Another Kiss・・・? 5 | usatami♪タクミくんシリーズ二次創作小説♪

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タクミくんシリーズの二次創作です。
usatami のこうだったらいいのにな~♪を細々と綴っております(〃ω〃)
覗いていただけてら嬉しいです(’-’*)♪

ギイを諦めたあの夏の日。
その後の記憶はしばらく曖昧で。
気付いた時は赤池くんが一緒に居てくれてた。

多分、きっと。
沢山の心配と迷惑を掛けてしまったんだと思う。
だから謝ったんだ。
心配かけて、迷惑かけて、ごめんねって。
そしたら赤池くん、泣きそうな顔で言ってくれたんだ。
良かった、って。
僕は相当、心配掛けちゃったんだね。

それからぼんやりと日々を過ごして。
季節は巡っていったけど。
僕の中は空っぽで。
何も感じない。
とても大切な物を喪くしてしまったのに。
もう、涙も出なかった。

でも、ある日。
僕はふと、呼ばれるようにバイオリンを手にしたんだ。
ギイが祠堂の頃僕に託してくれたsub rosa 。
巡り巡って、今度はギイのお父さんから僕へと手渡された。
あの日以来一度もケースから出すことさえしなかったsub rosaを求められるままに鳴り響かせた。

sub rosaは僕の心のままに鳴ってくれた。
張り裂けそうな心の悲鳴を僕の代わりに吐き出してくれた。
その音に。
僕はずっと泣きたかったんだ、と気付いた。
泣いて、叫んで、駄々をこねて・・・。
そう出来ればどんなに良かっただろう。
出来なかったから。
出来なかったのは、僕がギイを愛しているから。

僕の心に渦巻く怒りや、哀しみや、苦しみをsub rosaと共に全て吐き出したら、最後に僕の中に残ったのは・・・ギイへの変わらない想いだけだった。

例え君が僕ではない誰かを愛しても。
君が幸せでいてくれるなら、僕は大丈夫。
僕は何処かで優しく微笑む君に向けてバイオリンを奏でよう。
君に届かなくても。
君への変わらない愛を込めて。


そんな風に思えるまでに随分長い時間が必要だった。
大学に復学した後も佐智さんや門下生仲間にいっぱい心配をかけたし。
特に城縞くんはペアを組んでることもあって凄く心配してくれたんだと思う。
思う、なんて曖昧な表現なのは、はっきりと訊かれた訳じゃないから。
「どうしたの?」とか、
「大丈夫?」なんて。
彼は一度も訊かなかった。
ただ、僕の心に寄り添ってくれて。
僕がsub rosaに想いを注ぎ込んでいく傍らで、僕を支えてくれたんだ。
彼のピアノで。

僕は彼に甘えていたのかもしれない。
sub rosaと潜る音の海は深く、暗く、苦しくて・・・。
息も出来ずにもがき苦しむ僕を幾度となく救ってくれたのは、多分、城縞くんのピアノだった。
苦しくて辺りを見回す僕を、控えめに光を放ちながら優しく包み込んでくれたのはきっと、彼のピアノの音。
僕の心を、僕の代わりに叫ぶsub rosaはきっと酷い音を奏でていたはずなのに。
それでも城縞くんは何も言わずに伴奏を続けてくれた。
僕はそれに甘えてしまったんだ。

「君が好きだ。」
そう言われたのは僕が少し落ち着いた頃。
sub rosaがギイへの変わらない想いを歌い出してしばらく経ってからのことだった。
何も言えない僕に彼は言ってくれた。
「葉山くんの心の中に誰かが居ることは分かってる。だから・・・待つよ。僕は気が長い方だから。ただ、想うことは許して欲しい。」

僕の中のギイは決して消えないって気付いたときに、城縞くんに言ったんだ。
待たないで、って。
待たれても苦しいから、って。
彼はとても優しい人だけど。
僕のお願いは受け入れてはくれなかった。

城縞くんは冗談に紛らせてくれるけど。
あれからずっと、待ってくれてるって分かってる。