湯治のリズム | 「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

潜在意識の働きで、あなたは「スーパーなあなた」になるのです。そのための素材・方法も実はあなたの手元にすでに多くあります。ここでは、あなたがそれを見出し、活用するお手伝いをいたします。胎児(あなた)は、胎児(あなた)の夢により進化します。

懐中温泉です、

 

伊香保湯治・四日目

 

 

四日目の朝、結(ゆい)は、いつもよりさらに

ゆっくりと目を覚ましました。

 

時計を見ると、七時半を少し回ったところです。

 

ここ数日、伊香保の黄金の湯に浸かってきた

せいか、脚の冷えはかなり和らぎ、石段を

上り下りしたときの「ズキン」という痛みも、

ほとんど出なくなっていました。

 

ただ、胸の奥には、ほんのわずかな重さの

ようなものが残っています。

 

「ここで欲張ると、きっと湯あたりする」という

予感が、身体のどこかで鳴っていました。

 

ちゃぶ台の上のノートを開き、「伊香保湯治

 四日目」と書き込み、「湯あたり警戒日。

湯は一回か、入らずに休む」と大きく

記します。

 

朝食は、前日までと同じく、米一膳と味噌汁、

それに少しの漬物だけにしました。

 

味噌汁の具は、豆腐と白菜、葱を少し。

 

こんにゃくは、この日はやめておきます。

 

「同じものを、少しずつ量だけ調整しながら

食べる」ほうが、湯治らしいリズムを保てる

と感じていたからです。

 

食べ終わると、結は湯殿へ向かわず、

そのまま布団に横になりました。

 

今日は、朝湯をあえて見送ります。

 

これまで三日間、二回ずつ湯に入り、

身体は確かに温まってきましたが、

その反動がどこかで出てもおかしく

ありません。

 

「湯治は、湯に浸かることよりも、

“湯に浸からない時間をどう過ごすか”

のほうが、むしろ大事なのかもしれない」

と、結はぼんやり考えました。

 

午前中は、共同台所の様子をじっくり

観察することにしました。

 

少し遅めに顔を出すと、すでに何人かの

湯治客が、鍋や釜を火にかけています。

 

年配の女性が、土鍋で米を炊き、

その隣で味噌汁を温めている光景は、

ここ数日ですっかり見慣れたものに

なっていました。

 

「おはようございます」と挨拶すると、

「今日はお湯はお休み?」と尋ねられ

ました。

 

結が「四日目なので、少し控えめに

しようと思いまして」と答えると、女性は

「そうそう、三日目、四日目あたりで無理を

すると、あとがしんどくてね」と笑いました。

 

湯治の経験者たちは、自分なりの

「湯あたりの境目」を身体で知っている

ようでした。

 

昼食は、簡単なおじやにしました。

 

前日の残りご飯を味噌汁に入れて

煮立たせ、白菜と葱を足して、卵を一つ

だけ落とします。

 

とろりと固まりかけたところで火を止め、

茶碗によそいました。

 

米一膳そのまま食べるよりも、胃に

やさしく、身体の奥まで温まる感じが

します。

 

食後、部屋に戻ってノートを開き、

「昼食 味噌おじや(米少なめ) 

卵一個」と記録しました。

 

その下に、「湯はまだ入っていない。

脚は軽いが、頭が少しぼんやりしている。

これは“悪いぼんやり”ではなく、

“休めと言われている感じ”」と書き添えます。

 

午後は、石段街を短時間だけ歩くことに

しました。

 

いつものように上から下まで往復する

のではなく、宿の前から十数段だけ

上り、踊り場のベンチに腰をかけるだけ

にします。

 

観光客たちがソフトクリームや饅頭を

手に歩いていきますが、結は今日は

眺めるだけにしました。

 

風が少し冷たく感じられたので、早めに

宿へ戻ります。

 

部屋で羽織を重ね、温かい番茶を

淹れて、ノートにゆっくりと文字を

刻みました。

 

「湯に入らない日を一つ挟むことで、

七日間全体のリズムが見えてくる。

走り続けているときには気づかない、

“余白の時間”」。

 

夕方、身体の状態をもう一度確かめます。

 

脚の冷えはほとんどなく、膝の違和感も

出ていません。

 

胸の重さも、朝より少し軽くなっていました。

 

それでも、結は「今日は湯に入らない」

という最初の判断を変えませんでした。

 

一度「休む」と決めた日を、そのまま守る

こともまた、自分の身体との約束のように

思えたからです。

 

夕食は、昼の味噌おじやの発展形にしました。

 

土鍋に水を足し、白菜と豆腐を加えて

軽く煮込み、味噌で味を整えます。

 

ご飯は入れず、汁物として茶碗に盛りました。

 

米は、小さなおにぎりを一つだけ。

 

具は梅干し一つだけで、海苔も巻きません。

 

食後、結はノートの「今日のからだと心」の

欄に、こう書き込みました。

 


「今日は湯に入らず。脚の冷えはなし。

胸の重さは、朝より軽くなった。

 

少し退屈さを感じたが、その退屈をやり

過ごすうちに、頭の中の“しなければ

ならないことリスト”が静かになってきた。」

 

最後に、もう一行だけ付け加えます。

 


「湯に浸からない四日目は、伊香保の湯と

“距離を置いて向き合う日”。

 

この余白があるからこそ、五日目以降

の湯が、また新しく感じられるのだと思う。」

 

こうして、湯をあえて休むという選択を

挟みながら、結の伊香保湯治四日目は、

静かな余白の一日として過ぎていきました。

 

 

ご精読ありがとうございました。

 

懐中温泉