忘れられないの | チーズケーキのcrazy Arashians story

「これでよし、と」

段ボールの山が少しづつ崩れ、なんとか過ごせるだけのスペースを確保して
去年末の唐突な辞令による転勤で、長く住んだ街を離れることになった

アイツとの
想い出がつまった街...

いちサラリーマンとしては抗うこともできず
俺はこうして新天地にたどり着いた

地下鉄に揺られ、ようやく座れた席に体を落としひとつ、ため息をつく








" 翔ちゃん、翔ちゃん!
  学祭抜けてその後どっかあそびいこうよ!" 

鼻にかかったふんわりした声が
耳元をくすぐる
何も付けてないって言ってたけど、どこからか漂ってくるシトラスの香りで、声を聴かなくても誰だか分かったくらいで

学ランの裾を引っぱってゆさゆさされてるのも相まって、心地良い時間を続けたくて
俺はいつも寝たふりをしてたんだ 

あの頃の「アイツ」は男女どちらからもモテてたけど、瓶底みたいなつまらないメガネをかけた俺なんかを、なんでかいつも構った

同じ方面からで時間帯も一緒の電車
俺たちはくだらないことばっか話してた
くだらないことしか、話せなかった


夢に雅紀が出てくるのは久し振りで
" 俺って、しつこいんだよな... "
そんな自分に、瞼を閉じながら一人笑う
その瞬間


「...翔ちゃん? 翔ちゃん!!」
昔よりも少し大きく揺さぶられる体
ビクッとして、目を見開いたら


数年前とさほど変わらぬ、目尻にしわを寄せ
満面の笑みで

そこに、雅紀が立っていた

「なんでこんなとこにいんの?
 てか、寝過ごしちゃうんじゃない?
 昔いっつも起こしてあげてたんだからね」


心臓が
ぎゅっとなる 感覚



あの街に置いてきた、閉じ込めた想いがいっきに宝箱から溢れ出していく

口には出せない、
大切な君への大切な想い


「雅紀...」

驚いて見上げてるうちに、手際よく手帳を破りメモされた携帯番号が、胸ポケットに差し込まれた

「番号、変えてないけど」






仕事終わりに、すこし震える指で
ずっとかけれなかった番号をタップした

自分の想いから逃げ出したあの
生温い風の吹く日
触れそうで触れれなかった唇が
鮮やかにフラッシュバックする


今日こそは
やっぱり、君じゃなきゃ
やっぱり、想い出になんか出来なかったって

そう 言えるかな


結局俺はどこに居たって
君を忘れられないらしい