気の枕 | Use Pocket

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大丈夫。気付けばそこにいる。
そう、いなくていいわお前なぞ、
と言われぬ限りきっとあなたのそばにいる。
そんな人に私はなりたい...とは思わない。
私がなりたいのではなく人のそばには
必ずそういう人が付いている。
それに気付くか気付かないか、ただそれだけ。

 

 

頭を抱えたまま

膝を少し丸めたまま

左半身を下向きにして眠るそれ

深い眠りに就いているそれ

 

横で丸まるそれは夢の彼

 

気になることや

気掛かりなこと

連綿の悩みに襲われて

中途半端な寝不足を続ける私に

眠気を配るそれは私の彼

 

安心しきった猫のように

電力の切れた機械のように

昏昏と耽る就眠

 

ねぇ

その安眠は何が齎してくれるの

 

疲労なのかしら

無頓着さや無関心さなのかしら

私の存在なんてことも

あったりしてくれるのかしら

悩みなんてなかったりするのかしら

 

どうせ今日もいつも通り

彼より後に眠りに就いて

彼より先に目が覚める

 

おはようといって

くしゃくしゃになった

髪とパジャマと顔で休日の日差しに曝される

 

寝ぼけ眼のまま

寝具の中でもぞもぞしたまま

安眠の秘訣を聞いてみる

 

気になることや

気掛かりなこと

連綿の悩みに襲われて

中途半端な寝不足を続ける私に

眠気を配る私の彼はこう言うの

 

「君と同じだよ

 気になることや

 気掛かりなことが

 終ぞ尽きたことはないよ

 

 だから眠れる

 昏昏と就眠に耽ることができるのだけど

 

 勿論全て相俟っているよ

 疲労も

 無頓着さや無関心さも

 君の存在も 

 

 でも

 気になることや

 気掛かりなことは

 終ぞ尽きたことはないよ

 

 だってそれが活動の源

 それこそが行動の推進力

 この上ない人の特徴

 

 気になることがある内だけさきっと

 気掛かりなことがある内だけだよきっと

 僕らの心なんて良くも悪くも

 連続する事象で保たれてるようなもの

 事象に囲まれてるから続いているようなもの

  

 よくなる可能性を模索すること

 よくしようと算段をつけること

 逃れようと周到に謀ること

 やりようがまだあるのに無駄に落ち込むこと

 そんなものらがここまで続いたのは

 

 気になることや

 気掛かりなことが

 終ぞ尽きなかったから

 

 人として未だ動いているのは

 あれやこれや思うことが

 絶えなかったから

 

 気になる気掛かりこそ

 やりようの出処

 意義の見出し処

 人の人たる見せ所

 

 これが尽きた方がきっと眠れないよ

 いやそれどころかその時は

 寝たきり起きないかもしれない

 

 気になる内は眠れるよ

 気になる内しか眠れない

 

 眠りを妨げていたはずの気は

 すやと眠る為の枕ともなるよ」

 

抜け殻の布団はまだ温かい

底を突いた湯呑はまだ温かい

眠れぬはずの瞼はまだ重い

なんだか今日はもう少し

眠れそうな気がして

彼の横で丸まって何も映らぬ夢を見る