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うしずのです。
だいぶ秋めいてきましたが、夏の情景です。
前回は、信一が真っ暗な空き地で、先輩達にボコボコにされている所で終わっていました。
だいぶ前に大河原先生(通称オニガワラ)という人が登場したのを覚えておいでですか?野球部の監督で不良も震え上がる怖い先生です。
架空の町の祭りの日の物語。時代はざっくり昭和50年代です。ちょっとノスタルジックな気持ちになって頂けたら幸いです。
ノスタルジア 夏の情景 44 夜に見る朝顔
その時、闇の中に緊迫した女の子の声が響いた。
「大河原先生、こっちです。空き地で誰かがケンカしています」
北川達が酷く動揺しているのが気配で分かった。
「大変だオニガワラが来るぞ」
「逃げよう」
最後に北川が声を潜めて、こう言うのが聞こえた。
「いいか星乃。オニガワラに俺達の事、告げ口すんなよ」
暗闇の中、バタバタと慌てた足音が遠ざかって行った。
助かった。信一は思った。緊張感から解放されスポーツバッグを抱えたまま地面にへたり込んだ。
「しんちゃん。ねえ、しんちゃん大丈夫?」
少し離れた所から細く震えた声が聞こえた。葉月の声だった。暗くて姿は見えなかったが信一は心底ホッとした。
「大丈夫」
信一は葉月の声がした方に向かって言った。
「信ちゃん、どこにいるの?」
「こっちだよ」
「こっちって、どっち?」
「こっちだよ」
「こっちじゃ分かんないよ」
信一は暗さに目が慣れてきて、葉月の白い浴衣が闇に滲む様に見えて心底ほっとした。
「すぐそばだよ」
信一は手を振った。
葉月が近づいて来て、彼女が着ている浴衣に描かれた朝顔がぼやっと見えた。信一は何故か「夜に見る朝顔ってなんかいいな」とぼんやり思った。
「信ちゃん乱暴されなかった?」
葉月はやっと信一を見つけた。
「大丈夫。なんともないよ」
信一は葉月に心配させたくないのと恥ずかしいのとで嘘をついた。
「良かった」
「大河原先生は?」
「あれ嘘」
「え?」
「大河原先生を探しに行こうと思ったけど、あんなに人が沢山いる中で先生を見つけるの大変でしょ。そんな事している間に信ちゃんが大変な事になると思って、・・・だから大河原先生を連れてきたふりをしたの」
「そうだったんだ・・・・・。良かった。北川達が僕を殴ったの大河原先生が知ったら、うちの野球部が大会に出られなくなるかも知れないし」
「・・・信ちゃん、ここは怖いよ。明るい所へ行こう」
信一と葉月は大通りへ戻る事にした。
つづく
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。