「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」 -2ページ目

「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

潜在意識の働きで、あなたは「スーパーなあなた」になるのです。そのための素材・方法も実はあなたの手元にすでに多くあります。ここでは、あなたがそれを見出し、活用するお手伝いをいたします。胎児(あなた)は、胎児(あなた)の夢により進化します。

懐中温泉です、

 

蒸気機関物語―それぞれの幸福―43

 

 

結は、ここまで書いてから、ペンを置きました。

 

「誰のために動いたのか」という題に、

自分で答えられていないことに気づいた

のです。

 

鉱山主のためだった、と書くのは簡単です。

 

水が減れば、より深く石炭を掘れる。

 

石炭を売れる。利益が生まれる。

 

坑夫のためだった、とも書けます。

 

水が減れば、坑道に入り、仕事を続けられる。

 

町のためだった、とも言えるでしょう。

 

石炭は、家の暖炉を温め、鍛冶屋の炉を

燃やし、ほかの産業の燃料になる。

 

しかし、どの答えも少しだけ危うい。

 

機械が坑夫を助けたからといって、

坑夫の仕事が楽になったとは限らない。

 

水を汲み出せば、以前より深い坑道へ入れる。

 

より多くの石炭を掘ることが求められる

かもしれない。

 

危険が消えるのではなく、別の場所へ

移ることもある。

 

町が豊かになったとしても、その豊かさが

誰に届くかは別の問題です。

 

結は、ノートに二つの欄を作りました。

 

左に「機関が可能にしたこと」。

 

右に「機関が新しくしたこと」。

 

左には、こう書きます。

 

坑内水を排出する。


より深く掘る。


石炭を採掘し続ける。


人と馬による排水の負担を減らす可能性。

 

右には、こう書きます。

 

より深い坑道。


より長い労働。


燃料を焚き続ける仕事。


機械の故障や事故への依存。


石炭採掘の拡大。

 

結は、二つの欄を見比べました。

 

どちらか一方だけを書けば、物語は簡単に

なる。

 

蒸気機関は人を救った、と書く。

 

あるいは、蒸気機関は人を苦しめた、と書く。

 

けれど、歴史はそういう一つの答えに、

なかなか収まらない。

 

1712年の機関は、まず坑道の水を上げる

ために動いた。

 

その目的は、はっきりしている。

 

しかし、その一往復が長い時間のなかで

何を生むかは、その場にいた人々には

まだ見えなかったでしょう。

 

黒い梁が上下する。

 

そのたびに水が上がる。

 

水が減れば、人はさらに地下へ入る。

 

地上では、石炭が増える。

 

石炭が増えれば、火が増える。

 

火が増えれば、また蒸気が生まれる。

 

結は、窓の外を見ました。

 

夕方の空に、近所の家の煙が細く上がって

います。

 

誰かが夕食を作っているのでしょう。

 

小さな火も、大きな火も、水を温める。

 

ただし、その火がどこから来たのかまで

考えると、物語は急に深くなります。

 

結は、最後にこう書きました。

 

1712年の機関は、未来のために動いた

のではない。


まず、目の前の坑道から水を出すために動いた。

 

しかし、その一往復は、未来を動かし始めた。

 

1712年、ニューコメン型の最初の実用機関は、

ダドリー城近郊の炭鉱に設置されたと

されます。

 

記録では、直径21インチ、長さ約8フィートの

シリンダーを備え、毎分およそ12往復して、

深さ156フィートから10ガロンの水を揚げた

と伝えられています。

 

ただし、最初の設置地点をめぐっては、ダドリー

近郊のどの炭鉱であったかに議論も残ります。

 

第二十六話 上がる梁、下がる梁

 

巨大機関が繰り返す呼吸

 

結は、古い柱時計の振り子を見ていました。

 

書斎の隅にある、小さな置時計です。

 

祖父母の家から引き取ったものですが、

いまは電池で動いています。

 

それでも正面のガラスの向こうには、飾りの

ような振り子があり、ゆっくり左右に揺れて

いました。

 

右へ。

左へ。

右へ。

左へ。

 

結は、その往復を見ていて、ニューコメン機関

の梁を思い出しました。

 

上がる。

下がる。

上がる。

下がる。

 

それは回転ではない。

 

後の蒸気機関や機関車の車輪のように、

勢いよく回り続ける運動ではない。

 

ニューコメンの大きな梁は、いつも同じ場所まで

上がり、同じ場所まで下がる。

 

一往復。

また一往復。

 

水を上げるためだけに。

 

 
ご精読ありがとうございました。
 
懐中温泉