AGA治療革命より引用 92

毛髪再生医療なら、減った毛髪が増やせます

　本書の最後に、発毛・育毛の明るい未来の話をしたいと思います。それは「毛髪再生医療」という新しい医療技術の話です。
毛髪再生医療が実現できたら、もはや誰もが男性型脱毛症に悩まなくても済む世界の到来も夢物語ではなります。
　毛髪再生医療とは、21世紀になって脚光を浴びている再生医療の一種。再生医療とは、何からの原因で失われた組織や器官を再生させる最先端医療です。再生医療は、２００６年に山中伸弥先生が率いる京都大学のグループが、世界に先駆けてｉＰＳ細胞（人工多能性幹細胞）をつくったことから、一躍スポットライトを浴びるようになった分野。その功績により、山中先生が２０１２年にノーベル賞生理学・医学賞を受賞したのは、ご存じの通りです。
　毛髪をつくり出す毛包は、成人になってからでも繰り返し再生する唯一の器官。ヘアサイクルにより、一定期間ごとに毛包は再生し続けています。この性質を利用して毛包を再生し、毛髪を再生しようというのが、毛髪再生医療なのです。
　始めに、毛髪再生医療と自毛植毛との違いを確認しましょう。男性型脱毛症の患者さんに自毛植毛を行う場合、男性型脱毛症を起こしにくい後頭部のドナーエリアのグラフトを、薄い生え際や前頭部などに移植して薄毛を目立たなくします。見かけは改善しますが、毛髪の総数は増えません。
　それに対して毛髪再生医療では、採取した毛包を培養して増やしてから移植するため、毛包と毛髪の総数が増えます。そこが両者の大きな違いです。ドナーエリアの後頭部の毛包の数にも限りがありますから、自毛植毛では移植できるグラフトには自ずと制限があります。ところが、毛髪再生医療なら、たとえば後頭部から採取したわずか10株のグラフトを１００倍の１０００株に増やしてから移植することだって可能。脱毛がかなり進んだ患者さんへの対応も可能になります。男性型脱毛症以外の脱毛症でも、毛髪再生医療の活用が期待される場面は少なくないでしょう。

　たとえば、抗がん剤治療で生じる脱毛・薄毛に備えて、あらかじめ毛包を採取して増やしておけば、抗がん剤治療後に脱毛・薄毛が気になるエリアに移植することにより、患者さんの生活の質を格段に高められます。現在、術後の経過に歯周病など口腔環境の良し悪しがかなり影響しているとわかってきたため、がんなどの外科手術を行う際には、事前に歯と歯ぐきの状態を確認して必要に応じた歯科治療を行うのが当たり前になっています。同様に、将来的には、抗がん剤治療を行う前に、将来脱毛を起こす心配のない後頭部などから毛包を採取・培養しておくことが常識になるかもしれません。
　私たちのクリニックでは、５年ほど前から毛髪再生医療の研究に積極的な協力を行っています。毛髪再生医療研究のトップランナーの一人である横浜国立大学大学院の福田淳二教授とタッグを組み、毛髪再生医療を前へ進めるお手伝いをしているのです。
ここからは福田先生へのインタビューを介して、毛髪再生医療の実態、その実用化に向けての歩みについて紹介したいと思います。