それらすべて愛しき日々。 オマケ 4 | usatami♪タクミくんシリーズ二次創作小説♪

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タクミくんシリーズの二次創作です。
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“今度ギイが来たら時間とるように言って。
みんなで会おう。”

政貴の言葉に少し複雑な貌を見せた託生。
祠堂の仲間たちとの再会は懐かしいだけでは済まないことを察しているのだろう。
突然消えてしまったギイ。
みんなそれぞれ思うところがある。
何故一言相談してくれなかったのか。
自分だけではなく、みんな。
想いはきっとこの一語に尽きてしまうのではないか。

“うん、わかった。伝えとくね。”
少し前の複雑な貌を引っ込めて、力強く応えた託生。
その表情に政貴ははっとさせられた。
―――すごく綺麗だったから。

“庇ったりはしないんだ?”
つい意地悪く訊いてしまったら、
“しないよ?だって、ギイが悪いんだもの。確かにギイもすごく大変だったけど・・・。でも、ちゃんとみんなに怒られなくちゃ。”
それで。
どれだけみんながギイのこと大好きなのか思い知ってもらうんだ。

“葉山くん、変わったね。”
思わず口を突いて出た言葉に。
託生はいつものようにきょとんと首を傾げる。
“そう?”
そこは相変わらずなんだ。
やっぱりギイの気持ち、わかるなぁ。


そろそろ行かなくちゃ、と。
先に席を立った託生。
譜読み途中のスコアのページを指先でめくりながら。
彼とのつい先程までの会話をふと思い出して小さく苦笑した所だった。
隣のテーブルを賑やかな女の子たちが占拠する。
そのうちの一人に見覚えが・・・。

「それで。どうだったの?」
待ちきれない様子で問い掛ける子たちに、その見覚えのある女子がまあまあ、落ち着いて、と仕草で制する。
そして、勿体ぶってコホン、と咳払いしてから。
「アタリでした。」
その言葉に、キャー!と悲鳴が上がる。
「しーっ!」
「ご、ごめん、ごめんっ。」
各々、口を掌で覆ってキョロキョロと辺りを見回す彼女たち。
「もうっ、騒ぎになっちゃうでしょ?」
「ごめんって。それより続き!」
早く!と急かされて。
“アタリ”と答えていた子が潜めた声で話し出す。
「私がね彼氏のこと“カッコいい”って誉めたらムッとした顔してたもの。あっ、でも。その顔がまた可愛くって・・・!けどね、そのあと頑張って優しく話そうとしてくれて。またまたそれがすごく可愛いのに優しくてちょっとカッコよくて・・・・!」
「いいなぁ、由美は。私が訊きたかったよ~。お話ししてみたかった~っ。」
「ふふふっ。私、じゃんけん鬼強だから!」
羨望の声に由美と呼ばれた子が得意気に答える。

―――ほら、やっぱりわかる人にはわかるのだ。
政貴はスコアをめくりながらその会話を拾う。

短期留学から帰国して、託生の纏う雰囲気は大きく変わった。
留学前の選考試験の辺りからどんどんと変わっていってはいたけれど。
帰国後、それは決定的なものとして誰の目にも映った。

張り詰めていた緊張感・・・悪く言えば刺々しさが鳴りを潜めて。
代わりに柔らかな空気を感じる。
それによって元来の素直な美しさが顔を覗かせたのだ。
この託生の変化に気付かないギイではないだろう。
ましてや遠く離れている今。
気が気ではないに違いない。
色々と策を弄したくなるのもわからないでもない。

「あーぁ。でも、残念だなぁ。可愛くてカッコよくて、すごく素敵なバイオリンを弾くのに。超、理想の人だったのになぁ。」
正門で託生に突撃していた女子学生、由美は大きく溜め息を洩らす。
「ねぇ?今まで気付かなかったけど。留学から帰ってきてからすごく気になってたのにね。」
同意を示す友達数名。
「でも、あの彼氏さんもカッコ良かったよね~。目の保養っていうか。」
うんうん、頷き合う空気が流れて。
「二人並んでるの、また見たいなぁ。」
わかる~。
他の子に取られるのは嫌だけど、あのイケメンなら仕方ないかな、って思うよね。
「私、応援してるって言っちゃったっ。」
「ズルい!私も言いたいっ。」

まだまだ続きそうな彼女たちの会話を背に席を立つ政貴。
遠距離からの長期戦を強いられている友人の奇襲作戦が、ひとまずの戦果を上げたようだ。
あの託生を相手にこの状況。
聡明で向かうところ敵無しだった友人の苦戦も、申し訳なくも微笑ましく思えてしまう。

想いを残しながらも去るしかなかったギイ。
そしてその想いを信じ続けた託生。

二人の真摯な想いを見てきたから。
多少の障害があろうとも。
二人の未来が繋がっている今を嬉しいと思う。

「この調子ならすぐに会えそうだし。」
その時は。
過去の文句をこれでもかと言ってやって。
現在の有り余っているだろう心配事を面白おかしくつついてやろう。
「楽しみだな。」
口の中で呟いて。
政貴はキャンパスの雑踏へと足を踏み出した。