佞人の文通 | Use Pocket

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大丈夫。気付けばそこにいる。
そう、いなくていいわお前なぞ、
と言われぬ限りきっとあなたのそばにいる。
そんな人に私はなりたい...とは思わない。
私がなりたいのではなく人のそばには
必ずそういう人が付いている。
それに気付くか気付かないか、ただそれだけ。

 

 

手紙を交換するんだ

今度

 

文無しの

 

手描きの絵も織り混ぜた

手紙を交換するんだ

 

人日と上巳と端午

七夕と重陽のその日に

 

節句を大事にするのではなく

節句をきっかけにして

互人との交流を大事にするんだ

 

催し事とはどれもこれもが

そういうものであったはずで

 

生きてる者の生きてる形と生きてる想いが

生きてる世では優先される

 

ならば

なればこそ

節句を大事にするのではなく

節句をきっかけにして

互人との交流を大事にするんだ

 

つらつらと心言の葉脈綴るは

文無しの

 

過たず

目的も伝言もないことを

本懐として

 

支持も助力も心配も

憂さも不定愁訴の伝播も

狙うことなく

 

日々の刻々の

現実から空想から心理までのあらましを

 

日の出から日の入りを告げるように

 

近隣の五差路の信号が

一日何度点滅したかを伝えるように

 

二級河川のちっこいちっこい

逆ローゼ調の橋の下を通るせせらぎの音こそが

穏やかに人の心を雪ぐのだと説くより

その水量と光の反射と

棚引き揺れるハヤの稚魚の数を届けるように

 

何を伝えたいのか

如何に伝えようとしているのか

結局何を言いたいのか

相手取ってつまりどうしたいのか

言葉はあれど文は無く

絵心あれど意図は無く

 

しかしそれでも十分で

時にそれでも十二分

文通としては分相応

 

儘きらきらとせせらぐ川も

その水流は決して穏やかになく

些細なれど渦巻きもすれば

遡行逆流と翻るところもある

 

拡大すれば歪みというのは何処にでもある

人の愚見からすれば

拡大しても歪みがなければそれこそ歪みともなって

結局清々伽藍堂とは相至らない

 

一本の道筋を立てて

三本に纏めたような我欲を立てて

五本の指の様に切るにも切られぬ執着を立てて

こんにち憤懣滾る想いの丈を

こんにち長閑に孕む野望の丈を

慟哭怒哭と向こうに刺したところで

それが一進となるわけでもない

 

それを一切合切省いたところで

省いたつもりであったところで

その文からは淀みも遡行も

思いの丈も一縷の望みも醸し出る

 

それくらいで丁度いい

それくらいがいい加減

 

葉の裏の芋虫を見つけるように

推理小説の犯人を予想するように

今は亡く口も無く

されど未だ音に聞く

彫刻家や作曲家や惨憺と戦死した兵士の

魂を汲み上げるように

 

勝手に感じ取って

馳せるくらいのやり取りを

 

過たず

口承文学より欲深く

書承文学としては味気なくを

本懐として

それにて調和することを

本道として

手紙を交換するんだ

 

 

手紙を交換するんだ

今度

 

文無しの

 

手描きの絵も織り混ぜた

手紙を交換するんだ

 

人日と上巳と端午

七夕と重陽のその日に

 

蜜柑は揉むと美味しくなると聞いたので

胡瓜も球菜もとんぶりも

揉むに揉んで食べたと書いて

感想も推奨も究明も追記せずに垂れ流し

 

シャボンだまがやねまでとんだ

シャボンだまはうまれてすぐにとばずにきえた

シャボンだまをうみだすわっかはどこに

とばすなにかもいっしょにきえた

シャボンだまがうまれずとばずきえずにとんだ

とんださきのそこにはあった

そこにはまるまるすべてがあった と

危惧も哀愁も心境の説明もなし

ただお日様の匂いに

脳を預けたら出てきた

その平仮名と絵をそのまま垂れ流し

 

日々の刻々の

現実から空想から心理までのあらましを

 

日の出から日の入りを告げるように

 

近隣の五差路の信号が

一日何度点滅したかを伝えるように

 

二級河川のちっこいちっこい

逆ローゼ調の橋の下を通るせせらぎの音こそが

穏やかに人の心を雪ぐのだと説くより

その水量と光の反射と

棚引き揺れるハヤの稚魚の数を届けるように

 

手紙を交換するんだ

文無しで

 

何を伝えたいのか

如何に伝えようとしているのか

結局何を言いたいのか

相手取ってつまりどうしたいのか

言葉はあれど文は無く

絵心あれど意図は無く

 

しかしそれでも十分で

時にそれでも十二分で

文通としては分相応で

 

伝えられたらそこだけ気に留める性分

言われたらそこだけ無駄に気を回す性分

一片に注力すれば必ず何処かはおざなりになるもの

 

私たちの身体は

それが出来る身体だっただろうか

均衡を崩したままでも

立ち続けることが出来る身体だっただろうか

それが当たり前になったとしても

怪我なく病なく居られる身体だっただろうか

心は身体の一部だよ

 

それほど広く

それほど甲斐性無く

有耶無耶というあるがままで

互いのすべてを感じ取ることにしたんだ

 

手紙を交換するんだ

 

文無しの