買ってから、1年半ですが、ケータイがおかしくなりました。
メールもネットも大丈夫なんだけど、肝心要の電話機能に問題発生!
何と、マイク部分がおかしくなり、掛けても、受けても、こちらの声が相手に届かない。
ドコモに持ち込んで、修理をする事に。
6000円弱かかりますが、ポイントが貯まっていたので、別個費用はかからずにすみました。
10日ぐらいは代替え機種ですが、何だか、違和感が…うーん。
ケータイが無いと困るから、暫く、我慢して代替えを使います。
その日の朝。
フレデリカは頭痛でベッドから起き上がれなかった。
身体もかなりだるく、起きるまでにいつもの倍以上の時間を費やしてしまった。
昨日まではこんな事は無かったのだが・・・。
「参ったわね・・・風邪をひいたのかしら?」
このまま仕事に行っても誰かに伝染しかねない。
それがヤンだっりしたら・・・と思うと恐ろしくなりる。
ここは仕事を休んで、医務室にて加療を行う方が賢いだろう・・・と考えた。
それに、頭痛だけではなく、少し熱っぽくもあったし。
体のだるさは、この熱から来ているに違いない。
のどの痛みや鼻は何ともないのだが、とにかく全身が石みたいに重かった。
ヤンから、フレデリカの休みを聞いたシェーンコップは一瞬だけ表情を変え、あごに手を当てた。
これは大方、「救国軍事会議」の事やらなんやらで、さすがの彼女も精神的に参っているのだろうと思い、思いきって休ませたヤンを評価した。
・・・あれだけの衝撃を受けて、身体が参らない方がおかしい。
隙の無い仕事振りでヤンをサポートしている彼女も・・・やはり生身の人間という訳だ。
午前中、重要な会議があったのだが、それを堂々と抜け出して、医務室までやって来たシェーンコップ。
軍服に派手にコーヒーをこぼして大きなシミを作って、何とか会議を抜け出す事に成功したのだ。
我ながらわざとらしい行動だったな・・・とも思ったのだが、あの場合はああするしかなかった。
とにかく、早いところ・・・フレデリカに会わねば・・・。
シェーンコップは、医務室の入り口で若い看護師に、その汚い恰好が不潔だと非難されてしまった。
普段なら軽口を叩いて、その看護士をからかうところだが、今日はそんな余裕はない。
一刻を争うほど緊迫している訳でもないが、とにかく早く事を片付けたかった。
「ここは病室です・・・そんな恰好では・・・」
看護士のマニュアル通りの彼女に、シェーンコップは苦笑を浮かべた。
どうしても入れてもらえなさそうな雰囲気があったが、フレデリカが「入って下さい」と許可をしてくれたお陰で何とか面会にこぎつけた。
「助かった、助かった・・・」
「凄いシミですね」
「あぁ、あの演技を是非とも見せたかったのだが・・・」
「まぁ・・・」
「ところで具合は?風邪だと聞いたが・・・」
「・・・実は風邪ではないみたいで、医務官の話では過労なんですって・・・自分でも驚きましたけど」
「なるほど・・・やはりそうか」
「え?」
「大方、疲労とか、過労の類だと思っていた。・・・ところで、大尉、確認したい事があるのだが、『バグダッシュ』という名前に聞き覚えはあるか?こいつは、実に重要な名前なのだが・・・」
「バグダッシュ・・・えっと・・・」
軍服のまま休んでいたフレデリカに、シェーンコップは「バグダッシュ」という名に聞き覚えがあるかどうか確かめた。
何をおいても聞かねばならない・・・本当に、こいつだけは非常に重要な名前である。
「救国軍事会議」から脱出に成功してヤンの元に投降して来たという話だったが、どうにもこの男・・・バグダッシュをシェーンコップは信用出来なかった。
ひとことで言えば、”胡散臭い”のだ。
歯がゆいのは・・・ヤンがそれを分かっているかどうかだが・・・。
とにかく、危険信号を身体に感じるのだ・・・それも、戦闘中に感じるのと同じレベルの不快感を伴った危険信号を。
このまま、バグダッシュを野放しにするのは自殺行為だった。
だから、姑息な手段で、何とか会議室から抜け出したのだ・・・。
フレデリカの記憶力は良い。
人間コンピュータと言ってもいいほど、彼女の頭脳は明晰である。
それに、彼女はヤンにとっては、なくなてはならない右腕の副官だ。
正直なところ、ヤンが彼女をに切り捨てなくて本当に良かった・・・とシェーンコップは思う。
尤も、切り捨てて自分で何もかも出来るほど、ヤンは器用な人間ではないし、それを分かっているのが救いだが。
(彼女以上に有能な人材が見つかるまでは・・・なんて事を言っているが、簡単に切り捨てる事をしなかったのは彼女の事を・・・。全く矛盾の塊なんだからな、あの人は・・・素直じゃない・・・)
そして、それを裏付けるかのように彼女は有能振りを、この医務室内でも如何なく発揮した。
彼女はほんの暫く思案していたが、軽く首肯して、軟らかく微笑んだ。
「バグダッシュ中佐には、一度だけお会いしたことがあります。五年前、父の書斎で。現在の政治体制に対する不満を述べておいででしたわ」
「確かかい?」
「ええ、我が家でそのような事を話されたのは彼だけでしたのでかなり印象深くて・・・。だから、忘れようがありませんわね」
この記憶力・・・ありがたい能力だ。
これで、合点がいく。
ヤンの元に投降して来たバグダッシュという情報部の男は、やっぱり、とんでもないペテン師野郎だった訳だ。
フレデリカに会う口実を作る為に、不注意でこぼしたように見せかけて、軍服の胸元に派手にコーヒーをこぼしたのだが、やった甲斐があったというものだ。
バグダッシュがフレデリカがあの場にいなかった事を気にしていたのは、彼女がクーデター派の首謀者とされる、ドワイト・グリーンヒル大将の娘だからにほかならない。
面識があるのなら・・・なおの事、気にするはずだ。
きっと、彼女の奪還か、もしくは・・・ヤンの粛清の為に、救国軍事会議側から送り込まれたスパイだ・・・と、シェーンコップは確信した。
クーデター派の工作員。
それならば、早い事、彼を監禁してしまった方が良い。
ただ、情報部の人間だから、色々な事に気が回るかもしれない・・・。
だから、フレデリカが知る限りのバグダッシュの情報を得ようと言う訳だ。
そして、嬉しい事に、たった1度しか会っていないのに、バグダッシュに関して、フレデリカは様々な事を記憶していたのだった。
「さて・・・と。自由惑星同盟がどうなろうと知った事じゃないが・・・。提督に死なれてはこれからの人生が面白くなくなるのは必定。そんなのはご免蒙りたいね」
シェーンコップはあれこれ考えて、リンツを呼んだ。
「おい、バグダッシュのヤツはどうしてる?」
「ヤン提督も甘いですよね。投降ってのを信じているのか、そのまま自由にさせてますよ。大丈夫ですかね・・・?」
「さ~てな・・・」
「武器の帯同も認めているなんてちょっと・・・コワイですよ、これは。後ろから寝首をかかれる事だって視野に入れておかないと・・・」
リンツはヤンが狙われる可能性の事を考えているようだった。
「あの人は、どうも・・・そう言うのに疎いらしい。こちらが気を付けておいた方がいい」
「・・・ですね。それで、どうするのです?准将」
シェーンコップは時計を見た。
現在時刻は午後4時10分。
「人間・・・何もしなくても腹が減る。そうだろう?」
「まぁ・・・確かに前の日にもう食えないと言うほどたらふく食べても、翌日には腹の虫が鳴りますね」
「そういう事さ。とりあえず、あと二時間ほどで夕食の時間だ。そうだ、忘れる前に言っておく。昔演習で使った事のある睡眠薬があっただろう?アレを大至急持って来い」
「演習・・・あ、アレですか?体内に少しでも入れば、一週間は目を覚ます事がないってなぐらい強力な」
「そう、それだ。本当はイゼルローン攻略で使った催眠ガスが一番強力なんだが、あの睡眠薬だって凄い効き目だからな。バグダッシュはワインには目がないらしい・・・これは、グリーンヒル大尉の受け売りだが、彼女の父親を訪ねて来た時に、自慢の赤ワインを持参していたとか・・・」
「ははあ・・・なるほど。そのワインに例の睡眠薬を・・・」
「あの睡眠薬は無味無臭だからな。そして、ヤツは鶏料理も好きらしいから、そいつも用意させよう。料理の中にも睡眠薬は仕込んでおくんだ。何でも、グリーンヒル家に来た時に『肉料理の中では、鶏料理が一番好きなんですよ』と発言していたのを、大尉が覚えていてな」
「・・・ははぁ、噂にたがわず、凄い記憶力ですね」
「あぁ・・・本当にありがたい。これだけ記憶力が良ければ、彼女は優秀な情報部員にだってなれるな。それはともかく・・・炊事班に急がせて、特別な鶏料理を作らせないと。今から1時間以内に作れる鳥料理だな。そいつを、ヤン提督からだっと言って別室でヤツに振る舞う・・・睡眠薬まみれにしてな。あと、高級ワインも一本用意しないと・・・。恐ろしく高い銘柄が好みのようだが、この場合は先行投資だから仕方がないな。・・・そして、このワインにあの睡眠薬を混入させる」
「警戒して・・・食べなかったり、飲まなかったらどうします?」
「人間はだな・・・食べる事と寝る事は・・・したくなくてもしなければ身が持たない。ワインを警戒しても、料理の方はまず大丈夫だろう。ヤツだって大好物をたらふく食えるとなれば・・・手を付けるはずだ。尤も両方とも手を付けなければ、見張りの奴らがバグダッシュを殴りつけて昏倒させる。その為の見張りなんだ。気絶させたところで睡眠剤を注射してそのままタンクベッドに放り込む。モードを冷凍睡眠モードにしてしまえば、全ての事が終了するまで・・・気色悪い眠り姫が出来上がるという寸法だ。これなら、万が一睡眠剤が切れても、起きる心配はないからな」
「用意周到ですね」
「・・・俺達だってな、トマホーク振りかざしているだけじゃないって事をアピールも出来る。まぁ、俺はヤツがヤン提督をナメているのが気に食わんだけだ。1度痛い目を見させた方がいい」
「・・・なるほど」
「とにかく、自由にはさせておくが・・・警戒だけは怠らない。シッカリ見張りは付けるさ・・・。我々・・・薔薇の騎士<ローゼンリッター>連隊がな。見張りは、ゼフリンとクラフト・・・そうだな、クローネカーにもさせよう。見張りはこの3人だ。あいつらは、そういうのに慣れているだろう?」
「・・・なるほど。あいつらなら大丈夫ですよ。何度も見張りを経験していますからね・・・」
「そういう事だ」
リンツは「とにかく、今回は我々が提督を支える訳ですね・・・」と呟き、シェーンコップは「あぁ・・・きっと上手くいくさ」と不敵に笑った。
「そう・・・完璧なようでいて結構抜けているからな、あの人は。提督に死なれたら、俺達はまた邪魔者扱いされるにきまっている。同盟軍の中で飼い殺しの目に遭うなんて、もうごめんだ。ここは本当に自由で居心地がいいからな」
帝国からの亡命者の子弟で構成されている為、薔薇の騎士<ローゼンリッター>連隊は、凄まじい戦果を挙げながらも、軍の上層部はその扱いに苦慮し、今まで思うような行動が取れなかった。
また、昔のように不遇な扱いを受けるなんてまっぴらだ。
だったら、自分達の手で、今の地歩を固めればいい・・・そう、自分達の出来うる範囲で。
「じゃぁ、まず、あの睡眠薬を用意しなくては・・・その役目はブルームハルト・・・出来るな?」
リンツから声を掛けられたブルームハルトは頷いた。
「後は我々二人で・・・炊事班にかけ合って・・・それと、女性士官に・・・協力を要請しましょう。きれいどころが、食事の用意が出来たと知らせたら、バグダッシュは鼻の下をのばすだろうし・・・」
「女性の件は・・・俺に任せろ。大尉の情報では、バグダッシュは金髪で軽くウェーブのかかった女性が好みだそうだ。そして瞳の色はブルーだ」
「そうなんですか?」
「彼女の家に行った際に、彼女に、『金髪なら完璧』とか言ったらしいからな。そして、瞳は緑よりも青だと話していたそうだ。ウェーブのかかった青い瞳の金髪の美女には幾人か・・・心当たりがあるからな」
「そうですね・・・女性の人選は准将に一任しますよ。こういうのは・・・我々ではどうにもならないですから。小官は・・・高級ワインを用意する事にします」
「あぁ・・・頼む。女性は俺に任せてもらえば大丈夫だ。バグダッシュがすぐになびくような美女を用意する。・・・それでは各自、健闘を祈る」
こうして、薔薇の騎士<ローゼンリッター>連隊の“用意周到”な作戦によって、バグダッシュはあっという間に陥落した。
シェーンコップの息のかかった金髪美女を相手に、目の飛び出るような高級な赤ワインを楽しみ、極上の美味い鶏料理食べて・・・スパイ活動をする事が全くないまま、あっという間に眠りこける事になる。
更には、シェーンコップらの手によって、タンクベッドに放り込まれて、冷凍睡眠モードに設定された小さな個室で可愛げのない“眠り姫”になった。
やがて、強制的に目覚めさせられた彼は・・・自分が任務に失敗したと分かると、あっさりと宗旨替えをして、ヤンに転向を申し出た。
その変わり身の早さにヤンは苦笑するしかなかった。
バグダッシュは主義主張などは生きるための方便で、邪魔なら捨てるだけだと、臆面もなく言い切った。
全く悪びれた風もない。
こうしてバグダッシュは正式に“投降者”として扱われる事になった。
バグダッシュは、ヒューベリオンの一室に監禁されたのだが、食事にワインが付かないと文句を言ったり、女性兵士に給仕をさせろと言ってみたり、とにかく図々しかった。
ヤンは、女性兵士の手配はしなかったものの、寛大にワインは付けてやった。
フレデリカが、バグダッシュはワインに目がないと言っていた事もあったからだ。
「シェーンコップ達が用意したほどの高級ワインじゃないけどね・・・」
「いいんですか?」
ヤンの寛大さにユリアンなどは呆れたが、「まぁ・・・ワインぐらいならいいよ」とヤンは呟いた。
ただ、ヤンの寛大さに呆れてばかりもいられない・・・ユリアンは、小さな溜め息をついた。
「シェーンコップ准将も言っておられたけど・・・提督はちょっと甘いかもしれない・・・僕はあの人を絶対に信用出来ない・・・」
口の中で呟くあまりにも小さな声だったので、ヤンには聞き取れなかったユリアンの呟き・・・。
ユリアンは、ヤンの元を離れた時に、普段は持ち歩かないブラスターに満タンのエネルギーパックをを注入した。
そしてポケットにしのばせた。
勿論、これを使う事がない事を祈りながら・・・。
取り越し苦労に終わればいいけれど・・・やっぱり、何でも“用意周到”にやらないと・・・と、ユリアンは覚悟を決めた。
THE END
100のお題より、「用意周到」です。
ヤンもラインハルトも、図々しい男に寛大な^^@
バグダッシュと、フェルナーは共に諜報部員。
何だか同じ香りがするんですよね~・・・案外、この2人は気が合うんじゃないかと思いますよ。
最後は、アレですね。
ユリアンがバグダッシュに銃口を向ける直前。
バグダッシュは、ユリアンの苛烈さに驚いたと思うんですよね・・・本気で。
私だって驚きましたもん。
ユリアン・・・コワっ・・・って。
「用意周到」ですから、作品の中にこの言葉をさりげなく織り込んで・・・アハハハハハ。
シェーンコップ達の「用意周到」と、ユリアンの「用意周到」です。
ヤンはブレーンに恵まれていて良かったと思います。
バグダッシュは、神谷明さんでしたけど、まさか、神谷さんがこんな役・・・。
でも、美女が好き・・・は、冴場さんで演じているけどね。
原作を読んでいるので、バグダッシュが結果的にヤンの元に残るのは分かっていますが、原作を知らない人には、バグダッシュはやっぱり危険人物に見えるだろうし、こんなキャラに神谷さん!?って思った人も結構いたみたいです。
私の従兄弟がそうでしたね。
彼はその後、原作買って、OVA買って、すっかり夫婦揃って銀河英雄伝説のファンになりました。
因みに、従兄弟は会社で同僚から、ビデオ版の銀河英雄伝説(第一期だけ)を借りたそうなんですね。
ところがその人が会社を辞めてしまって、続きがあるらしいけど、どうしようか・・・と思っていたみたいなんです。
そして、従兄弟がビデオを借りるよりも、半年ほど前・・・。
父方の祖母が亡くなりまして。
二週間ほど、祖母の介護で広島に行っていた私は、暇な時に、銀河英雄伝説のクロスワードパズルなんかを作って遊んでました。
そして、お見舞いに矢張り埼玉から出て来た従兄弟が「銀河英雄伝説って面白いの??同僚がビデオを貸してくれるって言うんだけどさ~・・・」って。
「ハマったら抜け出せないぐらい面白いうよ。貸してくれるって言うなら借りてみたら??私は・・・DVDを全部持ってるよ~」って。
その会話を思い出した従兄弟が、「なぁ、アレ・・・貸してくれへん?」って。
従兄弟は大阪出身なのですが、現在・・・私と同じ埼玉に住んでるんで、「うちに取りにくれば?貸すよ~!」って。
田中先生の作家生活25周年の時に頒布された、ヤンのフレーバーの紅茶を飲みながら、我が家でプチオフ会なんぞをしましたです。
あの紅茶・・・再販してくれないかな~・・・ラインハルトのフレーバーのも、ユリアンのフレーバーのも美味しかったからなぁ^^@
因みにヤンのは、ブランデーフレーバーで、ラインハルトのはキャラメルフレーバー(ミルクティーっていうよりも、カフェオレに近い感じ)、ユリアンのはオレンジとかの柑橘系フレーバーでした★
バグダッシュがユリアンに射殺でもされていたら歴史は少しは変わったりしたのかしら?
いや・・・そんなに変化はないかな?
ユリアンって怒らせたら怖そう・・・ヤンが亡くなった時も、あの行動でしょ。
うわぁ、この子・・・怒らせちゃなんね~!!って思いましたですよ・・・。
ここから先は12/4に書いています。
加筆修正と言っても殆ど直していないです。
まぁ、ちょこっとは変わっていますけど。
前のと読み比べるのも一興。
推敲って、原稿用紙に手書きのだと、かなり面倒くさいのですが、ワープロだのパソコンだのでやると、パパっと出来るので非常に簡単です。
これからも、過去作品を加筆修正するつもりです★
その日の朝・・・目覚めたのは午前6時半ちょうど。
ベッドサイドの時計を見て僕は、「もう、朝なんだな・・・」と呟いた。
「良かった・・・。僕は今日も生きている・・・」
薄く眼を開けた僕は、今日も何とか生きていられた事に安堵の吐息を漏らす。
いつもいつも、僕は不安になる。
朝が来なかったらどうしよう・・・永遠に目覚めなかったらどうしよう・・・。
手足が動かなくなったらどうしよう・・・口がきけなくなったらどうしよう・・・。
耳が聞こえなくなったら・・・脳が侵されたらどうしよう・・・。
不安で不安で・・・本当に不安でたまらない。
そんな事を考えながら生きている10代の青年なんて、そういないのではないだろうか?
とにかく、毎日目覚める度に、生きている事に安堵するのだ。
僕は今、19歳だけれど、この年まで生きられたのは奇跡なのだそうだ。
ずっと昔、僕がまだ10歳ぐらいの頃だっただろうか。
その当時の僕の主治医は、「あと5年も生きられたら奇跡と言っても良いでしょう」と言っていたそうだ。
あの禿げ上がって、厭らしい笑いを浮かべていた医者が言う、“奇跡”の15歳を僕は乗り切った。
医療技術が発達し、新薬が開発されたので、僕はこうして・・・何とか生きている・・・と言う訳だ。
ずっとずっと・・・遥かな昔には、僕のような難病の子供は5歳にもならない内に亡くなっていたそうだ。
だから、この年まで生きられるようになった事に・・・僕は大神オーディンや、医者に感謝しなくてはならないのだろう・・・。
僕はゆるゆると身体を動かす。
じっとりと汗ばんだ手を握り締めて、それから、その手をゆっくりと広げてみる。
青白く・・・細い手。
若者の手と言うよりは、まるで老人の手のようだ・・・。
完全に目が覚めた僕はゆっくりと部屋を眺めた。
まず目に入るのはベッドから一番良く見える壁に掛けられた絵画。
元々、この壁には・・・飾棚があったのだけど、ベッドからすぐに目が行く位置にあるので、この棚をずらして、そこに1枚の水彩画が掛けられた。
この絵は、「文人提督」と名高いメックリンガー提督が自分で描かれた水彩画だった。
最近、姉さんから頼まれたのだろう・・・。
提督が僕への見舞いの品として描いて下さった物だ。
僕はそんなに芸術が好きではないけれど、折角なので頂いておいた。
いらないなどとはとても言えないし、提督の絵は・・・その筋では人気が高いのだそうだ。
それに姉さんの事を考えたら、やはり貰っておいた方が良いだろうと思った。
下手に断ったりしたら提督が気分を害するかもしれない。
芸術家の中にはプライドの高い人が結構多いと、いつだったか本で読んだ事があったから。
第一、提督が気分を害したりしたら、今後の事を考えても、姉さんにも迷惑になるだろう。
幾ら僕だって、そんな事はしたくない。
だから、提督にきちんとお礼を言って・・・絵が貰えて、とても嬉しい事を精一杯伝えたのだ。
やがて絵から目を逸らし、窓の方にゆっくりと首を動かす。
毎朝、僕はこの単調な動作を繰り返す。
そして、手が動く事、目が見える事、首が動く事を確認して、安堵するのが日課といってもいい。
普通の人が当たり前だと思っているこんな動作でも、僕にとってはとても貴重な事なのだ。
特に今日の場合は、本当に“生きていて良かった”と、天にいる大神オーディンに感謝しなくては・・・と本気で思った。
やがて僕は、ベッドサイドに置いてあるテーブルの上に置かれた、小さな金の呼び鈴を鳴らした。
「おはようございます、ご主人様」
数十秒後にノックとともに現れた侍女は、いつものようにニコリともしない硬い表情だった。
本当はもっと若いのだろうけれど、愛想がないので、年よりも幾分も老けて見えた。
この顔を見る度に、僕は憂鬱になる。
彼女は、いつものように無言で重いカーテンを開ける。
室内に朝の太陽光が差し込んだ。
その眩しさに思わず目を細める・・・いつも室内にいるせいか、僕の目には太陽の眩しさはかなりつらいものだった。
僕は殆ど外には出ないが、太陽の光を多少でも浴びた方が身体にはいいと医者に言われている。
それで、僕は普段の日中は30分程度は庭で、それ以外の時間は、陽の当たる窓辺で嫌々ながらも過ごすのだ・・・勿論、どちらも車椅子に乗って。
時にはサンルームで過ごし、ここでゆっくり読書などをしたりする。
本当の事を言うと僕は・・・自分の足で歩いて、自分の行きたい所に自由に行きたい。
本を読んだりして過ごすのではなく、もっと他の事をして過ごしてみたい。
窓が開いたのを確認した僕は、彼女の手を借りて、キチンとベッドから身を起こした。
彼女に手伝ってもらって寝巻きから普段着に着替えると、ベッド脇に置いている車椅子に座った。
「・・・ホットミルクを持って来て」
「はい、ただいまお持ち致します」
僕は小食なので、朝はホットミルクだけを飲む。
姉さんは僕の食欲が出ないのをいつも心配しているけれど、元々食の細い僕にはこれだけで十分だった。
侍女に朝食用のホットミルクを頼む。
尤も、本当の事を言えば、僕だって・・・色々な物を食べたいのだ。
だけど・・・それが出来ない。
それが口惜しくて仕方がない。
僕を見待ってくれる姉さんは快活に笑いながら、「あら、もういいの?もっと食べなければ体力が付かないわ」と言う。
確かにその通りだし、僕だって分かってはいるけれど、姉さんから言われる度に苛立っていた。
僕はいつも心の中で、(それが出来たらどんなに良いか。お願いですからもう言わないで下さい)と念じていた・・・。
何もしなくても健康な姉さんには・・・僕の気持なんか、全く伝わっていないだろうけど。
口に出して、そして面と向かって言えればどんなにかいいか。
だけれど、多分・・・口に出してしまったらきっと姉さんが傷つくからだろうから・・・僕は言葉を飲み込むしかないのだ。
「ご主人様・・・ホットミルクでございます」
侍女が朝食用のミルクを運んで来た。
僕はゆっくりとそれを飲む。
5分後、僕が飲み終わったので、マグカップをトレイに乗せて辞そうとする彼女に、「あぁ、そうだ。書斎から昆虫図鑑を持って来て。一番厚いカラーグラビアのがあるから」と告げた。
僕が昆虫図鑑などを頼んだのが不思議に思ったのか、彼女は動きを止めて振り返った。
「あのぅ・・・いつもの詩集じゃなくて昆虫図鑑でございますか?」
侍女が余計な事を聞いてきたので、僕はムッとしてきつく睨み付ける。
「いいから持って来るんだ・・・」
僕が押し殺した声を出すと、彼女の顔色は真っ青になった。
「あ・・・申し訳ございません!ただ今、お持ち致します!」
彼女は怯えたネズミみたいに小さくなって、慌てふためいて部屋から駆け出して行った。
十数分後、僕は侍女が運んで来た、分厚い昆虫図鑑をめくった・・・。
夏になると、辺り構わずやかましく騒ぎ立てる蝉は、幼虫の間は土の中で生活している。
それもかなり長い間だ。
地上に出て、やっとの思いで成虫に羽化したとしても、たったの7日間しか生きられないのだ。
・・・何と哀れな生き物なのだろうか。
でも、その7日間に、人間の一生分に匹敵する神秘のパワーが秘められているのかもしれない。
彼等はその短い間に恋をして、確実に子孫を残すのだ。
そしてその血筋は永遠に続いていく。
けれど、こんな虫でも出来る事が、僕には決して出来ない芸当なのだった・・・。
蝉が馬鹿みたいに鳴いているのだって、きっと彼等には彼等なりの存在の為の意義があるに違いない。
それに比べて・・・この僕はどうだ?
僕は名誉ある名門貴族の家柄に生まれた。
誰もが羨む、名門貴族・・・。
・・・それなのに。
僕は恵まれた生活を約束されながら、乗馬やアーチェリーなど、貴族の青年達が必ずやるスポーツをした経験がない。
それどころか、オペラの鑑賞や舞踏会など、貴族なら必ず行くべき華やかな席に1度だって行った事が無い。
社交界デビューもしていない。
・・・車椅子では、ダンスを踊る事など不可能なので、女性と踊った事がない。
いや、それどころか、結婚だって出来ないだろう。
誰も好き好んで、こんな病人と結婚したいとは思わないだろう。
僕が逆の立場だったとしても、病人との結婚なんてごめんだ。
他の貴族達が当たり前のように享受している山海の珍味・・・美食だって、僕は物心付いてから1度もした事が無いのだ。
それらは、僕を診る医者に言わせれば、“毒”でしかないらしい。
生命を維持するのにギリギリのほんの少しの食事と点滴・・・それが、僕に与えられた、生きる為の“食事”なのだった。
ただ“貴族”であるというだけで、平民以下の侘しい暮らしで、面白い事なんて何一つない。
・・・僕がしてみたいと思う全てが、この僕の蝕まれた弱々しい身体には毒だなんて、僕はこの世に生まれた価値がないではないか。
極限まで痩せて・・・。
骨と皮ばかりになった細く白い腕と、頬肉が削げ落ちて生気の無い顔・・・。
両腕とも点滴のせいで、どす黒い痣がいっぱい浮かんでいた。
眼を背けたくなるような不気味さを醸し出す腕・・・。
深層の令嬢ならば、僕の姿を見たら幽霊だと思って卒倒してしまうかもしれない。
・・・どうして、僕はこんな、みじめで哀れな姿なのだろう?
生きていても特に意味があるとはとても思えない・・・可哀相な僕の身体。
鏡に映った僕は・・・本当に幽霊そのものだ。
あぁ・・・。
姉さんぐらい・・・元気があれば・・・。
健康ならば、僕だってもう少しは楽しい事を考えたりも出来るのに・・・。
何故、大神オーディンは、僕のような者を生かしておくのだろう?
僕は生きていて、意味があるのだろうか??
「ご主人様、もうそろそろ皇帝陛下の行幸のお時間となりますので、どうぞ、お支度を・・・」
畏まった執事が僕の元へやって来て告げた。
そう・・・。
今日はあの皇帝陛下が・・・こんな僕の所へ時間を割いて来て下さる。
あの黄金色に輝く、若き皇帝を拝する事が出来る・・・とても栄誉ある日なのだ。
望んだからと言って、陛下の行幸が叶う人はそう多くは無い。
やはり僕は恵まれた存在・・・なのだろう、一般的に考えたら。
そして、その段取りをしてくれた姉さんや伯父上には感謝しなければならない・・・。
勿論、わざわざ僕の為にお越し下さる皇帝陛下にも・・・勿論、感謝申し上げねば・・・。
「・・・礼服に着替えるからすぐに人を寄越して。キチンと支度をしなくてはね。・・・いくらなんでも、皇帝陛下に、こんな普段着で会う訳にはいかないから」
僕が嬉しそうに言うと、執事も微笑んだ。
「ご主人様、宜しゅうございましたな、皇帝陛下のご行幸など・・・滅多にない事、光栄でございましょう」
「あぁ、本当だ。今日は・・・喜ばしい日だな。だから、急いでおくれ」
「はい、ただ今」
執事は僕が心から喜んでいると思っている。
笑顔のまま下がって行った。
確かに僕は喜んでいる。
けれど、それは、皇帝陛下のお目通りが叶うからではない。
もっと別の意味で・・・喜んでいるのだ。
僕は、心から、“生きていて良かった”と思いたい。
生きていたという確かな証が欲しい・・・。
そして、僕という人間がこの世に存在している事を多くの人に知ってもらいたい・・・。
僕も皇帝陛下のように、歴史の中にその名を残したい。
たとえ他人から見たら馬鹿げていると思える事であっても、何か重大な事を成し遂げてから死んでゆきたい。
妙な宗教の口車に乗っている僕を、「馬鹿なヤツ」だと笑いたければ笑うが良いのだ。
あの人達は・・・僕の抱えている心の闇や苦しみを分かってくれた。
僕の話を黙って聞いてくれた。
そして、僕が生きていた証を立てる方法を考えてくれた。
僕はこういう身体だから、準備が出来ないのを知って、僕の為に色々と便宜を図ってくれた。
あの人達が本当はどんな人達で、本当は何を目的としているのか・・・そんなのはどうでもいい事だ。
何故なら・・・僕にはもう、残された時間が無い。
彼らが何をするのか・・・最終的局面に僕は生きていられないのだから。
だけど・・・。
僕がどんな方法であっても、たとえ不名誉と呼ばれるような事であっても、“この世に名前を残したい”と思っている事を、彼等は進んで手助けしてくれる。
それだけで・・・僕は満足だった。
だから、あの人達への恩返しの為にも、僕が生きていたという証を立てる為にも・・・これは絶対に成功させなくてはいけない。
・・・地に落ちた、惨めで哀れな死骸となる前に。
Das Ende
100のお題より、「蝉の死骸」です。
あえて名前は出しませんでしたが、銀のファンならば、すぐに誰か分かりますよね・・・そう、ハインリッヒ・フォン・キュンメル男爵です。
『蝉の死骸』と言うタイトルを見た瞬間に、彼にしようと決めました。
姉さんってのはヒルダの事です。
それにしても凄く暗いなぁ・・・。(T-T)
地球教徒に捨て駒にされたのも哀れですし、彼は本当に気の毒な人だと思います。
しかし、三ツ矢雄二さんがこの役なんて凄いです・・・。
ここまで病的に暗い役だなんて。
三ツ矢さんと言えば、『タッチ』のたっちゃんとか、『六神合体ゴッドマーズ』のマーグとかが有名なのですが、ちょっとしか出なかったのに強烈だったこの役・・・違う意味で凄かったです。
多分、アンドリュー・フォーク役の古谷徹さんに匹敵するほどの役じゃないかと思います。
今、ふと思ったのですが、ヒルダの従兄弟って事は彼もカストロプ公の親戚なんでしょうかね?
マリーンドルフ伯は親戚ですから、キュンメル男爵家もそうなのかなぁ??って。
しかし、ろくな親戚がいなかったのに、国務尚書の座を勝ち取ったマリーンドルフ伯って、違う目で見たら凄い人ですよね。
さすが、ヒルダの父ちゃんだ!!って思いました。
ここから先は12/3に書いております。
ハインリッヒが、メックリンガーから絵を貰うシーン。
OVAを見ていて、ふと思ったのは、コレ・・・本当に欲しかったのだろうか??と。
もしも、大して欲しくもないのに、ヒルダの手前・・・喜んでいるだけだったら??と、穿った見方をしてしまいました。
健康なヒルダを見ていて、彼は従姉妹を恨めしく、羨ましく、憎らしく思ったのではないかと。
どうして自分が、彼女のようではなかったのか??と。
健康そうで、まるで男性と同じように行動出来て、皇帝陛下の秘書官である美しい従姉妹。
絶対に、羨望の眼差しで観るだけの存在ではなかったと思います。
腹の中では腸煮えくり返るぐらい、ヒルダの事を見て、悔しい、恨めしい、憎らしい、羨ましい、疎ましい、妬ましい・・・そんな存在だったのではないかしら?
けれど、ハインリッヒは、それらの感情を表に出す事は無く、いつもグッと飲み込んでしまっていて、だから誰も彼の心の中の葛藤に気付く事は無く。
彼の負の感情に気付き、そこに付けこんで彼を巧みにコントロールして、自分達の持ち駒の一つにしようとしたのが地球教徒。
彼らだけが・・・彼の本当の気持ちを知っている。
ハインリッヒがそう思って、自ら進んで計画実行をしようとしたのなら、本当に哀れです。
もっと早く、気付いてあげるべきだったのに。
そう、もっと心配りをしていたら、ハインリッヒが地球教徒に接触しても、それを排する事が出来たはずです。
だって、彼は自由に動く事が出来ません。
怪しい人物に接触するにはかかりつけの病院内でか、或いは、屋敷内に出入りする人物だけに限られます。
可哀相な子・・・として見るだけで、彼が抱えた心の闇を理解しようとしなかったツケが噴出したのです。
ヒルダは仕方ないにしても、マリーンドルフ伯にも責任の一端はあると思う。
資産を管理し、治療を受けさせるだけ・・・確かに必要な事だけど、人間的な優しさや愛情をもっと注いであげるべきだったのでは??
まぁ、それを言ってもせんない事ですが。
キュンメル事件を読んだり、OVAを見たりする度に・・・可哀相になりますよ、この青年が。
・・・まぁ、彼の望み通り、歴史に名前を残す事にはなりましたが・・・。
後味悪過ぎる・・・本当に。
ゴールデンバウム王朝ならば、マリーンドルフ伯の一族は間違いなく処刑対象です。
もしそうなっていたら、銀河の歴史は更に大きく変わり、ラインハルトはもっと歪んだ支配者になっていくかもしれませんね・・・あぁ、そうならない事を祈りたいですよね。