そういう経緯で光秀が、この寺に来たのだと快念は思いながら自分の事を堤貸さず打ち明けてくれる光秀が、まるで契りを結んだ兄弟のような気がしていた。
「光秀様、貴殿は拙僧に何一つ包み隠さず話をして下さいました。嬉しゅうございまする
この先、ご門跡様の病がご本復され、この寺を出られる時には三好・松永らの手勢は拙僧が門徒衆と戦って食い止めまする故、貴殿は その先の大きき夢に向かって進まれます
様に拙僧も心からお祈り申し上げまする。」
 快念の言葉は、光秀の心を勇気づけた。 
 光秀は何と出された精進料理を全て平らげ、そそくさと湯に入り寝床に入った、
「今日は何とも忘れられぬ日となったなぁ、消息が判らなかった藤孝にも、この寺で会う事が出来たし、この寺の者たちも快念様はじめ良い方々ばかりじゃ、この先ききっと
このワシの力になってくれるであろう。病のほどは、よく判らぬがワシの見たところ
覚慶様のお身体は、ご壮健そうに見えるが・・・やはり心(しん)の病かも知れぬな」
 光秀は、そう呟きながら、その夜は床につき眠った。

                                      3

 寺の朝は非常に早い、ことに一条院の様な格式のある寺院は尚更である。
「光秀様お目覚めは、如何でございまするか?この寺は修行・鍛錬のため早朝から
経を唱えておりまする。多少うるさいかも知れませぬが、ご官勘弁下さいませぬか。」
 快念は、まず光秀の寝所の襖の外に立ち、そう詫びた。
「快念様、襖をお開け下さい。そんな襖の外で謝られても仕方ありませぬ。それに、
拙者は、その様なこと気にもとめては居りませぬ。寺で経を称えるのは当たり前でございますからなぁ。それにしても昨晩の精進料理は、なかなかの美味手で、ございまししたなぁ。それがしは元々、美濃の山国の育ちであります故、薄味の料理を食する習慣がありますので、京の公家料理も、この寺の精進料理も今のそれがしには、何よりも馳走にございまする。それに越前・一乗谷は海が近いせいか塩辛く、それがしの口には合いませぬ。」