AGA治療革命より引用 93　福田教授との対談１

「毛髪培養成功の記事が出ると、世界中から問い合わせが殺到しました」

笠井　僕が福田先生の毛髪再生医療の研究を知ったのは、ほんの偶然でした。大阪出張から帰
京する飛行機の機内で読んでいた『日本経済新聞』に、先生の毛髪再生医療についての小さな
記事が出ているのを見つけたのです。
福田　それはコロナ禍前の２０１８年３月。もう５年以上前になりますね。マウスを使った実
験で、毛髪再生医療で鍵を握る「毛包原基」の大量培養に成功したという論文を発表したとこ
ろ、テレビや新聞など国内外の３００以上のメディアから取材の依頼が殺到しました。当時、
うちの大学のウェブサイトの年間トータルアクセス数を、たった１日で超えるというフィーバ
ーぶりでした。
笠井　国内だけではなく、海外からも注目されたのですね。
福田　はい。余談ですが、アメリカの週刊誌『ニューズウィーク』のオンライン版では、意図
的に変わった取り上げ方をしていました。
毛髪再生医療で使う培養器には、細胞への酸素の供給力を高めるために、酸素透過性が高い
ＰＤＭＳ（ポリジメチルシロキサン）というシリコンゴムの一種を使っています。この素材は、

マクドナルドのポテトを揚げる油に消泡剤として添加されています。そこに目をつけたアメリ
カ人記者が、読者の興味を惹くために「マックフライポテトを揚げる油が、毛髪培養では重要だ
った」という記事を書いたのです（Japanese scientist may have discovered a cure for baldnessand
it lies within a chemical used to make McDonald’s fries：日本人科学者がハゲの治療法を発
見したかもしれない。それにはマクドナルドのフライドポテトに使われている化学物質が関係
していた）。
笠井　アメリカでは、日本以上に男性型脱毛症に悩む人が多いですからね。彼らの興味を煽あおる
ような記事にしたかったのでしょう。
福田　おかげで、「マックフライポテトを何人前くらい食べたら、髪の毛が生えてくるのかを
教えてほしい」というメールが、アメリカから何十通も届いて困りました（笑）。
笠井　まさか本気じゃないでしょうね（笑）。
福田　案外本気だったかもしれない。
笠井　面白い。毛髪再生医療に興味を持ち、福田先生とぜひお目にかかりたい、知り合いにな
りたいと思っていたら、さらなる幸運な偶然が重なりました。うちのクリニックのドクターで
もある名古屋大学の蛯沢克己先生に福田先生の話をしたら、「ちょうど今夜、僕は福田先生と
一杯飲みますよ」とおっしゃるではありませんか。
福田　蛯沢先生とは一時期、筑波大学で一緒に再生医療を研究していた仲です。
笠井　僕はこんな千載一遇のチャンスはないと思ったので、「ぜひ僕もその席に連れて行って
ください！」と蛯沢先生に無理に頼み込み、ご迷惑を承知でお二人の飲み会に飛び入り参加さ
せてもらいました。
福田　迷惑だなんてとんでもない。マウスの次はヒトの毛包で毛髪再生医療の研究をしようと
準備を進めていましたが、肝心のヒトの毛包をどこから調達するかが悩みの種でした。笠井先
生から「毛包はうちが提供しましょう」と言ってもらえたときには、「これで研究スピードが
もっと上げられる」と安あんど堵したのを覚えています。
笠井　自毛植毛の手術の際、どんなに注意深くグラフトを採取しようとしても、組織の一部を
傷つけてしまうことがあります。傷ついた不完全なグラフトを無理して移植しても、正常に育
たない恐れがあります。
こうしたグラフトの毛包を、事前に患者さんの許可を得たうえで、研究のために提供できる
というお話をしました。私たちのクリニックは、自毛植毛の症例数では日本トップクラスです
から、それだけ提供できる毛包数も多いのです。

福田　いま振り返ってみると、あのときの出会いがなかったら、私たちの毛髪再生医療の研究
はおそらくスピードダウンしていたでしょう。
笠井　現場のスタッフたちが本当に頑張ってくれました。採取した毛包を、鮮度を落とさない
ように低温に保ち、横浜にある福田先生のラボまでバイク便で届けるシステムをボランティア
でつくり上げてくれたのです。ただ最近、困りごとが一つあります。
福田　どんなことですか？
笠井　私たちのクリニックでは、グラフトを採取する技術がどんどん上がり、ほとんど失敗し
なくなったのです。それ自体は喜ばしいのですが、何とか別の方法を使ってグラフトを提供で
きないかを現在鋭意考えているところです。
福田　よろしくお願いします！