話は前後するが、コクリート疑惑というのは、小平市の郊外に、ゴルフ場を建設して、市の活性化を計ろうという計画が持ち上がり、その最高責任者の一人に藤本雄平がなっていた三年前、工事を受け負ったコクリートという建設会社の江森社長から1億円のワイロを受け取った疑いが掛けられ、東京地検に逮捕されたのである。
  コクリート疑惑で、小平市関係者に渡った金の総額は、3億~6億円と言われている。その内の1億円だから、このコクリート疑惑が、本当だとすればコクリートの藤本に対しての期待は「かなり大きかった」と言えるし、それだけこの計画の実施にあたっての藤本の権威は大きかったのである。
「そうですか?  もう少し聞いて貰えたら、とっておきの話が出来たのに・・・・・」
と、残念そうに小西が言うと、峰元はまるで察していたかのように「もう、判っとる
わい、杉田ちゅう男とこの女が、出来取るちゅう事ぐらい」
「さすが峰さん、よく判ってますね  実は、そうなんです。さっきも言いましたけど
この女、小さい時から贅沢三昧の派手好きときているから、養父が警察に捕まるような
悪いことをしたら、立場もないし、お金も続かなくなる、という事で、つい、水モンの
世界に入って、杉田と知り合い、カケオチをしてしまったのです。」
「そやけど、そんな事してもええんやろか、カケオチなんて・・・・」峰元は、そう呟くと何やら、書類を出そうとしている小西を見ながら、煙草に火をつけた。
「何が、そんなに気になるんすか?」書類を整理しながら、小西が峰元に言うと、
「いやーな、カケオチというのが、ちょっと気になるんや、今はどうか判らんが昔は
水モン同士のカケオチや、色恋沙汰は絶対に厳禁の筈やのになあ」
「今だからこそ  カケオチという古い手段が通用するんですよ」
「そうか・・・・・なるほどなぁ」と峰元は静かにうなずいた。
  壁に耳あり、障子に目あり・・・・・・・。
            いちぶしじゅう
  この会話の一部始終をたまたま運転免許証の切り替えの為に蜂矢署にきていた鈴木清美が聞いていた。知並みに清美は鈴木信子の妹である。
「いい話を聞いたわ、早速、家にいる姉ちゃんに知らせよーっと」清美は心の中で
そう言いながら、家路に着いた。
「別に、悪気はなかったけどね、たまたま通りかかったら話が聞こえてきたから、つい、聞いてしまったのよ」と清美は家に帰ると、信子にそう言って一部始終を報告した。
「判ったわ、清美ちゃん。」そう言い残すと、信子は何やら奥の方を気にしている。
「どうしたの、姉ちゃん」と清美が聞くと、信子は少し戸惑った様子でこう答えた。
「私、行ってこようかしら舞鶴に・・・・・・」
  そう言うと信子は、荷物を取りに奥の自室に入った。
  清美は信子の心を察したのか、その時、何も言えなかった。
  こうして、信子は、その翌日、卓の故郷の舞鶴に向かって出発したのだった。