ひろみは、雄平の事も勿論気になっていたが、それより今は懐かしい武雄の声が聞きた
  いと思っていた。  しかし当の武雄は、すっかり眠り込んでしまっているようだ。
「ねぇ、お願い  山田さん今すぐ森本の叔父様を電話口に出してちょうだい。」
  ひろみは、そう言ったが嘉明の方は、なかなか首を縦には振らなかった。
「今は無理だよ、だって誰でも疲れている時に叩き起こされたら、ムッとくるよ」
「そうかしらね、私はそうは思わないわ。だってもう夕方の六時過ぎてるわよ。」
  しかし、嘉明はそれでも尚、厳しい返事をひろみに返したのである。
「六時だろうと七時だろうと、眠い時は眠いし、疲れている時は疲れてるよ、それに
人は熟睡してる時に起こされるのが一番辛いもんだよ、特に冬場はねぇ。」
  嘉明のその説得力のある言葉に電話口で。ひろみは  ただ黙っていた。  「・・・・」「強がりばっかり言ってないで早く君も藤本さんを捜したら、どうなんだ。」
「別に私は強がってなんかないわよ。ただね、こんな私のためにお父さんまで行方が
判らなくなった事に対して少し驚いているだけよ、ただそれだけ」
  とは言ったものの、養女で、血縁関係はなくてもやっぱり雄平とひろみは親子なのだ。
  内心ではひろみも大変気にしていたに違いない。それを察知した嘉明は素早く言った
「君は何とも思わないのか?  藤本さんは君の仮にも父親なんだぞ、保護者なんだぞ
身元引受人なんだぞ、その人が今いなくなったんだよ。それでも君は平気なのか」
  普段は冷静な嘉明としては珍しく電話口で怒鳴ってしまったが、  しかし受話器越しのひろみの声が震えていたのを嘉明は、このとき全く気付かなかった。
「だからね、私いま寂しいんじゃない。だから森本の叔父浜の声が聞きたいのよ」
「いやにこだわるなぁ、そんなに森本さんの声が聞きたいのか?  仕方ないなぁ、呼んで来てやるから、そのまま電話を切らずに待っていろよ。」
  嘉明がそう言った途端、物音と大声に気付いて、武雄が二階から降りてきた。
「何を大きい声で騒いでるんだ。うん電話か、誰からの電話じゃ」
  武雄がそう言うと、余りの迫力に恐くなったのか、嘉明は、無言で受話器を手渡した。「もしもし、はい森本です、あっ、」と、そう言った瞬間、思わず、武雄は息を飲んだ。「森本の叔父様、お久しぶりね  私ね今、広島にいるの、それでね今から好きな人と
結婚式を挙げるの、一番にお父さんに知らせようと思って、電話したら山田さんが出て、お父さんの行方が判らなくなったって聞いて、びっくりしているの、でも多分お父さんに言っても、いきなりだったら反対されると思うから、ほっとしてるのよ。」