カサンドラ・ナーバーグ

彼女の名はベンゾジアゼピンの危
険性を死の直前まで世に訴えたこ
とで広く知られています

家族がいて友人がいて
未来への希望もある

そんなどこにでもいるような
ごく普通の女性でした

彼女を襲った不幸は、ほんの些細
な心の不調から医師を訪ねたこと
に始まります

多くの患者と同じように
医師という最も信頼すべき存在か
ら彼女が処方された薬が

ベンゾジアゼピンでした

医師からは安全な薬だと説明され
彼女もまた、それを疑いませんで
した

彼女は医師の指示通りに薬を服用
し、違法使用や乱用歴は一度もあ
りませんでした

その薬は最初のうちは良く効いて
不安が和らぎ眠れるようになりま
した

しかし、年月か過ぎるにつれて身
体に様々な異変が起こり、薬を中
止することを決意すると

その症状はさらに悪化して

毎日のように続く激痛
朝が来ても終わらない不安
夜になっても休まらない恐怖感

まるで神経がむき出しになったよ
うな地獄の連続

彼女は医師に訴えましたが
原疾患の再燃と説明されただけで
彼女自身も原因が何であるのか分
からなくなっていきました

そこで彼女は自分と同じような境
遇の人たちがインターネット上に
存在していることを知り

「私だけではなかった」

と、
その発見は救いであると同時に

絶望でもありました

なぜなら多くの人たちが何年もそ
の地獄からの回復を待ち続けてい
たからです

そして、その情報網での様々な体
験に影響されるかのように、彼女
は病院や医師を変えては

再服薬での再起をはかり

また別な情報に感化され

薬の中止を何回も試みて

やがては
その繰り返しによって彼女の神経
は二度と戻らないほど深く損傷し

一年半の薬害との闘いに力尽き
自家用車で自らの命を終わらせま
した

彼女の死後もその手記は今もなお
世界中で読まれ続けています


【以下:カサンドラの声(要約)】

私の声を聞いて下さい

私は薬物乱用者ではありません

私は医師の指示に従い、処方され
た薬を信じて服用した一人の患者
です

ただ苦しみを和らげたかっただけ
でした

眠れるようになりたかっただけで
した

普通の生活を送りたかっただけで
した

それなのに、いつしか私は薬を飲
むために生きる人間になっていま
した

減らせば地獄

続けても地獄

私の身体は、もはや私自身のもの
ではなくなっていました

私は幾度となく助けを求めました

しかし、返ってくる言葉は

「病気が再発したのではないか」

「考え過ぎではないか」

「もっと別の薬を試してみては」

というものでした

誰も私の苦しみを説明できません
でした

誰も私の叫びを理解しようとしま
せんでした

私が経験していたのは、単なる不
安ではありません

単なるうつでもありません

言葉では表現できない神経系の激
痛でした

眠ることも、考えることも、生き
ることさえ困難になる苦痛でした

私は問いたいのです

なぜ、この危険性は十分に説明さ
れなかったのでしょうか

なぜ、依存や離脱症状について患
者に正直に語られなかったのでし
ょうか

なぜ、苦しむ患者の声は「精神疾
患」の一言で片付けられてしまう
のでしょうか

私たちは統計ではありません

数字でもありません

一人ひとりに人生があり、家族が
あり、夢がありました

その人生が静かに壊されていった
のです

どうか私を特別な例として片付け
ないで下さい

私の後には、同じ苦しみを抱えな
がら声を上げられない人たちが沢
山います

暗い部屋で孤独に耐えている人た
ちがいます

今日も絶望の中で生き延びようと
している人たちがいます

彼らは怠け者でも弱虫でもありま
せん

ただ、耐え難い苦痛の中にいるの
です

私の願いは復讐ではありません

真実です

医療従事者が危険性を正しく理解
すること

患者が十分な説明を受けた上で選
択できること

そして、離脱症状や遷延性症状に
苦しむ人々が見捨てられないこと

ただそれだけです

もし私の声が誰かに届くなら

どうか「なぜこんなことが起きた
のか」を問い続けて下さい

私の人生が終わった後も

同じ悲劇を繰り返さないために

そして、苦しみの中にいる誰かが

「自分だけではなかった」

と知ることができるように

私はその願いを、最後の言葉とし
て残します


2018年8月23日
カサンドラ 45歳の夏
永眠








ベンゾジアゼピンの作用機序は
とても複雑です


彼女の経験したことは、同じ服用
者にとってごく身近な現実であり
決して特別な出来事ではありませ

また
彼女の勇気ある訴えでさえ薬害の
一例に過ぎず、その背後には数え
切れない苦悩が存在しています

そしてこの最も危険な薬の取り扱
いによっては、誰もがその淵に立
たされる可能性も秘めています



残念なことに
ベンゾジアゼピンの減断薬に挑戦
できる回数には限りがあるようで



私もたった一度の断薬の失敗で
薬の効き目が極端に悪くなりまし

しかし、これ以上の増薬も怖くて
できません



安易な減薬や急断薬、そして離脱
症状を十分に理解しないまま行わ
れる再服薬は

脳や神経系の恒常性を大きく乱し
回復をより困難にする可能性があ
ります

カサンドラ・ナーバーグが残した
苦しみの記録とその死を無駄にし
ないためにも

薬の増減には十分な情報収集と慎
重な計画のもとで一歩ずつ進める
ことが何よりも大切であることを

一経験者としてお伝えしたく本記
事の結びの言葉とさせていただき
ます