“かがやき”に乗って
新幹線1本で福井へ
関西との分断や二次交通の衰退が課題
AERA dot. 2024年4月30日(火)
11時02分 配信
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JR敦賀駅に停車中の「かがやき」。デザインコンセプトは「“和”の未来」。
JR東日本とJR西日本の共同開発だ
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坂川陽香 (さかがわ・ひゆか) / 福井県出身。「かがやきちゃん」に扮して、地元テレビに出演し
福井をPR。AKB48のメンバーとして、全国区でも活躍中 (福井放送提供) (dot.)
北陸新幹線が敦賀まで延伸し、福井がぐっと近くなった。新設された駅も魅力的で、地元出身のAKB48メンバーも応援する。だが、特急廃止に伴う関西との「分断」や、二次交通の問題もある。
AERA 2024年4月29日 - 5月6日合併号より。
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高さ37メートル、日本で最も高い新幹線の駅はこちら
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青にゴールドのラインがまぶしい「かがやき」が、福井にやってきた。
「待ちに待ってました。福井の発展にもつながると思います」
と、都内に住む女性 (30) は笑顔で話す。実家は福井市にあり、これまでは帰省する時は、北陸新幹線で金沢まで行き、乗り換えていた。それが新幹線1本で、帰れるようになったのが、何より楽だという。
「元日の能登半島地震で石川と福井も被害を受けました。新幹線の延
伸で、復興の後押しにもなってほしいです」
■ 関西の奥座敷が身近に
北陸4県のうち、これまで唯一新幹線が通っていなかった福井県。それが3月16日、日本海に面する福井県南部の港町、敦賀まで乗り入れたのだ。開業した金沢 ― 敦賀間(125キロ)には、小松、加賀温泉、芦原(あわら)温泉、福井、越前たけふ、敦賀 ── の六つの新幹線駅が新設された。
北陸新幹線は1997年10月、高崎 ― 長野間で開業し、2015年3月に金沢まで延びた。今度は2度目の延伸となる。
新幹線ができると、時間と距離が縮まる。
最速の「かがやき」の場合、東京 ― 福井間(約530キロ)は2時間51分で、延伸前の金沢乗り換えより36分短縮された。東京 ― 敦賀間 (約580キロ) は50分短縮となり3時間8分となった。
金沢 ― 敦賀間は車窓が楽しい区間だ。トンネルが少なく、全体の約7割が橋梁や高架橋。金沢から敦賀へ向かう時、進行方向左側の車窓に目をやると、天気がいい日は遠くに霊峰・白山の絶景を眺められる。
鉄道評論家の川島令三(りょうぞう)さんは、「延伸によって首都圏から多くの人が福井に来る」としてこう話す。
「芦原温泉はこれまで『関西の奥座敷』と呼ばれていましたが、新幹 線の新駅ができたことで『東京の奥座敷』になるかもしれません。 また、今まで関東から、小浜(おばま)や三方(みかた)など敦賀 より西に行くには不便でしたが、敦賀で1回乗り換えればすむので
便利になりました」
しかも、北陸は豪雪地帯で飛行機に欠航や遅れが出ることもあるが、北陸新幹線は雪による運休も比較的少ない、という。
鉄道ファンが熱い視線を送るのが、北陸新幹線の東京方面からの終着駅となる敦賀駅だ。
駅舎の高さは新幹線駅として日本一を誇る37メートルで、12階建てビルに相当する。デザインコンセプトは「空にうかぶ ~ 自然に囲まれ、港を望む駅 ~ 」。その名の通り、晴れた日には、敦賀湾の青く透明な海も望むことができる。
■ 利用者の負担増区間も
だがしかし、手放しで喜べることばかりではない。
鉄道ジャーナリストの松本典久さんは、「大阪・京都 ~ 北陸、あるいは名古屋・米原方面 ~ 北陸は利用者の負担が増えた」 と指摘する。
新幹線が開通すると、並行する在来線を経営することはJRにとって過重な負担となるため、JRから分離されるのが通例だ。今回もJR北陸線金沢 ― 敦賀間は、第三セクター事業者に経営を移管された。そしてそれに伴い、大阪や名古屋から福井や金沢に直通していた在来線特急「サンダーバード」「しらさぎ」が敦賀止まりとなった。乗客は、金沢方面に行きたい場合は、敦賀での乗り継ぎが必要になった。
「例えば、大阪 ― 金沢間の利用は、従来よりも22分短縮されました。しかし、一方で利用にかかる価格も変化し、特急料金は在来線分だけでなく、新幹線分も負担することになり、大阪 ― 福井間2730円から3880円と特急料金が1.5倍。ブーイングも起きそうな気がする」
(松本さん)
先の川島さんは「分断が起きた」と批判する。
「北陸は関西と経済的にも結び付きが強かった。政策だけが先行して、
関西からの乗客を無視している」
地元からも不安の声が上がっている。
「二次交通をもっと大切にしてほしい」
こう話すのは、鉄道友の会福井支部長の岸本雅行さんだ。
■ 二次交通の衰退を懸念
二次交通とは「駅からの交通」のこと。福井県内には、JR越美北線(えつみほくせん) (越前花堂 ― 九頭竜湖) とJR小浜線 (敦賀 ― 東舞鶴) 、さらには私鉄の「えちぜん鉄道」と「福井鉄道」が走っているが、いずれも苦しい経営が続いている。
岸本さんは、新幹線の延伸は「喜ばしい」としながら、こうした二次交通の衰退を懸念する。
「せっかく新幹線が敦賀まで来ても、二次交通が滅びてしまうようで
は福井の活性化に繋がりません。二次交通にもっと目を向け、新幹
線と一緒の街づくりをして福井を元気にしてほしい」
ゆくゆくは大阪まで延伸する計画の北陸新幹線。国の想定では 「204
6年開業」となっているが、環境影響評価の遅れなどで、いまだ着工に至っていない。それまで敦賀での「分断」が続くのか ── 。北陸新幹線から目が離せない。(編集部・野村昌二)
※ AERA 2024年4月29日-5月6日合併号より抜粋
野村昌二