大の感動場面は、チャックが戻ってきたとき、愛する恋人のケリーは不本意ながら他の男と結ばれていて、二人は愛し合いながらも再会を喜ぶことができず、涙の別れになるシーンです。これはあのシェークスピア作品のすれ違い悲劇を連想しますね。しかし作者は話を悲劇で終わらせたくなかったようです。

 つまりこの映画は無人島アドベンチャーの冒険譚と恋愛悲劇の体を装いながら、実は別れと出会いのファンタジーだったということになりますね。

 

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※ 以上の記事を投稿した後、「謎」の解釈をしましたので追記しておきます。

⑤ Fedex社のコンプライアンス

 墜落したFedexの専用機に積まれていた荷物はすべて送り状の記録が残っているはずなので、当然Fedex社は事故後に発送元の顧客に金銭的な補償をし、顧客の中のある者は荷物の再送をしたかもしれません。ですからベッティーナの「配送品」はもう届けるべき荷物ではなくなってしまっていた。しかし、チャックは感謝とお礼のために「配送品」の発送元を訪ねた、という解釈です。というのは、チャックはFedex社の制服でもなくラフな私服だったからです。

 でも、お礼なら正装のスーツ&タイで礼品のひとつも持参するのがスジでしょうがね。

 

⑥ ゲートの看板 “DICK & BETTINA”

 この映画に仕組まれた謎の伏線のヒントは気付かないところに隠されていおり、原作者と脚本家の遊びとウィットを感じます。

米国ではBettyは可愛い女性の代名詞、またDickはご存じ(品の良くない)男性の代名詞です。私が映画を初回に観たときは、チャックが最後にベッティーナの工房を訪問した時の看板が半分朽ちていたように見えたので、さびれた工房かと思いましたが、冒頭のシーンから4年が経過した時点でもそのままということは、”ベッティーナのパートナーの場所は今でも空きですよ”とチャックの意識下に、そして視聴者に暗示をしています。

 

 実はここは西テキサス州に実在するアーリントン牧場がモデルになっています。そのことはチャックが書置きメモを残すとき使った用紙のレターヘッド "ARRINGTON RANCH" をチラッと見せてヒントにしています。

また、ベッティーナが「…(十字路から)北に行くとカナダまでなにもない」と言っていますがこのカナダは米国の町カナディアンのことです。

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※以下も追記になります。

 モスクワからパリ経由でメンフィスに戻るときの飛行機の中で、同僚のスタンと話すシーンがあります。スタンの奥さんが癌で闘病しており、状況は良くないという話です。

 このとき、チャックの考え込むシーンが意味深だったので、トムの実生活を調べると、前妻の女優サマンサルイス(子供たちの母)が2000年(映画製作年)当時、癌の末期だったようです。2002年に亡くなっています。(冥)

 

  ⇒ニコライ少年