憲法九条を世界遺産に / 太田光/著 中沢新一/著

学生の頃、火曜日深夜1時からやっていた爆笑問題のラジオをほぼ欠かさず聴いていた。ネタも面白かったが、太田が語る時事や最近読んだ本の話など、彼の考え方に共感する部分が多かった。ラジオは現在も続いているらしいが夜中のラジオを聴くほど生活に余裕も無ければ、そもそも今住んでいる地域には電波が届いていない。近年の太田はお笑い芸人というよりも、世に言うところの文化人のように、政治や社会問題への積極的な発言が目立つ。正直その活動には違和感を覚えないわけではない。考え自体には共感する部分も多いが、お笑い芸人としていかがなものかという気持ちがないわけではない。しかし、本書を読むと太田氏の強い決意を読み取ることが出来る。彼は決して格好つけて、政治的発言を繰り返しているわけではない。むしろ、自分の活動に矛盾を抱えながらそれでも言わずにはいられない何かがある。それは社会にコミットしようとする覚悟である。芸人であるならば、古典落語のように芸の中でそれを表現するのが最もよいと思うと太田氏自身も自らの芸の無さを嘆いている。読んでいるとまだまだ、表現が研ぎ澄まされていないというか、感じたものを推敲せずに述べていると感じる部分もある。しかし、中沢氏が述べている通り、どんなに洗練された文章であっても、誰も見ることのない文芸誌の中の文章であるならば、未完成であってもTVというより大きな枠の中での表現の方が、多くの人々を導く可能性を秘めている。しかし、影響が大きい程、表現するものには覚悟がいる。太田氏が、「極論をいえば、僕の芸の無さが、人を死に追いやっているとも言える」と述べているが、実はそれはあながち極論ではない。しかし、その覚悟も無く、発言を垂れ流している人間のいかに多いことか。人を傷つけ、死に追いやる可能性を自覚した上で、それでも表現しなければいけないことがあるとの覚悟のもとに、TVに出続ける太田光の今後の活動を、心してみる必要がある。

 本書の主題、憲法の問題に関しては、ここでは憲法といっても9条のことになるのだが。憲法9条は現実に矛盾している、しかし、その矛盾を自覚した上で、だからこそこの奇跡的偉業を矛盾を抱えた上でも守り続けていかなければならないという主張になっている。9条は素晴らしいから守ろうという護憲の精神は、そのぶん反論しやすい。むしろ矛盾だらけの奇跡的存在だからこそ、守り通さなければならないという主張の方が確かに力強い。