ゆっくりと開かれた黒い瞳。
その濡れたような輝きに目が奪われた。
焦がれた宝物は今、手の届く場所にある。
もう二度と触れることはないと諦めていたその存在が手を伸ばせば届く場所に―――。
そっと指先を伸ばしてみる。
さらりと艶やかな黒髪。
記憶のままのその感触に想いが溢れる。
―――だが。
託生の表情が硬く強張る。
その変化を目の当たりにして。
そうだよな、と。
今更思うまでもなく判りきっていた反応に、けれども言葉とは裏腹にギイは大きく衝撃を受けた。
託生にとってギイは記憶を失ったかつての恋人、つまりは過去の人。
それから恐らくは沢山の涙を流して、幾つもの傷を抱えて。
そして新たな恋をして、それは愛へと変わってーーー。
きっと託生は今の人生を幸せに生きているに違いない。
通り過ぎた過去の人が何故、今更ーーー、そう思われても仕方ない。
けれども。
ギイにとっては今更なんかではない。
過去を思い出してから求め続けてきた人。
託生の幸せを考えて諦めようともした。
だけど出来なかった。
焦がれて、焦がれて。
―――もうおかしくなる。
大きな瞳を見開いてギイを見詰める託生。
その薄く開かれた唇に。
ギイは自らのそれを重ねた。
あの頃と変わらない柔らかな感触。
そっと合わせただけのくちづけは、あっという間に深くなる。
ギイは飢えを充たすかの如く貪った。
「・・ど、して・・?」
は、あ、と。
乱れた呼吸を吐き出しながら揺れる声で訊ねられて。
「―――ごめん、託生。」
ギイはそうとしか答えられない自分に眉を寄せた。
「俺、もう、限界なんだ―――。」
ギイは震える指先を託生のシャツのボタンに伸ばした。
「託生が欲しい―――。」
こんな勝手な俺を、おまえは憎むだろう。
それでもいい。
愛されないなら憎しみでいいから。
おまえの心の中に居させて欲しい。