ナイブズ アンド チョコレイツ | hinata BLOG

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お花や詩ナド

歩いていて、ふと、肩から下げているトートバッグに鋭利なナイフが裸で入っているのに気付いた。


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此処は、田園の中に建てられている大型のショッピングモール。
芝生の上に置かれた、透明のエスカレーターからは、うっとりするような美しい景色を臨むことができる。空気は澄み、どこからか甘い、花のような、果実のような香が漂ってくる。鳥の歌が、耳にやさしく聞こえてくる。
向こう側には、VIPリゾートの一郭が見える。婉曲したピカピカしたホテルと背の高い木が、優雅にそびえ立ち、木の間には、橋のように通路が渡り、黒く光っている。



広々としたショッピングモールの通りは、人がごった返し、歩くとすれ違い様に肩と肩がぶつかり合った。


見ると、誰もが皆片手にナイフを持っている。スーツ姿のリーマンも、日曜日のお父さん風な格好のおじさんも。歩き煙草のように手にしたナイフをぶらぶらさせて平然と歩く若者や、目を血走らせ、突然刃物を振り上げてくる中年男もいた。


そこら中に剥き出しのナイフが行き交う中、私は身をよじって避けなければならなかった。
また、私のバッグに入っている刃が、バッグからはみ出して人や自分を傷付けないよう、必死にバッグを脇で押さえつけていた。

しかし、人混みに揉みくちゃにされながら、ナイフが鞄の中で暴れ、だんだんと刃先が私の方に向いてくるのを感じた。


いつの間にかナイフはバッグから飛び出し、右掌と右腕には無数の傷が刻まれ、血にまみれていた。



人を傷つける刃物は、誰もが持っている。私の中にも潜んでいる。
一口チョコレートを食べると、たて続けに幾つも口にしたくなる甘い誘惑のように、他人の心無い一言に誘発され、衝動に駆られて、刃物を手に取りたくなる時がある。
しかし、使えば必ず後悔する。


人を殺そうとして、使っても、使わなくても、同時に私は血を流す。いつまでも取り扱いには不慣れである。それに、刃物を持つ手は、自分の愚かさをより浮き立たせ、自分をえぐるのだ。
人知れず、ひっそりと、いつも、血が流れている。


心の平安を願っているのに、常に血が流れているのだ。