文化の海をのろのろと進む

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本、映画、演劇、美術、音楽など、ジャンルを越えて扱う雑食文化系ブログです。更新はマイペースです。雑誌を読む様な気持ちで楽しんで頂ければ幸いです。

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 うしずのです。

 

 今回は遠藤周作さんの小説「海と毒薬」の感想を書かせて頂きます。第二次世界大戦末期に実際に起きた米軍捕虜の生体解剖事件をもとに描いた作品です。



「海と毒薬」遠藤周作著 新潮文庫

 




 事件に関わった者達の生い立ちや心の闇が描かれていきます。ある者は葛藤を抱えながら。ある者は引きずり込まれるように。またある者は何も躊躇せず。非人道的な実験に加担してしまうのです。短い作品ですが、人間の描き方が濃厚な所がこの作品の凄さだと思います。


 実験に加担した医師の一人は子供の頃から良い子を演じ続け、表層だけは良い人間のふりをしていて、とても不気味です。
 しかし人情があり患者を救おうという情熱もある医師が人間として踏み外していく様は恐ろしいものがありました。戦時下という狂った時代の渦中にいると人間は悪魔の様な行いもしてしまうのだと思います。


 最初の章の語り手が最後に再登場するかと思ったのですが、それは無く、構成上宙ぶらりんな感じもします。
 その最初の章は不気味なムードで読書を引きつけると同時に、事件に関わった人間が社会の中で活動している怖さを描いて重要な章だと思います。


 56ページに戸田という登場人物のセリフで、前後は略しますが「ほんまに医学の生柱や」と、あります。私「生柱」という言葉を初めて見たので調べてみましたが、国語辞典にも広辞苑にも載っていませんでした。「人柱」の誤植なのではないかと思います。文脈的にもしっくりくると思うんですけど、どうなのでしょう?


 テーマが重いので読みづらい本なのかな?と思っていたのですが、文章が読みやすく、読みづらくはなかったです。ある意味、読みやすい文章で書かれているからこそ物語の重さが際立っているのかも知れません。読みごたえのある凄い小説でした。

 

 

 

 最後まで読んで下さり、ありがとうございました。