しかし、立岡には卓との約束を破る事はどうしても出来なかった。
「小西さん、明日はクリスマス・イブだというのに。あんたも可愛そうな境遇の人やな、なんぼ仕事だというても普通なら、いい加減に切り上げて女と一緒に酒でも飲みに行ってもええ筈やのになぁ」と言って話をごまかした。二人がふと外を見ると雪が降ってきた。
  お互いに相手の出方を伺うように、ただ時間だけが流れようとしていた。
  午後十一時三十分を過ぎた頃だった。粘り強い小西も根負けして立岡の家を出ようとした時、立岡が小西を呼び止めた。
「小西さん、ちょっと待ってください。捜査の手がかりになるかどうかは判らへんけど、せっかくこの暮れの忙しい時に熱海から来てくれはったから言いますけどね・・・・・
卓は多分熱海にも東京にも帰っていないような気がします。かと言って俺には今、あいつが何処に逃げているのか判らへんけどな」
  小西は、真剣な眼で立岡を見つめた。そして、立岡にこう尋ねた。
「立岡さん、杉田がもし、貴方の言うように熱海にも東京にも帰っていないとすると。やっぱ、もっと西の広島あたりですかね。実はね、僕らは杉田の泊まっていた雄山閣ホテルから捜査を依頼されたのですが、その雄山閣ホテルが腕利きの私立探偵を雇ったらしいのです。何故雇ったかという理由は、はっきりしないのですが、僕は意地でも二人の行方を捜し当てないといけないのです。お願いです。何でもいいから教えて下さい。」
  小西は、眼を輝かせて熱心に立岡にそう言ったが、立岡は心の中でまだ迷っていた。
「小西さん、卓がもし広島にいたとしたら、あんたはどうするつもりや、まさか何にもしていないと思う卓を熱海に連れて行って取り調べる気か」
「それじゃ、やっぱ杉田は広島にいるのですか。女も一緒ですか」
「いや、何も卓が広島に逃げたとは限ってないけどな、もし、あんたの推理が正しければ卓は広島に逃げている事になるな。」
  立岡は、危うく卓が広島に逃げている事を小西に言ってしまうところであった。
  しかし、カンの鋭い小西には立岡の言う事は、何もかも判るような気がしていた。
「立岡さん、やっぱり僕、広島に行ってきます。杉田の奴がいなくても、無駄足になっても構いません。広島にいってもいいでしょうか。」