セイヴァリーの話から | 「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

潜在意識の働きで、あなたは「スーパーなあなた」になるのです。そのための素材・方法も実はあなたの手元にすでに多くあります。ここでは、あなたがそれを見出し、活用するお手伝いをいたします。胎児(あなた)は、胎児(あなた)の夢により進化します。

懐中温泉です、

 

蒸気機関物語―それぞれの幸福―31

 

 

機械は、発明者の頭のなかだけでは動かない。

 

作る人。

運ぶ人。

火を焚く人。

修理する人。

 

金を出す人。

使う人。

そして、故障した日に困る人。

 

そういう人々がそろって、初めて機械は「使える

もの」になる。

 

結は、湯の沸いたやかんから湯を急須に注ぎ

ました。

 

湯気が手の甲に触れます。

 

熱い。

 

ほんの少しなのに、思わず手を引いた。

 

「蒸気は、きれいなだけじゃない」

 

結はそう言いました。

 

湯気は温泉では人を包む。

 

けれど、狭い容器に閉じ込められれば、

熱く、危険で、扱いにくい。

 

それでも人は、蒸気を使おうとした。

 

坑道の水を上げるために。

 

もっと深く掘るために。

 

今日の仕事を止めないために。

 

次の冬に、家で火を焚くために。

 

結は、新しい頁に二つの名を書きました。

 

トマス・セイヴァリー

トマス・ニューコメン

 

その二人は、同じ時代のイングランドで、

同じように地下水という困りごとの近くにいた。

 

けれど、同じ答えを出したわけではない。

 

一人は、蒸気の圧力をより直接に使おう

とした。

 

もう一人は、蒸気を冷やして、大気の力を

使おうとした。

 

結はまだ、その二人を「先に成功した人」と

「より成功した人」には分けたくありません

でした。

 

まずは、セイヴァリーの話から始めよう。

 

火と水を使って、坑道の水に挑もうとした人。

 

その機械が、なぜ「鉱夫の友」と呼ばれたのか。

 

そして、その友は、どこまで人を助けられたのか。

 

結は、ページの上に次の題を書きました。

 

トマス・セイヴァリー


――火で水を上げようとした男

 

第十九話 トマス・セイヴァリー

 

火で水を上げようとした男

 

結は、帰宅してからしばらく、台所の鍋

ばかり見ていました。

 

湯を沸かす。

火を止める。

ふたを少しずらす。

湯気が出る。

 

それだけのことを、以前よりゆっくり見るよう

になった。

 

湯を沸かしている最中、宅配便が届きました。

 

結は火を弱めるのを忘れ、玄関で受け取りに

少し手間取りました。

 

戻ると、鍋のふたが小刻みに鳴っていました。

 

かた、かた、かた、と。

 

「ごめんね」

 

結は、思わず鍋に言いました。

 

火を止め、ふたを持ち上げる。

 

白い蒸気が顔へ向かってきたので、結は

とっさに身を引きました。

 

ほんの短い間でも、熱い蒸気は人を驚かせる。

 

湯気は、眺めるときには柔らかい。

 

けれど、容器のなかに閉じ込められれば、

急に別の顔を見せる。

 

トマス・セイヴァリーは、その別の顔を使おう

とした人でした。

 

彼について分かっていることは、思ったほど

多くありません。

 

生年も、若いころの詳しい生活も、すべてが確か

ではない。

 

軍事技術に関わった人物であり、「キャプテン・

セイヴァリー」と呼ばれたこと。

 

いくつもの技術上の考案に関心をもち、十七世紀末、

火の力で水を上げる機械を世に出そうとしたこと。

 

そして彼が、自分の機械を「鉱夫の友」と名づけたこと。

 

結は、その名をノートに書きました。

The Miner’s Friend
鉱夫の友

 

よい名前だと思いました。

 

友とは、助けてくれる者のことです。

 

困っているときにそばへ来て、重いものを一緒に持ち、

どうにもならないときに別の方法を考えて

くれる者。

 

坑道で水に悩む人々にとって、火で水を上げる

機械が本当に動けば、それはたしかに友だった

でしょう。

 

 
ご精読ありがとうございました。
 
懐中温泉