懐中温泉です、
歴史シミュレーションその7
白浜の図書室の窓の外で、波が静かに
寄せては返します。
結は本を閉じ、ノートにこう書きました。
「第二話は、関東の骨組みを立てる話。
戦ではなく、“国を作る戦い”の回。
第三話からは、いよいよ――織田との戦線
に移る。」
そのノートを閉じて立ち上がると、 白浜の坂の
向こうには、湯崎の湯と海が待って
いました。
謙信の上洛戦。
九頭竜川の激闘。
毛利・本願寺との連動。
第三話で描くべき戦の影が、 白浜の海の上に、
薄く重なって見えた気が
しました。
第三話では、「関東の骨組みを整えた謙信が、
西の信長との決戦へ向けて上洛戦を開始する
ところ」までを描いていきます。
舞台は、越前・九頭竜川へ向かうまでの「戦線
の引き方」と、「信長側の決断」です。
第三話 九頭竜川へ向かう影
関東における骨組みが、一通り立ち上がった
ころ。
沼田・厩橋・鉢形・松山
この四城連絡ラインには、それぞれに上杉方
の兵と「公権力」が行き渡り始めていました。
宇都宮・結城は北から。
里見・佐竹は東と海から。
甲斐武田は西から。
北条氏政は小田原に籠り、関東の主導権は
明らかに上杉に傾いていました。
春日山に戻った謙信の前で、関東の地図は
淡い色で塗り替えられていきます。
「関東は、これでよしだ」
謙信は、地図を折りたたみます。
「次は、京である」
言葉の重さは、広間にいた者全員の胸に
落ちました。
反信長同盟という「網」
謙信の机の上には、もう一枚の地図が
広げられていました。
越前・加賀・能登・越中から見て西。
播磨・丹波・山陽・山陰。
そこには、別の線が引かれています。
毛利輝元
本願寺
天正四年に締結された「反信長同盟」
それは今も有効でした。
毛利は、すでに「三道併進策」によって
上洛作戦を開始しています。
吉川元春が山陰道を。
小早川隆景が山陽道を。
水軍は淡路島の岩屋を拠点とし、摂津・
和泉への海上侵攻を狙っていました。
石山本願寺は、摂津に籠り、十数年に
及ぶ信長への抵抗を続けています。
「東から関東の上杉。 西から中国の毛利。
中央には、本願寺の爆弾」
それは、信長にとって「内側からも外側
からも裂かれかねない」網でした。
謙信は、その網を見ながら、ゆっくりと
立ち上がります。
「北陸から、ここに入る」
指先が、越前・加賀と京の間をなぞり
ました。
越後から北陸へ 上洛の第一歩
春日山城の麓には、再び軍勢が集めら
れていました。
その数、およそ七万。
関東に残した兵を差し引いてもなお、
北陸へ出るには充分な数でした。
「加賀・能登・越中・飛騨の兵を合わせれば、
越前へ踏み込むときにはさらに
膨れ上がる」
参議役の一人が言います。
越前と加賀には、すでに一向一揆が
根を張っていました。
信長への恨み骨髄の兵たち。
その者たちが、謙信の動きに合わせて
「北陸側からの反乱」として動き始めて
います。
「上杉勢と一揆勢を合わせれば、
北陸から京へ向かう一本の“槍”に
なり得る」
謙信は頷きます。
「九頭竜川を、戦場にする」
声は静かでした。
ご精読ありがとうございました。
懐中温泉
