補給の為の味方の艦隊を・・・副盟主のリッテンハイム侯は自分の退路を確保する為に、何の前触れもなく・・・攻撃したのだ。
何らかの通達だの、リアクションがあれば、補給艦隊は、侯爵の為に急いで道を開けただろうに。
だけど無秩序に、そして縦横無尽に飛んで来るミサイルを防ぎようが無い。
ましてや補給艦なのだ。
戦艦に比べて装甲も、攻撃力も極端に弱い。
だから補給艦隊は何も出来ないまま・・・まず、パッサウ3号が・・・消滅して・・・。
補給艦デューレン8号で生き残った要員は副長である私、コンラート・リンザーと、上等兵待遇で従軍していた、まだ13歳にも満たない幼年学校生のコンラート・フォン・モーデルだけで、艦全体では、たったの7人だけだった・・・。
私達以外の5人は機関部員だったが、直撃弾を受けた為に全員意識不明の重体だった。
実を言うと7人の内、リップシュタット戦役終結まで生き延びる事が出来たのは・・・私達、2人のコンラートだけであった。
他の5人は・・・戦役終結まで・・・身体がもたなかったのだ。
オーディンへと引き上げる病院船の第一便にモーデル少年を乗せ、私は補給艦隊の唯一の生き残りであった為、“生き証人”としての任務があり、事後処理を行った後に、キルヒアイス上級大将閣下の配慮で、病院船の第3便でオーディンに帰還した。
そしてそのまま軍病院に入院し、本格的な義手の手術を受けて一旦実家に戻った。
それは、私の出した休暇願いが受け入れられたからだったが、戦争前と後で変わっていたのは、病の重かった母が私が帰還する前に亡くなっていた事だった。
退院後、実家で出迎えてくれたのは、姉夫婦と姪であった。
「叔父さん、怪我の具合はどう?腕が無くなったって聞いたけど、あれれ?腕がある・・・」
7歳の姪は、腕が無くなるなんて事を考えた事もなかったのだろう。
そして、義手の事を知らなかったようだった。
不思議そうな顔で私の腕を見た。
「腕は・・・作り物の腕を付けたんだよ」
「作り物・・・動くの?」
「あぁ。機械仕掛けだけどね。ちゃんと動くんだ」
「動くんだ・・・良かった」
姪は私の腕を触って、「機械でも皮膚があるんだね」とにこやかに微笑んだ。
「そうだよ。機械剥き出しじゃ怖いだろ?だけど、皮膚も作り物だし、冷たいんだよ」
「うん、そう言えば、ちょっと冷たいね。でも、手があって良かったぁ~!」
姪はそう言って、自分の手の温かさと、私の義手の冷たさを比べて驚いたような顔をしていた。
出迎えてくれた姉夫婦に、私が貴族連合軍として出征していたせいで、元々具合の悪かった母は、心労のあまり亡くなったのだと知らされた。
そして、姉も、母の事や私の事が重なって、心配のあまりすっかり痩せてしまっていた。
元々、姉も母に似て体が弱かったのだが、益々臥せる事が多くなっていた。
「ちゃんとしないといけないって思うのだけど・・・熱が出たり大変なの」と姉はやつれた笑みを見せた。
「お母さん<ムッター>が寝込んだ時はね、私が家の事をするんだ。もう、7歳だから、お皿を洗ったり出来るもん」
「そうなの。ダンカはもうすっかり、主婦なのよ」
「お料理も出来るんだよ、私」
「本当かい?ダンカ・・・凄いんだね」
どうやら、ダンカは、7歳にして・・・主婦をやっていた。
野菜を刻んで炒めたり、ジャガイモの丸茹でを作ったり、炒めた玉ネギでスープを作ったりしていた。
最近では、ご近所の人にブロート作りやケーキ作りを習ったそうで、発酵させない簡単なブロートなら、手際良く捏ねてすぐに焼けるのだと姉が言った。
「それは凄いな。それじゃ、ダンカ、叔父さんにも作ってくれるかい?」
「勿論よ!美味しいのを作るわ!」
ダンカは胸を張って言い、姉は「ね、頼もしいでしょう、コンラート?」と言って笑っていた。
私の実家は、私だけが住むには広過ぎた。
そこで、姉と姪も同居する事になった。
義兄は単身赴任で遠くの鉄工所で働いていたし、賃貸住宅に女性2人が住むよりは、実家に私と同居した方が義兄も安心なようだった。
それにここなら家賃を払う必要がないし、1階を私が、2階を姉家族が使う事になったのだ。
私は戦傷を受けた事で暫くの間は地上勤務となったので、姪のダンカを家事から開放してやった。
男の手料理だったが、朝のうちに昼食と夕食までこしらえて冷蔵庫に入れ、簡単に温めて食べられるようにしてやったのだ。
彼女が学校を休んで姉の世話をするのを見るのは偲びなかったから・・・。
学校から帰っても友達と遊べないなんて・・・考えてみても、やり切れなかったのだ。
「ただいま~♪あれ、叔父さん・・・お仕事は?」
「今日は休みなんだ。それで午前中に腕を診てもらいに病院に行ったんだよ。あ、お母さん<ムッター>は今日はもう少しかかるよ」
一緒に病院へ行った姉は検査があって、帰ってくるのは夕方遅くになるとの事だった。
「ふうん・・・お母さん<ムッター>、最近顔色いいのは叔父さんが帰って来たからだよね」
「うん。早く良くなるといいな」
私がそう言って姪の頭を撫でると、「うん!」と明るく頷いた。
「何か食べるかい?そうだ・・・ポップコーンを作ろうか?」
「え・・・家で作れるの!!?」
姪はパアっと顔を輝かせた。
子供はポップコーンが大好きだ。
公園で鳩にあげたりしながら、自分達もほうばっている姿を良く見かける。
・・・私も子供の頃は良く食べたものだ。
片手鍋にサラダオイルを入れて、塩をパラパラ・・・そして、乾燥して固くなったコーンをバラバラと入れる。
しっかり蓋を閉めて、弱火を鍋に・・・。
直接電熱器に鍋をかけると焦げてしまうので、少し浮かすのがコツだ。
暫くすると、鍋の中でコーンが爆ぜる音がし始める。
ポンポン・・・ポポポン!ポポポポン!!ポンポンポン!!
勢い良く爆ぜる音に姪は嬉しそうな顔をして私を見た。
「そのお鍋・・・凄く重いのに。叔父さん、腕が疲れないの??」
心配げに言う姪に対して、「あぁ、本当は重いんだろうな。義手にしたらそんな感覚がなくなってな」
「・・・感覚が無いの?」
姪は不審そうな顔をした。
「でも、大丈夫だよ。字を書く事も出来るしね。こうして手があるだけでありがたい」
「・・・ふーん」
「ねえ、ダンカ。手がないとね・・・とても不便だというのを、叔父さんは・・・手を無くしてから気付かされたよ」
「うん。手が無いと・・・何も出来ないもんね」
「そうなんだよ。ペンも持てないし、頭を撫でる事も、食事をする時だって大変だよ。機械の手だから少し冷たいけれどね」
オーディンで入院するまでの間に、軍医から義手には義手のカタログ等を見せられて、義手には色々な種類があって、保険適用の物とそうでない物があるのを聞かされていたが、私が選んだのは保険適用の義手だった。
これは・・・必要最低限の機能を持った“冷たい手”だった。
そして、機械が入っている為に・・・この手は重たい。
最低限の機能とは、認証システムに対応する為に付けられている指紋だの、なめらかに動く指の関節等だ。
それから、体温ほどではないが、掌だけが若干温かみを持つ。
しかし、保険外で実費を払うと、まるで人間のような温かさの手が付けてもらえる。
まるで生きているかのような赤みもあり、一見すると義手には見えない。
そして、実物の手と同じくらいの重さで、手全体が生きているような温かさがある。
ただ、その手にしても痛覚だの、熱さ、冷たさの感覚を得られる訳ではなく、やはり作り物感は否めないのだがが・・・。
平民でしかも、いかんでしかない私には資金が無いので、保険内適用の義手になったのだった。
「ふーん・・・。私ね、叔父さんが無事で良かったと思うの。だってね、母さん<ムッター>は本当に心配していたの。でもね、叔父さんが無事だと知ってからは、元気になれそうだって言っているもの。あのね、叔父さんの手は・・・冷たくなんかないよ」
姪はにこにこ笑った。
「・・・冷たく・・・ない?」
私が問うと、姪は大きく首肯した。
「うん。だってね、色々な事が出来るもん。さっき、叔父さんも言ったけど、頭を撫でてくれるでしょ。それにお料理だって出来るし。それにね、手が出来て嬉しいって言っていたでしょ。だから、『冷たい』なんて言ったらダメだよ。確かに機械の手だから冷たいんだけど、叔父さんの手は・・・優しいもん。冷たくなんかないと思うの」
私はこの姪の言葉を聞いて、少なからず救われた気がした。
そして、今日、携帯端末に入っていたメールを思い出した。
『リンザー大尉、お久し振りです。その後、腕のお加減は如何でしょうか?僕は、グリューネワルト伯爵夫人の元に行って、こちらで落ち着く事になりました。現在は伯爵夫人がお住まいのフロイデンの山荘におります。伯爵夫人が家庭教師を付けて下さったので、軍務の為に中断されていた勉学に改めて励む事になりそうです。この山荘には古い年代物のピアノもあって、僕が弾ける事が分かると伯爵夫人はピアノも教師も付けて下さいました。本当にありがたい事です。色々な事が起こって大変でしたが、僕は強くならなければ・・・と思っています。それから、家族の事はもう考えないようにしなければ・・・。これはとてもつらい事ですが、僕を助けて下さった多くの方々の為にも僕は前を向いて生きていきたいと思います。それに、キルヒアイス元帥閣下の事を考えたら、僕はあの方の分も生きていかなければ・・・と思うのです。そして、命が助かっただけでも本当に幸せだと思うのです。大尉も、どうぞお元気で頑張って下さい。そして、落ち着きましたら、1度お会いしたく思います。コンラート・フォン・モーデル』
・・・そうか。
あの小さな、コンラート君も自分の落ち着く先を見つけたのか。
彼はピアノが弾けるのか・・・。
私は楽器はサッパリだが、そう言えば貴族の子弟は大抵教養と称して、ピアノやバイオリン等を習うと聞いた事があった。
とにかく、落ち着く先が見つかって良かった・・・と、私は胸を撫で下ろした。
同じ、ファーストネームを持つが故に、赤の他人とは思えなかったのだ。
グリューネワルト伯爵夫人があの子の後見人となるなら、誰も文句が言えないだろう。
・・・あの、ローエングラム公の実の姉上なのだから。
そして、そこへ彼を送り込んで下さった、今は亡き、キルヒアイス元帥閣下の事を考え、私は感慨深く思った。
あの閣下に拾われたからこそ、彼も私も・・・今、こうしてここにいられるのだと。
コンラート君はモーデル子爵家の長男だと言っていたが・・・今後、あの子はどうなるのだろう?
モーデル子爵家は大貴族・・・。
世が世なら、貴族の恩恵を受けて、順風満帆の生活を謳歌していたはずなのだ、あの少年は。
彼のたった1人の身内であった父親の子爵は、ガルミッシュ要塞で自らの命を絶ち、彼は天涯孤独の身となったのだ。
“命が助かっただけでも本当に幸せ”
門閥貴族として生まれたコンラート・フォン・モーデル。
今までの彼の生活を考えたら、こんな謙虚な言葉を言う機会もなかったであろうし、考えた事すらなかっただろうに。
私は・・・自分の義手となった腕に視線を落とした。
「冷たい手」だけど、私にとっては新たな手だ・・・。
私も、命があって良かったと感謝しなくては・・・。
そして、いつか・・・。
もう1人のコンラート君と、いつか笑いあえる日が来る事を願った。
Das Ende
100のお題より、「冷たい手」です。
「冷たい手」って、なによ~!!と思いました。
オーベルシュタインも冷たいけど、彼の場合は冷たいのは目だし、ヨブちゃんと握手して必死に手を洗っているヤンを思い浮かべたりしましたが、もっと、マイナーな人がいいな・・・ってんで。
それで、登場させたのがコンラート・フォン・モーデルと、コンラート・リンザー。
いや、厳密に言えば、コンラート・リンザーと、オリジナルのキャラである、彼の姉や姪っ子。
現実問題・・・家族はいるんだろうし・・・ってんで、日常を描いてみました。
リンザー大尉はその後、ワーレンの部下になり、地球教徒を撲滅する為に地球に行った時に登場します。
彼は右腕が義手。
ワーレンは、左腕が義手になるんですね。
考えてみたら、ワーレンの部下で良かったよな、彼もまた・・・。
コンラート君の事については、「日誌」や「不名誉」で書いております。
それから、まだカタチにはしていませんが・・・この2人で書こうと思っているネタはあります。
やっぱり、100のお題のモノなんですが、「これは使えそうなタイトルだな」と思いながら、まだ数行しか書いていないのが。
その内にちゃんと形にしたいです。
ただ、ちょっとに詰まっていて、一度・・・放置してみようと思って。
実は、放置してから、書きあげた作品って結構あるんです。
「プッシーフット」なんかがそれです。
意外と、放置作品からいいのが生まれる事がありますが、何度も何度も推敲を重ねて、それでもなお・・・これだ!!な作品って書けません。
良く、作家や漫画家さんが、自分の作品が世に出てから数年後、昔に作品について語る時、「もっと上手く書けたのでは・・・」って言っている事がありますが、あれ、本当にそうです。
書いても書いても・・・作品は生き物だと思います。
推敲すればするほど、もっと推敲したくなる。
二次小説に手を出して、それを痛感しているのです、うさけ・・・アハハハハハ。