懐中温泉です、
歴史シミュレーションその2
謙信が、いま再び「義によって」大軍を
動かそうとしていました。
しかし、その義は昔のそれとは違います。
足利将軍家の再興。
仏法・正法を中心とする中世的秩序、
「美しき流れ」の復権。
個人の私欲ではなく、一国の欲でもなく、
「天下に一度、筋を通す」ための軍でした。
広間の座敷に地図が広げられます。
越後 三国峠 上野・沼田 厩橋
武蔵の鉢形・松山 そして、小田原。
「まず、関東を平らぐ」
謙信はゆっくりと指で線をなぞりました。
「北条氏政を討ち、後顧の憂いなく、京へ
向かう。」
その言葉に、誰も逆らいません。
春日山に集った五万六千は、関東平定の
ための軍。
三国峠を越え、上野を貫き、武蔵を経て、
小田原を包囲する。
この時点で、関東の情勢はすでに大きく
傾きつつありました。
上野・信濃・武蔵・下野。
その各地の豪族たちは、すでに上杉の旗に
馳せ参じる素地を持っています。
下野の宇都宮・結城。
上総の里見。
常陸の佐竹。
「北条と、織田につくもよし。
上杉と、義に与するもよし」
彼らにとって、いまはそういう時期でした。
「宇都宮・結城には、すでに使者をやって
います」
側用人が報告します。
「里見・佐竹にはどうか」
「反北条の盟約、成るべく段取りにございます」
謙信は頷きました。
「よい。 戦わずして道が開けるなら、それに越した
ことはない。
ただし――」
言葉を切り、広間にいる全員を見渡します。
「いざというとき、決戦を避けぬ構えだけは、
崩してはならぬ」
ご精読ありがとうございました。
懐中温泉
