天然の川や池や湖、海が存在する辺境の惑星もある。
 そして、そこに珍しい魚でも棲んでいれば趣味の釣りに出かける。
 今私が赴任している辺境の惑星には海はないが大きな淡水湖が幾つか点在している。
 大して大きくも無いし、すこぶる美味でもないが、食用に適した魚が3種類ほど釣れるのだ。
 そして、この惑星にいる動物の中で、この3種類だけが“食用”に適している。


何もない、つまらない惑星ではあるが・・・それだけが救いであった。

 釣りは楽しいし、日頃の疲れを癒してくれる。
 何よりも・・・。
 自らが釣った魚を焼いて食せば・・・酒も美味く感じられる。
 安物の酒でも・・・だ。
 釣ったその場で火をおこし、串に刺して焼いて食べる・・・実に贅沢だ。
 店に行けば、もっと美味しい魚が冷凍で売られていたりするが、“活魚”という点では、この魚には及ばない。
 何でも新鮮なのが一番美味しいのだから。


 因みに、 私の釣りは単純だ。
 竿と糸と、ルアーのようなちょっとした仕掛けに、小さな浮き。
でも、単純に生き餌とウキだけの装備も好きだった。
 簡単に釣れてしまう、自動巻き上げのリールはあまり好きじゃない。
 自分自身の力で釣るのが・・・醍醐味があっていい。



 
 フィッシャー家は、代々軍人の家系・・・という事になっているが、先祖を辿っていくと、これがかなり違う職種だったらしい。
 まだ、人類が地球に縛られていた時代にまで遡れるのだ。
 まさか、そんな古い家柄だったとは・・・と、10代の頃は驚いた。
 確か、「私の祖先」とかそんなタイトルで作文を書かされた時に親に聞いて、自分の先祖の事を知ったのであるが。


 父から聞いた話では、私の遠い祖先は、今の職業とは似ても似つかない。
 何と、遠洋漁業の漁師だったらしい。
 そして、「フィッシャー」という姓は、漁業を生業としているので付いた姓だと知ったのだった。
 薄々、そうかな・・・とは思っていたが、まさか、そんな単純な意味の姓だったとは。

 でも、「ストーン」という姓は先祖が石屋だったり、「グリーンヒル」という姓は先祖が住んでいたのが緑の多い丘の上だったりと、職業やその土地の特徴を表している。


 因みに、父の話では、私の先祖は“マグロ漁”を得意としていたそうだ・・・。
 私自身はマグロというのが、どういう魚かは知らない。
 ただ、古い文献などを調べてみると、かなり大型の魚で、とても高級で美味だったと記されていた。
 地球時代には、養殖も盛んに行われて、一大ブームを巻き起こすほどの魚だったそうだ。
 最初は小さな島国が火付け役だったそうだが、生で魚を食べる文化があったその国の料理が世界中に広まって、この魚を求めて様々な事件があったらしい。
 密猟も増え、乱獲によって生息数が著しく減ってしまった。
 最後には、絶滅危惧指定されていたそうだが、その対策が遅かった為、絶滅の歯止めが利かず・・・。
 天然モノのマグロは、乱獲と海洋汚染で絶滅してしまった。
 それで、職を失った祖先はマグロ漁から他の魚への漁に切り替えたらしい。
 ただ、海洋汚染はどんどん進んで・・・他の魚も激減してしまったそうだ。
 マグロは、天然モノが絶滅したので養殖で賄われるようになったが、あの13日戦争でそのマグロも・・・今や過去のモノとなってしまった。


 そんなに美味しい魚だったのなら・・・食してみたかった。
 今は、ツナ缶と言えば、地球から他の惑星に移民した頃に持ち込まれた養殖の「カツオ」という種類の魚の子孫なのだが、その昔は、ツナ缶は「マグロ」だったそうだ。
 そして、とても美味しかったそうだ。
 私は自分の祖先が漁師だと知ってからは、ツナサンドを食べる度に、「これがマグロだったら、もっと美味しいのかなぁ・・・」と、今はカツオになっているツナ缶を見ながら、朝食の席で良く父に言ったものだ。
 父も「そうだろうな・・・俺だって、マグロを食べてみたいと思ったもんだ」と言っていたのを思い出した。

 ・・・全く懐かしい。



 相次ぐ魚の絶滅で漁師を辞めた先祖は、その後、海から陸へ・・・。
 そして、今現在、フィッシャー家は代々、軍人の家系という事になっているのだ。


 以前、母に「宇宙の海で敵を追いまわすんだから、艦隊勤務の軍人はまるで漁師だな・・・」と言ったら、途端に嫌な顔をされた事があった。
 母は、軍人の家系とは言え、3人の息子を全て軍人にしたかった訳ではなかったから、気分を害したのだろう。
 私には2人兄がいたが、士官学校を卒業して任官後、2年もしない内に2人とも鬼籍に入っていた。
 亡くなった時、2人とも20歳になっていなかったのだ。


 すぐ上の兄が戦死した時、三男の私はまだ14歳だったが、漠然と自分も軍人になるのだと思っていた。
 当時、既に父も2人の兄も戦死しており、我が家に残った男性は私だけであった。
 そして、軍人になるのが当たり前だと思っていた私は、母に相談する事もなく、士官学校の入学案内書を手に入れ、受験してしまった。
 私の合格通知を知って母は「何も軍に入らなくてもいいから」と私を止めてくれたのだが、合格してそれを蹴るのもどうかと思い、私はそのまま進学し、何とか戦死もせずに現在に至っている。


 母は、現在89歳だったが健在で、私が生きて帰る度に泣きながら出迎えてくれる。
 そして、アスターテ会戦前に結婚した妻も、母と私の帰りを待っている。
 私は独身が長かったのだが、親戚から「お袋さんを安心させてやりなさい」と言われ、会戦後、入院を余儀なくされた時に親戚に勧められるままに、15歳も年下の女性と結婚したのだった。
 あまりにも気恥ずかしくて、その事は仲の良い同僚ぐらいにしか話していないが・・・。

 とにかく・・・。
 私は彼等の為に・・・死ぬ事は出来ないと思っている。



 今日は非番・・・だから釣りを楽しんでいる。

でもその前に・・・目の前に広がる風景を楽しむ事にする。
 この辺境の惑星は手つかずの自然が魅力で、釣り以外の趣味をも満たしてくれる。
 早速カメラを取り出して・・・風景を写す。
 写真を撮るのが・・・実は好きで、特に風景写真を撮っている。
 ただ、プロではないのでカメラはありきたりのモノだが。
 
 私が写真を撮り始めたきっかけは、叔父の葬儀の席であった。
 代々軍人のフィッシャー家では、勿論、父の弟も軍人で、父よりも先に亡くなった。
 葬儀に言った際、私はまだ士官学校にも入っていない、10代初めで、叔母から叔父のカメラの1つを形見分けで頂いたのだった。
 叔父は仕事一辺倒の人であったが、唯一の趣味が写真で、叔母が言うには、家族写真を多く撮っていたそうだ。
 写真を撮るばかりであったので、叔父自身の写真は極端に少ないが、写真を見る度に色々な事を思い出せるそうで、叔母は寂しそうに笑いながら当時の事を話してくれたものだった。
 私の使っているカメラは・・・叔母から頂いた、その叔父のカメラだ。
 古いものだが、直し直し、大事に使っているのだ。




 さて・・・。
 今日の天気は上々。
 暑くもなく寒くもない。
 ほんの少しだけ風があるが、穏やかな方だ。
 風が・・・心地良く頬を撫でる。

 写真も撮ったし、落ち着いて釣る事にしよう。

 今日は疑似餌ではなく、小さな生餌を付けて糸を垂らし、力を入れずに自然に竿を持つ。
 静かな水面<みなも>に意識を集中させ、魚が食いつくのをじっと、根気良く待つ。


 ・・・ところが、朝から辛抱強く待っているというのに、今日に限って1匹もかかる気配が無い。
 それこそ、くだらぬゴミさえもかからない。
 じっと待っていても今日は無駄かな・・・と諦めてみる。

 本当に、天気はいいのに。
 釣りのポイントを間違えたのか・・・。
 たまにはこんな日もあるものだ。
 短気は損気・・・。
 ふて腐れるのは良くない、良くない・・・。
 もう少しだけ待ってみようと思い直し、また水面<みなも>に意識を集中させる。



 やがて、付けていたウキが微妙な動きをする。
 やっと魚がかかった気配がした瞬間に、集中力を妨げるように不意に鳴り出す携帯の音・・・。
 因みに着メロはボギー大佐である。
 釣りに専念する出来なくなって実に残念な思いだが、傍らに竿を横に置いて慌ててボタンを押す。


 小さな画面には、見慣れた、けれど懐かしい顔が浮かび上がった・・・。
 かつての同僚・・・フョードル・パトリチェフ中将だった。


 「おや。これは・・・珍しいですね」


 私の問いに対して・・・。
 巨漢の参謀は、私の私服姿に気付いて、「あれ?今日は非番ですか?」と大真面目な顔をした。


 「ええ、まぁそうです」
 「ところで・・・今、何しておられるんですか?」


 その真面目な問いかけがおかしくて、「・・・いや、なに。今日は趣味の釣りしていまして・・・」と答える。
 「ははぁ・・・釣りですか。いいですなぁ・・・私も釣りは好きなんですよ・・・。ところで釣果はどうですか?」
 「それがサッパリ。どうやら・・・今日は全く駄目みたいで」と私は苦笑しながら答える。
 「こういう日もあるモノですよ」
 「それは残念ですね・・・」


 私は、先程・・・かかりかけた事は言わないでおこうと思った。
 言ってもせんない事だったし・・・。


 「実はですなぁ・・・先ほど連絡がありまして」
 「え・・・連絡ですか?」
 「どうやら、イゼルローン要塞行きが決定になったみたいなんですよ。こっちとしてはやっと来たか!・・・なんですがね」
 「え・・・ははぁ・・・とうとう」


 私は顎を撫でる。
 どうやら、少しばかり動きがあったようだ。


 「動き始めた・・・という事ですね?」 
 「そうなんですよ。あ・・・そちらには連絡は?」
 「まだ来ないですが・・・」
 「・・・なら、じきに行くと思いますよ。ほんのちょっと前に、ムライ中将の所にも連絡が来たそうですから。連絡がいくのは時間の問題でしょう」
 「なるほど・・・ムライ中将の所にも連絡があったんですか」
 「らしいです。またすぐに会えるんですなぁ・・・楽しみになって来ました」


 感慨深げなパトリチェフ中将の言葉に私は頷いた。
 かつての同僚・・・だが、また一緒の職場に復帰出るのだ、我ら3人は。


 「また皆に会えるなんて思いませんでした、こんなに早く。・・・それはそうと、ヤン提督はお元気ですかね?」


 その問い私は頷いた。
 元気でいてもらわねば困る。
 だから、色々な思いを込めて口に出した。


 「・・・きっとお元気ですよ。元気であってもらわないと困りますからね」


 私は、ヤン提督や、様々な人々の姿を想像してみる。
 あの人、この人・・・みんな元気だろうか?
 早くい会いたい。
 そして、また一緒に仕事がしたい。


 「あなたやムライ中将に連絡があったという事は、じきに私にもお声がかりがありますね。・・・期待して待っている事にします」


 パトリチェフ中将からの連絡が終わったちょうど10分後・・・。
 私にも軍から連絡があった。


 「至急辺境区の事務所に出頭せよ」


 私は無機質な事務官の口調ですら、何となく嬉しくなった。
 それぞれ、別々の辺境区の任務に着いている3人にも声がかかるとは・・・。
 軍も本格的に動きだした証拠か。
 ・・・こんな辺境で過ごすよりも。
 早くヤン提督の元へ行きたいと、多少の期待をしていたのも事実だったが。
 
 私はいそいそと帰り支度をしながら考えた。
 今度の従軍は、今回の釣りに似ているかもしれない・・・と。
 かなりの忍耐力を必要とされるだろう・・・と。
 それでも、こんな辺境で燻ったまま終わるよりはよほどマシだった。


 私はヤン提督と一緒に何か『大きな事』をしてみたかったのだ。





THE END



 
 100のお題より、「釣りをする人」です。


 『何か大きな事』を釣り上げる、またはやり遂げる=で、ヤンの元で絶妙な艦隊運動をやってのける彼を描いてみたかったのだけど、こんな妙ちくりんな話になってしまいました・・・。


 ・・・と言う訳で、主人公は一応エドウィン・フィッシャー氏です。
 ムライさんは出しませんでしたが、パトリチェフさんを出しました。
 3人でイゼルローンへ向かう直前だと思って下さい。


 タイトルから連想出来たのは彼だけでした。(一番最初にと・・・言う意味)
 何しろ、姓がまんま、『釣りをするひと=漁師』なんだもん。

 この姓は英語圏でも見られる姓なのですが、同じフィッシャーでも英語とドイツ語ではスペルが若干違うのです。
 で、調べてみたら、フィシャー提督の名前のスペルはドイツ語圏の物でしたので、元々は帝国の出身かも・・・。


 そう言えば余談ですが、ユリアンのミンツ家は・・・帝国を最初に脱した『長征1万光年』以来の名家だそうで。

 ユリアンのお祖母さんはその事を誇りに思っていたので、息子が結婚した相手が帝国からの亡命者の娘だったのが気に入らなくて、「息子を奪った女の子供」とか言って、孫のユリアンにもつらく当たっていたようで、彼の幼少時代の写真を全て処分しちゃったんですよね。
 うーん・・・凄い人だ。
 お祖母さんはユリアンの名前も気に入らなかったかもしれないな・・・って。
 だって、「ユリアン」ってドイツ語読みなんだもん。
 英語読みなら、「ジュリアン」になるはずなので、お祖母さんが気に食わない要素がいっぱいだな・・・と。


 そして思った事。
 スイスに実在していた、フィッシャー提督と同姓同名の、あの名ピアニストも祖先は漁師だったのでしょうか?? 
 アハハハハハ・・・。

 フィッシャーって、あの第4艦隊の生き残りなんだよね。
 ・・・って事はだ。


 第6艦隊の生き残りの人もいたのかなぁ??
 原作の中に、第4、第6艦隊の生き残りの人って、フィッシャー以外では明確に描かれてないけど。

 私的には、ムライさんよりも、フィッシャーの方が年長かな?とか思ってみたり。


 最終的にこの3人の中で生き残ったのはムライさんだけ。

 パトリチェフの「よせよ、痛いじゃないか」って最期のセリフがねぇ・・・何とも言えず。

 フィッシャー役の鈴木泰明さんは、「アルプスの少女ハイジ」で、クララのお父さんのゼーゼマンさんをやってました。
 アニメでは結構お父さん役が多いんだよね。


 フィッシャーの趣味は釣りとそしてカメラ。
 このカメラってのがミソでしてね。

 分かる人には分かるし、分からな人には全く分からないと思いますが・・・。
 OVAを知っている方、特に第3期のエンディングを思い出して下さいな。

 ユリアンが写真を見ていますが、あの中にフィッシャーはおりません。
 あれね~・・・。
 フィッシャーがカメラマンなんだよ!!
 ・・・って話を友人にしたらば、皆、「あ~!!確かにそうだよ!!」って盛り上がりましたね。

 だってさ、フィッシャーいないと本当はおかしいでしょ、あの中に。
 でさ、この写真を写しているのは誰??って事になったら、あの中にいない人になる訳ですよ。

 因みに、あの映像で違和感があるのはカリンだ。
 何で彼女だけドレス??

 あれは、彼女がいたら良いなぁ・・・って考えている、ユリアンの妄想です。
 あのガーデン・パーティーにあのドレスは不似合いです・・・だから、妄想。








 私の上官はアーダルベルト・フォン・ファーレンハイト少将。
 姓の前に“フォン”が付き、それは貴族の称号である。
 そして、副官である私の名は、エミール・フォン・ザンデルス。
 これまた貴族の称号を持つ。
 ・・・だが、この称号があるからと言って金持ちかと言うと、その真逆もある。
 平民以下の暮らしをするモノだっているのだ・・・。
 つまり、“名のみ”の貴族でしかなく、やたらと兄弟が多かった為、私も閣下の家も・・・ハッキリ言って貧乏だった。
 ある意味、平民よりもタチが悪いかもしれない。
 
 閣下は子供の頃、栄養状態があまりにも悪かった為に、栄養失調になりかけた事があるそうだ。
 今時分、栄養失調?と笑う人もいるかもしれないが、“貧乏子沢山”とは良く言ったもので、私の家や閣下の家は・・・そういう家だったのだ。

 日々の食事に困る生活。
 名前のみとは言え、貴族は貴族である。
 平民よりも優れていなければならないから、それは大変だった。
 “貴族”としての体面を保つ為、人から見られる家の外観やら、衣類に結構お金をかける為、削るのは食費という事になる。
 衣食住で、“食”はあまり人から見えない為、本当に涙ぐましいぐらいに削るのだ。
 朝食を抜いたり、「小食」を理由に食事量を制限したり。
 ・・・育ち盛りの子供にまでそれを強要するのだから、栄養失調にもなろうものだ。
 
 閣下の栄養失調は薬によって改善され、何とか一命を取り留めたそうだが、その時の影響で・・・。
 髪の色が、プラチナブロンドになってしまったそうだ。
 それまでは、ライトブラウンだったそうだが・・・。
 そして、それ以来、あまり太れない体質となったとおっしゃっておられる。
 適度な筋肉は付いてはいるが、どちらかと言うと痩せ型なのだ。
 ただ、閣下の場合は体質だけではなく、自己管理の賜でもあったが。


 閣下は私には「本当は甘い物は好きなんだ」と話して下さった事があるが、実際には甘い物を殆ど口にされない。
 太れない体質なのだから食べても問題は無いはずなのに、甘い物を口にしないのは、単に無駄な金を使いたくないからだという。
 レストランなどに食事に行くと、デザートは別料金になっている所が殆どである。
 「甘い物が苦手」と言っておけば、食後はコーヒーを飲む程度で済む。
 閣下の場合は、リーズナブルな料金で、コーヒーがセットになっていて、しかもお代わり自由の店が御用達である。


 甘い物を殆ど口にしないお陰なのか・・・。
 それは私も一緒なのだが、閣下も私も軍での健康診断では体脂肪率が極めて低かった。
 飲酒も人の驕りでワインを飲む以外は、専らアルコール分の低いビールや発泡酒などが大半なので、私達は肝臓も丈夫だった。
 健康診断があるからと言って、食事の量を減らしたり、一週間以上前から禁酒をする人もいるが、我々の場合は金が無いから元々それほど飲まないし、食べな
いから、健康診断前に慌てたと言うためしがない。
 私などから見れば、健康診断前に慌てる前に普段から自己管理をするべきだろうと、そういう人達に呆れていた。
 実際、閣下も「日頃からの節制が健康診断時に役に立っている。自己管理の賜物だ」と話していた事がある。




 ある日・・・。
 閣下と2人で街を歩いていた時・・・。
 ふと閣下が足を止め、まわりをキョロキョロと見回された為、私は不審に思った。


 「あの、閣下。どうかなさいましたか?」
 「う・・・ん。いい香りが・・・。ザンデルス・・・何の香りだ?香ばしい・・・実に良い香りだ」
 「え・・・あの??」


 確かに、どこからともなく香ばしい香りが漂う。
 お腹が空いているから、なお余計に美味しそうに感じてしまう香り・・・。
 どうやら、ケーキ屋さんが近くにあると思われた。
 漂ってくる香りは、バターやアーモンド、それから、ココナッツやバニラの香りだったのだ。


 「閣下・・・多分、この近くにケーキ屋さんがあるのではないでしょうか?」
 「ケーキか・・・久しく食していないな」
 「それは、小官もです」
 「たまには・・・ちょっと寄ってみるかな・・・」
 「え??」


 閣下の言葉に私は驚いた。
 ・・・ケーキを買おうとでも言うのだろうか??
 香りを頼りに歩いて行かれる閣下。


 「あの・・・閣下!?」
 
 スタスタと速足で、香りのする方に歩いて行かれる閣下。


 「卿も一緒に来い」


 とても珍しい光景。
 何しろ菓子屋に行くのだから。
 私は慌てて閣下を追った。


 
 そこは、こじんまりとした小さいな店だった。
 人が4人も入れば満杯になってしまいそうな小さな店。
 店内の小さなショーケースの中には、ザッハトルテ、フランクフルタークランツ、シュト-レン、バウムクーヘンに、ツヴィーベルクーヘン、アイアークーヘ
ン、ケーニッヒクーヘン、アプフェルシュトゥルーデル・・・色々なお菓子が並んでいる。
 小さいが、品揃えは結構あった。
 どれもこれも美味しそうで・・・しかも値段が手頃だった。
 高級菓子の老舗の『ケルツェ』に比べると値段は五分の一ほどの安さだった。
 このような安い菓子屋があろうとは・・・驚きだった。

 その中に、「フィナンシェ」というのがあって、閣下の眼はそこに釘付けになっておられた。
 



 「フィナンシェか・・・」
 「閣下?」
 「・・・実を言うと、これには目がなくてな」
 「え・・・そうなのですか?」


 私も「フィナンシェ」は好きだが、滅多に食べないし、ここ数年は食べていなかった。
 “目が無い”と言うからには、これは閣下の好物なのだろう。
 私は閣下の好物を知った事でちょっと嬉しくなった。
 
 閣下は、女性店員に声を掛けた。
 10代後半ぐらいだろうか?
 そばかすの目立つ、おさげ頭の少女が、ショーケースの向こう側にいる。
 どうやら、ショーケースの上が、レジ・カウンターになっているらしい。


 「悪いが、このフィナンシェを2つ頼む。あ・・・すぐに食べるから袋に入れるだけでいい」
 「はい、かしこまりました」


 女性店員が小さなトングでフィナンシェを掴んで、薄桃色の紙袋に入れて手渡してくれた。
 閣下は珍しく値切る事もなく、代金を支払った。


 「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
 「あぁ・・・またな」


 閣下は紙袋を手に歩き出し、私はその後を付いて行った。


 
 途中、大きな公園に差し掛かった時、閣下は、「おい、付き合え」と言って、公園に入って行かれた。
 噴水近くのベンチに腰を下ろすと、紙袋を開けて、小さなフィナンシェを取り出し、1つを私に差し出した。


 「ほら、これは卿のだ」
 「え、宜しいのですか!?」
 「あぁ、遠慮せずに食え。これは美味しいからな。溶かしバターとアーモンドの風味が凄く良いんだ」


 私は、閣下にお礼を言ってフェナンシェを受け取ると、手の中の小さなそれをじっと見つめていた。


 「何だかな、このフィナンシェを食べていると金持ちになった気がするんだ」
 「え・・・どういう意味ですか!?」
 「この菓子の語源を知っているか?」
 「いいえ、知りません」
 「そうか。これの語源は古い言語だそうだが、何と『金持ち』と言うんだそうだ。それで、この菓子は、金の延べ棒みたいな形になっているんだ」
 「あ・・・この形!金の延べ棒を模していたのでか」
 「あぁ、俺も大人になってから知ったんだがな。子供の頃、これに生クリームと真赤なドレンチェリーとアンゼリカを乗せて、蝋燭を立てて誕生日の祝いをし

たものさ」


 何と言う慎ましい誕生日ケーキなのだろう。
 でも、思い出が詰まったケーキ・・・なのだろうと私は思った。


 「うちは子供の数が凄かったからな。ホールケーキなんぞ買える訳が無い。それに小さなケーキでも良い値段するから、フィナンシェを使ってアレンジしてい

たんだ。少し遠くの街に安い菓子屋があってな。誰かの誕生日の度にそこへ歩いて買いに行ったものだ」
 「安い店ですか」
 「あぁ、今日行った店ぐらいの小さな店で、今日買ったモノの三分の一ぐらいだったかな」
 「それは安いですね」
 「まぁ、あれから20年近く経っているからな。今もその店があれば、値段は上がっているだろうが、とにかく、皆で生クリームを泡立てて・・・。ドレンチェリ

ーとアンゼリカは奪い合いで・・・だけど、楽しかったな」
 「・・・それでは、このフィナンシェは、懐かしい味と言う感じですか?」
 「まぁな・・・。だから、たまに食うんだ・・・。少しでも金持ちになった気分を味わいたくて。これぐらいなら多少食べたって体脂肪にも影響ないだろうし。俺に
とっては小さな贅沢だな」


 そう言って微笑む閣下。

 私は何とも言えぬ気分になっていた。


 「いつかは苦しかった事もいい思い出になるでしょうか?」
 「・・・そうだな。苦しい事ばかり考えて暗くなるよりも、苦しかったからこそ、今があるんだ・・・と思った方がかなり気が楽だぞ?」


 閣下は笑顔で切り替えして下さり、私も「ええ、本当にそうですね・・・」と頷いて、閣下が下さったフィナンシェを齧った。


 ・・・久し振りに食べたフィナンシェは、何とも懐かしい味と心地好さを運んでくれた。





Das Ende





 100のお題より、「体脂肪」です。

 私は辛党です。
 甘い物はあんまり好きじゃないんだけど、それでも好きな物は幾つかあって、このフィナンシェは好きです、凄く。


 あと好きなのはミスドのフレンチクルーラー。

 ミスドには、エンゼルフレンチとか、他にも色々ありますが、わたしはこればっかり。
 どうも、他のはあまり得意ではありません。
 なので、ミスドで好きなのは、フレンチクルーラーか、小さくて食べやすいので「Dポップ」です。


 最近、ダンナに「コージーコーナーのミルクレープはあまり甘くないから食べられる」と言ったところ、何故か、しゅっちゅう買って来るんです。
 ダンナもこの味にハマって、自分だけ買うんじゃ悪いから・・・っていうのだけど、1個だけってのはサミシイので2個買ってるみたいです。
 それに2個買えば、れっきとした「お土産」になりますからね。
 1こだけじゃ、スイーツ男子と見られてしいますし・・・やはり恥ずかしいのでしょう。

 そんな訳で、月に何度か食べますが、私的には飽きて来ました・・・。
 それに、「レモンチーズパイ」の方がもっと甘くないので、今度はそっちにしてもらおうっと。(笑)


 この間は、うちのダンナ・・・何故か、「モンブラン」を買って来てね・・・。
 泣きそうになりました・・・だって、苦手なんだもん。
 しかも、大きさが・・・デカイ。
 ふうふう言いながら完食しました・・・当分食べたくないです。


 甘い物と言えば、シュトーレンも好きです。
 ドイツのクリスマスには欠かせないと言うシュトーレン。
 「成城石井」に売られているので買おうかしら??
 
 そうそう。
 マドレーヌとフィナンシェって似ているんだけど、私は断然フィナンシェ派です。(笑)
 どうやら、好きな焼き菓子は、アーモンド風味とか、ココナッツ風味とか。

 なので、マカロンなんかも好きです・・・沢山は食べられませんが。


 しかし、ファーレンハイト家の誕生ケーキって、ちょっとショボ・・・(禁句だな。笑)


 ドレンチェリーは物凄く真赤で、アンゼリカは物凄い緑色。

 どっちもケーキの材料のコーナーで売られていますが、着色剤まみれな感じで好きになれません。
 子供の頃は透き通った赤や、透き通った緑色が魅力的に感じたモノですが・・・。

 今はケーキは生クリームたっぷりのケーキが主流ですが、私の子供の頃はケーキと言えば・・・バタークリームのケーキでした。


 この手のケーキには飾りとして、真赤なチェリーとアンゼリカが乗ってました。

 あ・・・そうだ。
 ドレンチェリーは、名前の通り、さくらんぼが原料なのですが、アンゼリカって、蕗なんですよ・・・フキ!!
 フキなんて、煮物に使われるイメージですが、砂糖漬け・・・ウーン、凄いです。

 まぁ、アンゼリカは和名を「セイヨウトウキ」って言うのですが、日本ではあまり栽培されていないので、日本国内では、フキを代用品として使っているそうです。
 茎の中が空洞で、大きさも、食感も・・・そして、見た目もそっくりだからだそうです。
 違うのは・・・その香り。
 元来、「セイヨウトウキ」を使ったモノは刺激的な香りがするそうです。
 でも、フキで作った代用品の方は、ほぼ刺激的な香りはナシなので、日本人には、この代用品の方が安上がりな上に、味覚的にも合うらしく。
 安上がりなので・・・ファーレンハイトの食べていた、アンゼリカも、代用品かもしれません??













ワタシの髪の毛は、伸ばしっぱなし。

一昨年の夏に切ってから、全く美容院に行ってなくて、何と腰までの長さ。

髪の毛を洗うとき、椅子に座ってシャワーをかける時、下を向くと、髪はお風呂の床についてしまい、重みで首が凝って。

そこで、思い切って、バッサリ!

…とは言え、肩に付くか、付かないか…ぐらいの長さなので、ショートではなくて、セミロングより、若干短いぐらいかな。

行き付けの美容院は、銀座のど真ん中。

もう、20年は行ってます。
オーナーさんは、最初は大きなお店に勤務されてましたが、10年ほど前に独立。
表通りに念願のお店をオープンさせたのですが、ホント凄い。

ただ、ワタシがあまりに行かなかったので、手入れの悪さを指摘されちゃいました。

これからはマメに通います。