※この小説は原作終了後の世界です。ここでの役職は、国務尚書にミッターマイヤー、帝国軍統帥本部長にアイゼナッハとなっております。ご了承願います。
エルンスト・フォン・アイゼナッハ元帥。
現在、銀河帝国の帝国軍統帥本部長を務める彼だが、彼の部下でさえも滅多に彼の声を聞いた事はなく、その私生活も実に謎に満ちている。
公式な記録上では、彼には妻と1人息子がいるが、それがどんな人物なのか、それほど知られてはいなかった。
アイゼナッハ本人に直接聞くのも恐ろしく、部下や同僚達は、彼の家族像を勝手に想像するしかなかったのだ。
「家でのアイゼナッハは饒舌なんじゃないか?」
「いや、きっと家族の者に耳の不自由な者がいるのではないか?」
噂だけが先行していたが、実際のところは、アイゼナッハは家でも物静かで寡黙であった・・・。
「あの男が、どうやって蔡君にプロポーズをしたのやら。過去に戻れる機械があるなら覗いてみたいもんだ!」
酔った勢いでビッテンフェルトが「海鷲<ゼー・アドラー>」でそう言った時、メックリンガーは、以前読んだ事のある地球時代の超古典小説の「タイムマシン」を思い出したし、ミュラーは、目を白黒させたあと、黙ってワインを飲んでいた。
誰もが気になる事項だったが、実際にプロポーズしたのは、彼の妻クレスタの方だった・・・。
これには複雑な事情があるのだが、クレスタが、寡黙な男性が好きで、「寡黙な男性愛好会」の会長だった事が原因だった。
アイゼナッハには5歳年下の従姉妹のイザベラがおり、彼女の高校時代の同級生の中にクレスタがいた。
いつも、「男は多くを語るものではない」と、「寡黙な男性」について熱く語る、変わり者・・・それがクレスタであり、周囲からかなり浮いた存在だった。
物凄い美人だけれど、この奇妙な性癖のせいで変わり者と見られている彼女に、自分の従兄弟の話をしたところ、クレスタは「まぁ、素敵だわ。是非会いたいのだけど」と言い出し、イザベラはクレスタと、こちらもかなり変わり者の、寡黙な従兄弟を引き合わせたのだ。
イザベラの後押しもあって付き合い始めた2人だったが、アイゼナッハは殆ど喋らなかった。
喋るのはいつも一方的にクレスタ。
煩いと感じる事もあったが、彼女のそばは居心地が良かったのか、アイゼナッハは彼女を拒絶する事はなかった。
クレスタはかなりの美人だったし、何よりも、明るい性格だったし、彼女の手料理は・・・実に美味しかった。
意外に家庭的だったのが高ポイントだったのだ。
ある時、レストランで食事中に、「ねぇ、エルンスト。結婚しない?」とクレスタから言われた時、一瞬戸惑ったものの、こくんと頷いた。
拒絶する理由が見つからなかったし、断るのも面倒だったから。
クレスタは、「ありがとう。私、幸せ者ね」と嬉しそうに彼の手を握り、アイゼナッハはぎこちなく笑みを返した。
その後に、彼女の家に真っ赤なバラの花束を抱えて改めて求婚に行ったが、彼はここでも一言も喋らなかった。
娘から、散々寡黙な男としか結婚しないだと色々と吹き込まれ、半ば“洗脳”状態にあった彼女の両親は、全く喋らず、娘の言う事に頷いたり、首を振ったりする男を、別段、不思議とも思わなかったのである・・・。
いや、彼女の両親は、異常な男性趣味を持つ娘が、真っ当な結婚が出来るはずもない・・・と危惧していたので、貴族の称号である「フォン」を持ち、軍での地位も高く、その上、申し分ない容貌を持つ男をけなす事など出来なかったのだが・・・。
こうして、この2人は“華燭の典”を挙げ、晴れて夫婦として踏み出したのだった・・・。
「ねぇ、あなた。今度、部屋のカーテン変えようと思うの。それで・・・この柄と、この柄が絞り込んだ候補なの。ねえ、どちらがいいと思う?」
出勤前のひとときに、食後のコーヒーで寛いでいた彼は、クレスタに見せられたカーテンの生地カタログを受け取ってじっと眺めていたが、黙って左側を指をさした。
「え、この柄!?・・・うーん、どうしようかしら。私は右の方がどちらかと言うと好きなの・・・」
どうやら、クレスタの中では、既に右側の柄に心が動いているようだった。
彼女はもう1度アイゼナッハの方を見る。
仕方なく、右の方のデザインを指さして、何度も頷くアイゼナッハ。
それを見て、「それじゃぁ、右のにしてもいいのね?」と、再度確かめてみるクレスタ。
すると今度は大きく頷いたので、彼女はカタログを持って、「あぁ、良かった。ラララン♪」などと鼻歌を歌いながら、早速注文しにヴィジホンへ向かった・・・。
この家のインテリアの大半は、クレスタの選んだものだった。
アイゼナッハ自身が選んだ物は、彼女の指にある結婚指輪と、仕舞い込まれている婚約指輪、それと軍から支給された彼専用のヴィジホン・・・そのくらいで、あとは彼女が調達している。
出征が度重なり、その度に家を開ける夫と違い、家庭を守り、子供を育ててきた彼女には、それくらいをする権利はある・・・とアイゼナッハが考えていたからなのだが、とにかく、家の事は彼女任せになっていて、彼は、よっぽどの事が無い限り、妻のする事に口を挟まず、妻の意向に沿ってきた。
よっぽどの事・・・彼は喋らないが、クレスタに対して不平不満があった時は、顔を顰<しか>めて朝食も食べずに出勤したりするので、訳が分からなくて閉口した彼女が後で訳を聞くと、暫くじっと考え込んでいたかと思うと、便箋に丁寧な文字で「改善策」を書いて手渡したりする。
まぁ、それで改善されるのだから、喧嘩も殆ど起こらない。
寡黙な男性が大好きで、喋らない相手に何を言っても労力の無駄だと悟っているクレスタは、アイゼナッハの改善策には素直に従うし、アイゼナッハも普段は彼女のやりたいようにさせていたので・・・。
この夫婦はいつも平和で、仲睦まじかったのだ。
そんなある日の早朝・・・。
どうしても、アイゼナッハに直接会って、書類に目を通してもらう必要性を感じた国務尚書のミッターマイヤー。
散々迷った挙句、彼のオフィスに連絡を入れると、彼が元帥となってから秘書となったクラッツェ大尉が出て、「あの・・・申し訳ございませんが、閣下は今日は休みでして・・・」との答えが返ってきた。
相手がミッターマイヤーなので恐縮している風なクラッツェに彼は、「あぁ、別に今日でなくてもいいので明日また連絡する。その旨伝えておいてくれ」と言ってヴィジホンを切った。
本来ならば、それで終わり・・・であったが、アイゼナッハが滅多に休まない男であるのを思い出し、「まさか、病気とかそういう類ではないだろうな・・・」と思ってしまった。
さぁ、そう思うと、病気かもしれないという妄想がどんどん膨らんでいく。
「・・・一度、連絡を取ってみるか。・・・言っても、あいつは殆ど喋らんのだろうが」
こうして、彼のヴィジホンに連絡を入れたが、電源が入っていない為、繋がらなかった。
そこで、彼の「自宅」に連絡を入れて見る事にした。
実を言うと、長年同僚として付き合いながら、アイゼナッハの自宅に連絡を入れるのは初めてだった。
それ故に、興味も先行していたのだ・・・。
昼過ぎに連絡を入れると、何故か出たのは彼の妻だった。
(軍の専用回線なんだが・・・。まぁ、いいか)
「主人は今病院に行っていますが」
これを聞いた瞬間に心がざわついて、 「・・・やはり、ご病気で?」と恐る恐る聞いてみる。
「いえ、子供が急に熱を出しまして。私は車の運転が出来ませんし、主人が連れて行ったんです」
「なるほど・・・」
少しホッとするミッターマイヤー。
「でも、先ほど連絡がありまして、もうそろそろ戻って参りますわ。どうでしょう、こちらにいらしゃいませんか?」
「・・・・・・・・・・・・」
ミッターマイヤーは国務尚書である。
いくらなんでも、「こっちに来い」とは強引な物言いだが、アイゼナッハの家庭内を覗いた者は皆無に等しいので、興味が無い訳でもない。
本来なら、アイゼナッハがミッターマイヤーの所に行くのが妥当なのだが、家庭内を覗いてみたい・・・この欲望(?)の方が勝ったのだ。
「それではお伺いします。・・・15時頃になるかと思いますが」
「分かりましたわ」
ヴィジホンが切れた後、ミッターマイヤーは書類を持って現れた部下に、「14時半頃に所用で出かける。車は自分で運転するから誰も付いて来るな。夕方にはまた戻って仕事の続きをやるから、書類はここに置いておけ」と伝えると、特に行く先も言わずにオフィスを後にした。
アイゼナッハが子供を病院から連れ帰ると、クレスタは子供を寝かし付けた後で、ミッターマイヤーが来る事を告げた。
アイゼナッハは驚いて目をを丸くして、抗議するように口を尖らせたが、「あら、だって、いらっしゃいませんか?って聞いたら、『お伺いします』って答えられたのは尚書の方なのよ?」とクレスタに言い込められると、それ以上は抗議出来なかった。
彼は無言で時計を指さした。
「15時頃ですって。・・・あ、そうだわ。お茶の用意をしなくちゃね」
アイゼナッハは憮然とした。
あと40分足らずしかない。
時間より少し早めに到着したミッターマイヤーは、「お茶の用意がしてありますの」とクレスタに言われて、居間に入った瞬間にクラクラと目眩を起こしそうになった。
壁紙、カーテン、テーブルクロス、食器に至るまで小花柄で何とも愛らしい・・・。
テーブルは花で飾られ、とにかく、部屋全体が、花、花、花・・・で埋め尽くされているのだ。
「これは卿の趣味か?」
クレスタがキッチンへ消えた後、ミッターマイヤーが問うと、この家の主であるアイゼナッハは首を横に振った。
「・・・だろうな。いくら何でもこれは・・・。卿は抗議しないのか?」
すると暫く考えて、「こくん」と頷くアイゼナッハ。
「もしかして・・・抗議しても、結局、こうなるってヤツか?」
アイゼナッハは暫し「・・・・・・・・・・・・」となった後で、また頷いた。
頭痛を覚えるミッターマイヤー。
「さぁ、お茶にしましょう。クッキーを焼いてみたのですが、お口に合えばいいですけど」
頂いたお茶も、クレスタの手作りの焼き菓子も、申し分ないほどであったが、ミッターマイヤーは居心地の悪さを感じていた。
(うちのエヴァもここまでの少女趣味は無いし、あのケスラーのところだって、ここまでひどくないぞ・・・)
帰り支度をしたミッターマイヤーを玄関先まで送ったアイゼナッハは、彼の服を引っ張りながら、口に手を当てた。
「・・・何だ。今日の事を口外するなって事か?」
すると、アイゼナッハは大きく頷いた。
「・・・分かった。安心しろ。決して口外しない。・・・俺はミュラーとは違うから」
最後の一言で、アイゼナッハの表情が急に明るさを取り戻したのは言うまでもない・・・。
Das Ende
アイゼナッハで何か書いてみる・・・凄く無謀な試みでした。
100のお題ではありません。
実はアイゼナッハでコメディ・・・は、何作品かあります。
その中には100のお題でも書いています。 それにしても奥様が 「寡黙な男性フェチ」で、おまけに花柄オタク・・・。
まぁ、多くを語るとボロが出るので、この辺でやめておこう。
ミュラーを出さずにミッターマイヤーにしたのは・・・せめてもの情けです。
奥さんは考えたんだけど、子供の名前を考えなかったわ・・・そうだな、ユージィンとか良いかもね。
↑うわぁ、すっげ~、いい加減だ~!!
因みに、アイゼナッハファンの友人には大受けでした。
アイゼナッハが喋らないのに、コメディになっている点が凄いというのですが、これはひとえに、彼の奥さんとミッターマイヤーの力が大きいと思います。
それにしても、良く「しまった」というひとことの為に、津嘉山正種さんを起用してくれたもんだ・・・。
シブイ俳優さんでもあるので、私・・・ファンなんですよ。
フジ系のドラマの「救命病棟24時」の第2シリーズの神宮教授なんて、苦み走ってて、物凄くステキでした~♪
