快念は、暫くしてその部屋に入ってきて光秀に、こう言った、
「光秀様、お待たせ致しました。この寺も修行僧が多く浸食を共に致しておりましてなぁ、
何せ今は御門跡様の体調が思わしくなく、その者達の修行の様子の見回りや面倒を見ているのは拙僧でごさいましてなぁ。御門跡様の体調を気遣っておられる細川藤孝様や、
遠方の越前からお越し下された光秀様の朝餉が、こんな時間になってしまい、お許しくださいませ。」 
 快念は。そう言って詫びたが当の光秀は全く気にしていない様にさらりと流し・・・
「快念様、その様な事それがし気にも留めてはおりませぬ。ただ覚慶様が、この様な病の
時に、この寺を訪ねた事は少し悔いて0おりまするが・」
 光秀が、そう言った後、その舌の先が乾かぬうちに快念が言葉を切り返してきた・
「光秀様。今さら何を言われるのですか?あなた様は、この寺に何のために、来られのですか、御門跡様の御本復を待ち、この寺を出て御門跡を三好・松永久秀の手勢から幕臣の
細川藤孝様と共にお守りし、いずれは越前・一乗谷に立ち戻り、ご主君・朝倉義景殿に
御門跡様をお引き合わせた上で、正式に室町幕府・第十五代の征夷大将軍として将軍職に
就かせ上洛し 、また室町幕府を中心とした古き良き時代に戻す事こそが、光秀様の
大きな夢ではなかったのではありませぬか?拙僧も及ばずながら御貴殿の大きな夢のならお力添え致しまする。どうか何なりとお申し付け下さいませ。」
  その快念の言葉に光秀は勇気づけられ、忘れれていた何かを思い起こしていた。
「快念様、そうでありましたなぁ、それがしか何故この寺に来たのか快念様が今の言葉を申して下さなければ、それがしは忘れてしまうところだございました。」
 光秀は快念に少し照れながら頭(つむり)を下げ、さらに言葉を続けた。
「快念様それがしは、やはり覚慶様と共に上洛と室町幕府の再興という大きな夢に向っって邁進してまいりまする・幸い、わが朝倉家は鎌倉の御代から続く北国の守護の名家・
主君・朝倉義景殿も今は上洛を渋っておられまするが、覚慶様を越前・一乗谷にお連れすればきっと、それがしの申すことにも耳を傾けて戴ける筈じゃ。旨くいくかどうか。」