夏目漱石「硝子戸の中」の感想 | 文化の海をのろのろと進む

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 うしずのです。

 

 夏目漱石先生の作品は「三四郎」が特に好きです。文章が不思議で、読み心地は軽いのに、後からずしっと重い手応えがあるのです。その不思議な文章の秘密を解き明かしたくて、何度も読み、ノートに書き写してみましたが分からず仕舞いでした。

 

 今回は「硝子戸の中」の感想です。

 

 

「硝子戸の中」夏目漱石 新潮文庫

 

 

 最初にこの本を書店で見つけた時「あれ?漱石先の小説にこんなのあったけ?」と思いました。私の勉強不足でした。この本、小説でなく随想集でした。

 

 漱石先生が犬を飼っていたのを初めて知りました。その愛犬について書かれた文章は、渇いた筆致の中に愛犬への愛と優しさが込められていて、じんわりと胸に滲みるものでした。

 

 

 漱石先生は「吾輩は猫である」を書いた位だから猫派だとばかり思っていたのですが、本書の注解の中で「実は犬の方が好きだ」と意外な告白をしていることを知り、猫派の私としてはちょっとショックでした。

 もちろん猫も飼われていて、そちらの文章は笑えたり切なかったりでした。

 

 

 人気作家ゆえなのか、変な人から作品を読んでくれだの、自分の事を小説に書いてくれだのと頼まれるなど漱石先生も大変だなと同情しつつ、ちょっと笑えてしまう話もありました。

 

 先生のお身体の調子があまり良くない時に書かれたせいか物悲しい内容の物も多いのですが、ユーモアのあるエピソードや、心温まる話もあり、ページ数は少ないけど、とても充実した内容でした。

 

 この本を読んで、漱石先生の文章の秘密が少し分かった様な気がします。先生の文章は押し付けがましく無いのです。読み手に笑いやら感動やらを押し付ける事無く、ただ淡々と書かれている。でも籠められた物が豊かなので、じんわりと、深くこちらに伝わってくるのです。

 

 

 

 

 

 最後まで読んで下さり、ありがとうございました。