窓の外は曇り。5月にしては気温が低い。
陽の光が射し込まない居間には進展も絶望もない。
そしてここにいる女も。
いずれは全てが収束し、
きっと真っ黒な点みたいなものになるだろうが、
この女の為にもそうなって欲しいが、
居間の外では、
色々な事が拡がったり萎んだり、
延びたり縮んだり、長くなったり短くなったりが、
連日連夜、世界中のあちこちで、
果てしなく繰り返されているのだ。
そして私の目の前にいるこの女も多分そうなのだ。
兎も角、居間の女は食後に、私の大好きな珈琲を飲む。
女は手筈通りにセットし準備をする。
ゴールが見えてるからノンストレス。
そして私は、珈琲一杯がもたらす幸せ、と言う、
秘密めいた、確固たる約束が守られる。
勿論女と直接的な約束を交わした事もなく、
目に見える形もなかったけれど、
女のその気持ちと行動は、
私からすれば信頼であり心からの安らぎだった。
いつも本当にありがたかった。
女が、
熱々の珈琲をマグカップに注ぎいれるとき、
私は深い眠りに入ってゆくような、
幸福感満載の安らぎを覚えた。
耳に入ってくる乾いた音が私の寂しさを紛らわせてくれたのだろうか?
それよりか、
マグカップの口から立つ湯気をじ~っと見つめていると、
何を思ったのか、いきなり女がそのマグカップを包みこむ。
両手ですっぽりと、
雲が太陽を覆い隠すように、優しくと。
きっと女の手には、更なる暖かさや安らぎ、温もりがあったと思う。
それらに形はないけれどそれが心でないか?
そしてその心が愛する事ではないか?
私は珈琲を愛してやまない、
ただの通りすがりの女、珈琲女だよ。
相変わらずこの名前は気に入ってはないし、
ご挨拶も遅れましたが、その時だった。
パシャリとなり、
女がこの写メをとり、珈琲を一口啜ったとき、
私は、体内で固まっていた血が一気に動き出すのを感じたのだった。
身体の奥底で形ないナニかが、跳ねる感じがした。
反り返っては、飛び上がり、
まるで踊り狂って暴れているような野性的で本能的なものがわかった。
小さな黒い点が巨大な塊となって私の、、、。
完
通りすがりの女シリーズ