先週の水木と京都で開催されたIVS。

実はNILS時代からも含めての皆勤賞でもあり、

毎回いろんな気づきがある。





今回もソーシャルゲーム関係の話は多かったものの、

実態としてVOYAGE GROUPは既にソーシャルゲーム事業からは

一歩引いているため、各社のお話をより普遍的な話として

聞くことが出来たように思う。






さて、今回のIVSでもっとも楽しみにしていたのが

将棋の棋士の羽生さんの講演。

話していた内容そのものは比較的羽生さんが本で書かれいている

内容とは相違はなかったけれど、生で聞くとより腹オチ感は

半端なかった。

というわけで自分なりにメモしたものもここで公開しておきます。





【決断力】
日々何をするにしても選択するにしても小さな決断のひとつひとつ。その中で感じ、どう考えているのか、を話したい。
取材される時によく聞かれるのは、何手先まで読むの?かというもの。一番最初は直感を使う。将棋では最初の1手は80通り。その中から3つほど選択してそこから深く考える。全部選択を考えていると時間がかかりすぎる。だから最初は直感。
では、どうやって3つを選ぶのか。カメラでピントをあわせるのと似ている。最近のカメラはオートフォカスだけれど、それと同じ。ここが中心、ここがポイントというようなことを大まかに大雑把に見つけていくのが直感。そこから読みというのに入っていく。そこから先をよむ。
 将棋では足し算ではなく、かけ算で可能性が広がっていく。80手の中から3手を選び、それに対して相手が取りうる3手を考え、それに対してこちらの3手、、、、となると10手考えるので、3の10乗となり、約60000通りになる。だから大局観が必要。大局観とは、今までの方針とか戦略とか、そういうのを考えること。

【大局観】
大局観を使うとショートカットできる。無駄を省くことができる。棋士の場合、直感、読みと大局観の3つが必要。若い時は、読みが中心となる。ある程度年数を経ていくと直感や大局観の比重が増えていく。
農家科学者の池田ゆうじさんが、直感とひらめきは違う、といっていた。何が違うか。たとえ短い時間であっても、なぜ選んだのか、選ばなかったのかを説明できるのが直感で、説明がつかないのがひらめき。ひらめきとは、虫の知らせ、第六感。直感はなぜそれを選んだのかを理由を上げて説明できる。今まで習得してきたものの集大成として現れてくる。
 実際の対局は長い。ひとつの場面では長いと1時間、3時間かかる。長く考えると良いかというとそうではない。長考に妙手なし。最終的にaかbか。長考というのはある程度までは考えている。でも実はある程度以降は悩んでいるにすぎない。見切って決断できるか、どうかが調子をはかるバロメーターだと思う。結論を出さないといけない時にすぐに踏み込んだ手をうてる時は調子が良い時。

【運、ツキ】
運、ツキは目に見えるものではないけれども、結果がはっきり出る世界にいるとそういうものはあるようにおもう。いい時、悪い時がある。あんまりそれにこだわらないようにしている。
ツキ、運はそれに魅惑される。たとえば、ギャンブルや占いにおいて、今どうなんだということに一喜一憂してしまっているよりも、どんな環境においてベストを尽くす、という要の部分がおざなりになってしまう。だからあんまり気にしないようにしている。自然な気持ちとして気になってしまう時もある。
うまくいっていない時にどうするか。まずは不調か、実力を見極める。不調が3年続けば不調ではなく、実力。不調なのか、実力を見極めるのがまず最初にやること。実力の場合は、自分自身の努力が足りない、ということを謙虚に受けとめ、次の機会のチャンスを伺うことが必要。
不調の場合もある。今日やったことを明日になって結果が洗われるとは限らない。通常はやったことと結果が表れるのには時差がある。3年という後に時差があって形になることもある。やっていることは正しいけれど結果が出ない時に不調という。不調のときにはやっていることを変えてはいけない。でもモチベーションが下がることがある。だから日常生活の中に変化をつけるようにする。髪型を変える、部屋の模様替え等。

【モチベーション】
 最近、スポーツで結果を出している人のインタビューで楽しんでやりたい、という人が増えているように思う。ある種のトレーニングを受けているのか、自分の経験則なのか判らないけれど、本当にその通りだとおもう。どのような状況で一番良い結果が出るか、というとリラックスして楽しんでいる状況。2番目が緊張している状態。3番目はやる気がない時。
本来ならばリラックスして楽しんでやれればいいけれど、いつもそういう状況でできるわけではない。プレッシャーがかかった時にどうするか。まず最初には、最悪な状態じゃない、ということを理解する。つまりやる気がない、という状況じゃない。プレッシャーがかかっているという場合は、結構良いところまできていることが多い。
例えば高飛びの選手で1m50cmが飛べる人の場合。1mの場合には楽勝で飛べるからプレッシャーがかからない。2mは飛べないからプレッシャーがかからない。1m55、1m60とか、もしかしたら飛べるかもしれない、という状況のときにプレッシャーがかかりやすい。8合目ぐらいから最後の一番つらいところでプレッシャーがかかる。終わりが一番大変。
プレッシャーがかかっている状態がその人が持っている能力、センスが引き出される。知り合いの出版社の人曰く、文章を書く人の中に締め切りにならないと書かない人がいる。普段から一生懸命やっていればいいのだけれど、締め切りという逃れることのできないデッドラインがあると初めて深く集中して能力が開花する場合もある。

【集中力】
集中力は誰にでもある。子供が遊んでいる時には集中している。ただ根気がない。進歩していく、というのは集中していく時間を少しづつのばしていく、ことだと思う。子供の頃は5分、30分、1時間、というように。これがどこまでも伸びていくかというとどこかで限界がある。また時間をのばせばのばすほど、密度を薄めた集中になる。最初に助走する時間があって、そこから深い集中する時間ができていく。集中するってことと何か取り組んでいくこと、というのは物差しみたいなものだとおもう。

【ものさし】
小さい時からいろんなことをやっていろんなことをできるようになっていくのは、その人の中に物差しをつくっていくこだとおもう。たくさんの種類の物差しがあればあるほど、不安な時間に耐えられる。やらなければいけないことに対して、これくらいの労力をやればできる、という自分なりの価値観とか持てるようになると、不安な時間のプロセスの中で迷ったり、ためらったりすることがなくなる。たくさん物差しがあるとそういう不安な時間を乗り越えていくことができる。あるいは止める時にも決断がしやすい。

【選択や知識、情報】
膨大な量の情報や知識がある。これは今までになかったこと。今ほど後悔しやすい時はないとおもう。定食屋さんに行って、昼ご飯を食べる。定食のメニューが3つしかなければあまり後悔はない。メニューが30個あったら、何を選んでも、もっと他においしいのがあったのでは、という疑念、後悔が浮かんでくる。たくさん選択肢が増えても選択できるのは1つ。選択しなかったことに対して後悔しやすい。一方で未来のことについてもいえる。こういう心配、こういうリスクがある、というのは山ほどでてくる。リスク管理は大事だけれど。でも全部それがそのまま現実化する訳ではない。過去の自分が選んでいなかった選択については楽観的になって、選んでいない選択には悲観的になりやすい。これを逆転するぐらいがちょうど良い。

【歴史】
将棋は古来インドから始まった。西にいってチェスになった。東にいって将棋になった。アジアにはそれぞれの国ごとに将棋の形がある。日本で今のルールになったのが400年前。日本の将棋には特徴あがる。採った駒をもう一度使える。リサイクル。もう一つが小さく、コンパクトにしていく。娯楽でも歴史の淘汰がある。おもしろいものは残って、つまらないものはなくなった。
普通は面白くするためには、盤を広くするか、駒を強くするの2つの方向性がある。チェスのクイーンのように強い駒はそうやって生まれた。ただ日本の将棋の場合は、小さくコンパクトに。将棋だけの話ではなく、伝統的な世界でも同じ。俳句、短歌、能面。制約することで面白さが増す。小さくコンパクトにしていくのは日本文化の特徴。仕事や産業に限らない。日常の言葉でもそう。言葉を簡略化、省略化したことがある。ツイッターもそう。

【記憶】
将棋で最後に最初から並べ替えしたりする。あれはすごく簡単。ある種、連続していくものは覚えやすい。リズムとテンポ。そうではないものは覚えるのが難しい。幼稚園児の対局を覚えるのが大変。というのも予想外の手の連続だから。あるセオリーに乗っ取っている場合は、大量に覚えることができる。最近では便利なサービスがあって、1分間で1試合の対局の流れを見ることができる。こうやって最近では大量の棋符や情報を見ることができる。ただ簡単に見たものはすぐに忘れる。これは本当に大事。5年後、10年後に覚えていこうという時には、自分で駒を並べたり、ノートにつけたり、誰かに話したり、している。大事なのは五感を使うこと。手、口、耳、といった五感を使うことが深く、正確に長く覚えるためには必要。

【ミス】
ミスはしないにこしたことがない。ただ一年間で60-70の対局で今日はノーミスで100点満点でというのは滅多にない。1年に1回くらい。ここはおかしかったな、ここは課題だな、というのがほとんど。大事なのはミスをした後にミスを重ねないこと。実はミスをした後にまたミスをするこも多い。理由は2つ。ミスをすると気持ちが動揺する。しまった、という後悔、慌てて冷静さを失って客観的な判断ができずにまたミスしてしまう。一回、一手詰めを間違えて負けたこともある。30秒、40秒全く気づかなかった。血の気が引く、という生易しいものではなく、血が逆流した感じ。死角、盲点。うっかり。勝負は下駄をはくまで判らないというのがある。
ミスをした後にどうしてまたミスを重ねるかもうひとつの理由は、ミスした場合には以前よりも決断の難易度があがっている。順調にうまくいっている状態ではこれからどういう方針でいくか判りやすく、シンプル。そこで正しい状態が続いていく。ミスをすると今まで気づき上げてきた方針、流れ、作戦がせき止められて崩れて一からやり直す必要がある。前の場面よりもどういう方針でいくのか、複雑すぎて何をしていいのか判らなくなる。それもあってミスが重なる。
 ミスを重ねないためにどうするか。ひと呼吸おくこと。一分外の景色を見る。だいぶ冷静さを取り戻せる。もしその場面を初めて見たらどういう決断をするか、ということで考える。どうしても今までに引っ張られる。もし仮にこの場面を初めて見た時にはどう考えるか。そういう視点で考えるとどうすればいいのか見えてくる。将棋のプロは何でも判っていてとおもわれがちだが全然そんなことない。10手先に起こることを読むのは予想することは難しい。その中に予想外の手が入っている。たくさん読んでも想定外の場面や状況が生まれる。そこでまた悩む、考え直すことがおこる。将棋のプロでも暗中模索。判らない状況でも手を進めていく。判らない場合にどうするか、ミスをしたときにどうするか。そういう時に程度の問題がある。2番目、3番目の選択ができていれば、なんとかなる。致命的なミスをしなければ大丈夫。方向性だけは間違えない。というのがとても大事。最悪になならないから。

【経験】
経験というのは知識としては役に立ちづらい。20年前に一生懸命勉強したことが役にたっているか、というと全然役にたっていない。将棋のスタイルもどんどん変わっているから。ただそういう直接的な知識としては役に立たなかったとしても、これから習得しなければならないことを対象とした時に方法論としては役に立つ。前はこういうやり方をして遠回りをした、ということを避けることができるl。もうひとつは、さっきの物差しの話と重なる。これはこのくらいの時間を費やせばできる、というのを知ってているかどうかによって集中できる度合いが違う。
将棋の世界にも流行がある。最先端の流行をつくっているのは20前半くらいのプロになっているかどうかの人たちのアイディアから生まれていることが多い。全部そういう訳ではないけれど。その中の一部が今までになかった発想で将棋の世界で流行することがある。なぜそうなるのか。基本的にはいいとこドリすることができる。積み上げてくると積み上げたものを貴重なもの、大切なものとして考えることができるようになる。ある種、合理的に割り切って考えることができる。そこから新しいアイディア、発想が生まれる。

【知識や情報】
知識や情報、最低限押さえておくべきことのためにある程度時間を費やさなければいけない。しかし現代は本当に大事なところに費やせる時間が前よりも少なくなってきている。誰でも最低限のところまでは押さえておくことができる。そのためそこからどうするか、ということが問われている。

【リスク】
リスクは取らなければ行けない。変化しなければならない。一方で程度の問題もある。今やっていることを全部やめて新しいことに切り替えることは無謀の場合もある。アクセルとブレーキ。若い時は知らず知らずのうちにアクセルを踏んでいることが多い。年を取ると知らず知らずのうちにブレーキを踏んでいることが多い。最近は少しアクセルを意識してふむようにしている。というのも年数、経験を積むとブレーキを踏む術を覚えていく。だから年数を経ると知らず知らずのうちにブレーキを踏んでしまっていることが多い。だから年をとったら意識してアクセルを踏んでいったほうがいい。

【データ】
コンビニなどのPOSではデータが蓄積されていくことでが次の行動が決まって行く。母数が多ければ多いほど正確になっていく。正確で正しい予想ができる。これは本当に驚くべき進歩。ただ物事を進めていくときにそれが全てではないとおもう。このことはヨットの白石さんに会って知った。ヨットの世界は大胆に勇敢にやるものだとおもっていた。今はカーナビのようなナビゲーションツールを使ってヨットを進めている。
白石さんがどのようにヨットを動かしているか。まず朝起きたら、甲板に出る。新鮮な空気を吸って、今日は行けるぞ、って時はアクセルをふむ。自信が持てないときはカーナビを使ってやる。莫大な量に基づいて選択する時、人間が持っている野生の勘、の両方が大事。車の両輪のように。

【時代】
人の能力、才能は大事。でもそれよりも大事なのは時代とのマッチングしているかどうか。その人が持っているものと時代とマッチングしているか、大事。坂本龍馬が現代に生きていたら活躍できたか。現代はどういう状況か。場が荒れている、という感じがする。例えば今年は大地震があった。タイでも洪水。ヨーロッパでも不安定な経済状況。場が荒れるとそれに対してのフォローも必要だが、場が荒れているときは変化がおこりやすい。ベンチャーはその時代にあっている。その人が持っている才能とそれを求められている時代。今日、この会場に来ている人は、時代にマッチングした良いタイミングにいる。





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