それらすべて愛しき日々。 オマケ 5 (fin.) | usatami♪タクミくんシリーズ二次創作小説♪

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鼻歌交じりの浮かれっぷりで書類の山を片付けていく御曹司をチラリと見遣り、島岡は溜め息を洩らした。
勿論、それと気取られぬ様用心深く、である。
それなのに―――。

「なんだよ?何か言いたいことでもあるのか?」
素晴らしい目敏さで即座に突っ込まれる。
全く、この勘の良さ・・・。
ビジネスのあらゆるシーンで役立つのは間違いないが、こちらに向けられるとやり難いことこの上ない。

「いいえ。ですが・・・随分ご機嫌ですね?日本に出発前とは別人の様です。」
「しっかり託生補給してきたからな。」
いいえ、と否定しつつもキッチリと嫌味を言ってくる島岡に、だが、ギイは悪びれることなく答える。
いっそ清々しい程のその態度。
「おや、よろしいのですか?そんなに堂々と。」
「構わないさ。本当のことだ。俺は託生がいないと使い物にならないからな。そう報告しとけよ。」

ギイの言葉に島岡は軽く肩を竦めてみせた。
島岡がギイの補佐に回された理由。
それをギイは監視と思っているのかも知れないが・・・。
だが、確かに。
今回の件は報告しなければならないだろう。

「そうさせてもらいます。」
・・・・それにしても。
「あちらに調査の人員を出すなんて。託生さんに知られたら嫌われてしまいますよ。」
素朴な意見を言ってみる。
誰だって疑われるのは気分が悪いものだ。
「それは・・・悪いとは思ってる。けどっ、託生のこと気になるだろ?!」

確かに。
託生が帰国してからのギイは尋常でない状態ではあった。
大袈裟ではなく、仕事も手に付かないほど。
抜きん出た能力を保持しているが故にあからさまなミスこそ無かったが、彼の能力を鑑みればもっと処理できるはずだ。
ギイをよく知る島岡には明白の事実。
ついでに言えば彼の父親にも。

単純に託生の不在による喪失感と、更に。
ギイの放った調査員のもたらした報告に動揺した結果である。
それが日本から帰ってきての、この浮かれ様。
つまり。
「・・・・首尾よくいった、ってところですか。」
「んー?まだまだ、かな?これからじっくり・・・って訳で。近いうちに託生のとこ、また行くから。
―――ですよねぇ。

報告書に書かれた内容。
それは帰国した葉山託生を取り巻く周囲のざわめき。
会って変わったのは、やはりギイだけではなかった。
託生も。
周囲をざわめかせる程に変わったのだ。

かといって今すぐどうこう、という様な深刻な状況ではない。
にもかかわらず。
気が気ではなくなってしまうこの人はもう、すっかり恋の病に毒されてしまっているのだ。
“最初が肝心だろ?!”
そんな捨て台詞?にほだされて、日本での仕事を斡旋した島岡。
我ながら甘い、と思う。
だが。
使用前、使用後のこの変わり様。
ロスした以上の仕事をこなせているのだから、結果は自ずと出ているのだ。
何よりも。
顔付きが変わった。

託生と引き離された期間、ギイは死んでいた。
肉体は生きて活動してはいたが。
心は生きてはいなかった。
泥の中に沈み込みそうになる想いを抱えて、それでもギイを前へと押し出していたのは。
ただひとつの望み。
蜘蛛の糸ほども細く頼りない一筋の希望。
崩れそうになる精神と戦いながらも信じ続けた、だからこその今のこの貌があるのだ。

出来るなら。
力の及ぶ限り守ってやりたい。
そんな風に思うなんて。
―――やはり自分は相当に甘い。

「ちなみにどんな作戦なんですか?参考までに教えてください。」
島岡の言葉にピタリ、固まって。
くるりと振り返ったギイ。
「ああ、そうだった。この書類なんだけどな・・・。」
あからさまな話題転換。
つまり話す気はない、ということか。


島岡からの質問にギイは話を逸らしたが。
それは作戦なんて、とても言えたものじゃなかったから。
ただ、居ても立ってもいられなくなって。
気付いたら託生のもとへと向かっていた。
大学へ行ったのはこの目で確かめたかったから。
そこで見た現実に心が焦らされた。

本人は例によって例の如く、全く気付いてない様だったが。
託生に向けられる視線のなんと多いことか。
確認した途端に溢れだす独占欲。
――誰にも、欠片も、見せたくはない。
身を焦がす衝動を抑えたりはしなかった。

何と思われても構わない。
託生の傍には俺が居る。
その事実を知らしめるだけだ。
・・・時間をかけて、ゆっくりと。
信頼できる味方を得るため、多少の労力は厭わない。
どんな奴が託生の近くにいるのかチェックもしておきたいしな。
懐に潜り込んで少しずつ懐柔していくのだ。

「よしっ、島岡。さくさく処理していくからな。そんでもって空いた時間に日本行きの手配、よろしく。」
「はいはい。了解しました。」
ギイの要求に苦笑で答える島岡。
だが、やはり。
一言は忘れない。

「そんなにやる気に溢れてるならもっとこなしていただけそうですね。いやぁ、良かった良かった。」
まるっきりの棒読みでのこの台詞。
しかも。
取って付けられた読めない笑顔がとても怖い。
「・・・・島岡?」
「ご心配なく。義一さんが滞りなく託生さんにお会いできるよう、この島岡、微力を尽くされていただきます。とりあえず。こちらの書類の山もサクッと、お願いしますね。」
指し示した後方にそびえる山は、先程処理していたものの二倍相当。
更には。
「明日からのスケジュールもより濃密なものに組み替えておきます。」
楽しみにしていてくださいね、とにっこりと笑う島岡。
そんな無理しなくてもいいぞと
つい言いたくなるのをぐっと堪える。
これも託生に会いに行くため!
「・・・っ、任せたからな。」
ギイの意地である。

―――くそ、島岡。お前、実は鬼だろ?!



なにはともあれ。
この時のギイの計画が実を結び井上門下生の中でギイの存在が浸透して、それによって『井上門下生の心得』なるものが脈々と受け継がれていくこととなる。
それはそう遠くない未来の出来事。