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  立岡信二は、倉敷城西高校の教諭になって四年目になる。
「杉田の奴、随分、新聞とかで騒がれている割には、親友の俺に電話の一本もかけないで一体、何処をほっつき歩いているのか。俺なんか一向に女には縁が無いと言うのに、
あいつときたら、若い女と・・・・。何か事件にでも巻き込まれていなけりゃいいがな」
  立岡は、このところ連日のようにテレビのトップ・ニュースで取り上げられる卓の
事件のニュースの群報を聞きながら、心の中で、いつもそう呟いていた。
  卓と立岡は、実家が近所だったという事もあり、幼い時から仲がよく、学生時代も常に同じ学校だった。  そんな事から、二人は、いつしか親友だと誓い合っていた。
「明日は、クリスマス・イブか。今年も俺にとっては寂しい日になりそうやなぁ」
  立岡は、買ってきた小さなクリスマス・ケーキを独りで食べながら、そう言った。
  十二月二十三日、既に卓とひろみが失踪してから、一月以上が経過していた。
「御免下さい。立岡信二さんのお宅は、こちらですか?」
  立岡の家の外から、低い男の声がした  小西である。
  立岡は、少々驚いた様子でドアを開けると、小西の顔を威嚇する様にじっと見つめた。「そんなに  にらまなくても決して怪しい者じゃありませんよ。私はこういう者です。」
  小西はそう言うと、おもむろに警察手帳を取り出して立岡に見せた。
「警察の刑事さんが一体、俺なんかに何の用事ですか?」
「実は、もうご存じの様に杉田卓が熱海の雄山閣ホテルから姿を消してから、もう一月になるんですが、未だに手がかりさえ掴めていないので、調べているうちに立岡さん、貴方の名前が浮かび上がってきたというわけです。何か手がかりになる事はありませんか?」
  事件の手がかりと言われても、立岡には卓のことで小西の期待するような返答はできな言った。それに捜査の段階で、どうして自分の名前が急浮上してきたのかという事も、
立岡には理解が出来なかった  何故なら以前にも卓の事で、鈴木信子に色々と聞かれた
経緯があるし、それにこの時はまだ卓から何の連絡もなかったことも事実である。
「そうやねえ、事件の手がかりと言っても、あいつから何の連絡もないから、今のところあんたに話す事は何もあらへん」