今日の朝、偶然見てしまいました。私ではなくYがThaiPBS(タイの公共放送)のテレビのドキュメンタリー番組を見ていました。日本の今を取り上げた番組でした。頼みもしないのに、途中からYが私にその内容を英語で解説してくれました。

 

私は最初から見ていないので番組のタイトルを知りませんが、現在の円安からストーリーが始まったようでした。なぜ最近日本の円が売られるようになったのか・・・そのカギを日米の金利格差と言うよりは、もっと構造的な問題に踏み込んでいたので、私も途中から本気で見始めました。

 

日本の刑務所の情景が映し出されました。そこではたくさんの高齢者が収容されていました。かつては日本の高度成長に一役買った世代が生活苦からスーパーで万引きをして刑務所に入れられたケースを取材していました。

 

次に大阪の釜ヶ崎の街が出てきました。路上で生活したり、お金がないので木賃宿で暮らすみすぼらしい姿のお年寄りたちです。その多くがかつての勤勉に働くサラリーマンで家族と一緒に中流の暮らしをしていたはずです。悲惨というより、ちょっとユーモラスな高齢者として描かれていました。そういう地域は日本だけでなくタイにも勿論ありますし、アメリカなどの先進国にも当然たくさんあります。世界中に社会からはみ出した人たちが暮らす地域があります。でもその番組では、落ちぶれた高齢者の姿が、経済大国の地位から引きづり降ろされた日本の象徴として描かれていました。

 

そこまでは番組のイントロのようなもので、いよいよ日本の産業の凋落に話が移りました。ソニーのウォークマンに象徴されるアイデア勝負の技術大国だった日本。テレビ、冷蔵庫、洗濯機・・・日本の家電製品は世界中で売れました。パソコンと言えばNEC、東芝、富士通・・・。今の世界で誰がそういう会社名を知っているでしょうか?ケータイ電話もかつては日本の得意分野だったのですね。今は中国、韓国、アメリカのメーカーを知っていても、日本のメーカーは時代から取り残されました。それはなぜでしょうか?

 

かつては「ものづくり」と言う言葉で表されていた優れた技術の国・日本はどうなったのでしょうか。ひと頃の経済大国の地位に安住して「日々の技術革新」を忘れてしまった日本。そして研究者や技術者の待遇が世界に比べて相対的に後退する一方の日本に見切りをつけて、優秀な人材が海外に活路を求めるようになってしまったのです。他国の製品と競争しなくても一定の利益が確保できた円安。それに安住して努力を怠ってしまった日本企業がジリ貧になるのは当然の帰結です。そして何よりも、日本の若者たちがチャレンジする意欲を失い、現状維持でよしとする傾向が日本の産業の凋落に拍車をかけていると指摘しています。

 

最後に番組は自動車の話に移ります。トヨタは2022年の統計では世界ナンバーワンの地位にあります。しかし番組はそこにも暗雲が垂れ込めている事実を抉ります。言うまでもなく驚異的に伸びている中国のEV車。私としては中国がすごいと言っても、じゃあ本当に品質がトヨタより優れているのか、アフターサービスはどうなんだいと言いたくなります。でも日本の自動車産業が時代に取り残される日は来ないとは言い切れません。いや、すでにもうその時が来ていると番組は指摘しました。数字を見ると外国の新興メーカーの伸びが凄まじいからです。

 

かつてドキュメンタリー番組を作ったことのある私としては、番組の前半に刑務所の高齢者を取り上げたり、大阪釜ヶ崎の人々を延々と取材しているのは納得がいきません。刑務所も釜ヶ崎も日本経済の凋落の象徴として取り上げるのに適切な場所だとは到底思えないからです。でも、ここ数年の円安が単に為替のゲームではなく、よく「円安=円弱」と言われるように、日本の産業そのものの落ち込み、技術力の低下がその背景にあるのだという解釈は当たっているかもしれません。かつての“技術大国日本”がもう存在しなくなるのかと思うと、技術者でも何でもなかった私ですら寂しい気持ちになります。

 

それにしても、日本は長い間タイに対していろいろな技術援助をしてきたわけです。そのタイの公共放送局が「日本の凋落」を描いた番組を放送するようになるとは、時代も随分と変わったものだなあと思います。

 

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