百薬の長などという言葉を使う程、立岡自身は酒飲みではないが、何とか小西を自分の世界に引きずり込もうとしていた。
「そうですね、それじゃ今日の捜査はここらで打ち切って楽しく飲みましょうか。確かにお酒を飲むと、どんなに嫌な事とか辛い事があっても全部  忘れられますからね」
「酒というのは、ホンマに不思議な飲み物や、思いきり感情的にもなれるし、逆に感情を殺すことも出来るんやからな」と、立岡はそう言って、言葉を続けた。
「こんな田舎の高校の教師なんてね、うまく教えて当然で少しでも、けったいな事を
教えたくらいなら、それこそ親から吊し上げられるのが関の山やからな、その点刑事さんなんて、よろしいなぁ、自分の勤める署内に事件がなければ、丸っ切り暇なわけやし、
まさか事件を捜すためにパトロールをしているわけじゃないやろ・・・・ホンマに気楽な稼業やなぁ、まぁ、その代わり事件があれば死と隣り合わせやけどな」と、少し皮肉を
込めて立岡は、小西にそう言った。
  小西は、立岡にその事を言われた瞬間、目がキラリと光った。
「どうして、貴方は、そんな風に僕の仕事を決め付けるのですか、刑事とか警官とかいう仕事は信用第一ですからね。少しでも汚職やピストルを隠しただけで、すぐに逮捕されて免職でしょ、それに危険が常に付きまとうし、第一きつい仕事ですよ、どうしてイブの夜に捜査のためだとはいえ、こんな田舎町に来て貴方とこうして酒を飲まなくっちゃいけないのでしょうね。何も別に僕は貴方と知り合いになった事を後悔してませんけどね。ただ僕は自分の仕事が  そんなふうに思われていると妙に腹が立つんです。それに比べりゃ、高校の教師なんて本当に気楽な仕事ですよね。だって余程悪い事をしないと警察沙汰にはならないし、少しぐらいサボっても直接、僕らの生活には関係ないしね・・・」
  こんな所でお互いの仕事の比較をしても仕方ない事ぐらい二人とも判っていたが、つい仕事の話になると真剣になるのである。
「ところで、小西さんは勿論、独身やろなぁ、そうでなかったらクリスマス・イブの夜に行きずりの俺なんかと酒を飲むわけないし、どうせ恋人もおらへんねやろ。」  「はい」「ほんなら俺と一緒や、それに比べて卓はええなぁ、たとえ世間の奴が殺しだ事件だと、騒いでいるけど好いたモン同士で逃げれるんやからな、幸せやと思うなぁ」