● 悲惨な労働環境 ・・・ | 大阪ミナミの山小屋(別館)だより

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大阪・関西万博、

建設作業員の悲痛な声

「食堂まで徒歩30分」

 

日経ビジネス 2024年4月23日(火)

6時00分 配信

 

 

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)まで1年を切った。建設の遅れや費用膨張への批判は強く、能登半島地震を機に中止を求める声も。万博の意義や魅力発信など機運醸成が宿題となるが、残された時間は限られている。

 

 

リングは木造部分が8割方完成している

 

3月中旬、大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」へ向かう地下トンネルを車で抜けて進むと、巨大な木造建築物が目の前に現れた。2025年4月に開幕する大阪・関西万博のシンボル「大屋根(リング)」だ周囲ではクレーンがそびえ立ち、工事車両がせわしなく動き回る。リングは木造部分の約8割が完成している。

 

 

 

 

そんな現場から聞こえてくるのは、作業員の悲痛な声だ。夢洲では電気や上下水道が通っておらず、発電機などを使って作業が進む。一般の建築工事では、職人が休憩時間に自分の車の中で過ごすことが多いが、万博会場建設では、必要な物資を載せた運搬車や工事車両以外は、入ることができない。現場によっては、食堂まで徒歩で約30分かかることもあるという。ある男性作業員はこう吐露する。「最初は国家プロジェクトに関われるとワクワクしていたが、もう別の案件に行きたい」。

 

会場内の施工管理を担う大手ゼネコン各社は、コンビニ設置や循環型のトイレ、作業員向けの駐車場設置など、労働環境の改善を進めてきた。

 

 

●パビリオン担当者が直面する「特殊な事情」

 

 

 

課題は現場の労働環境だけではない。現場の建設スケジュールの遅れも大きな課題だ。中でも、海外パビリオンの建設は当初の予定から大幅に遅れている。各国が自前でつくる「タイプA(敷地渡し方式) 」のパビリオンの受注が難航し、施工業者が見つからない事態が相次いだ。日本側が着工や交渉を代行する簡易型の「タイプX(建物渡し方式)」への移行を提案しているが、施工業者の決まらない国も約20カ国ある。

 

なぜ遅れたのか。大きな要因は、準備期間の短さだ。本来、万博は5年間隔だが、前回のドバイ万博は新型コロナウイルス禍の影響で1年開催が先送りされた。そのため各国のパビリオン担当者に与えられた大阪・関西万博の準備期間は大幅に圧縮されてしまった。

 

さらに各国の万博担当者は、日本の建設業界の特殊事情に直面した鉄骨などの資材不足だ。タイプAのパビリオン建設には、鉄骨の使用を想定する国も多い。だが、日本では半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)による日本工場の建設などで鉄骨の需要が逼迫している。これにより「発注から納品までに6カ月ほどかかる」と竹中工務店の河野修・常務執行役員万博推進室長は説明する。竹中工務店はこうした事情から、鉄骨造りのパビリオン建設を請け負うには23年6月ごろまでに図面が完成し、鉄骨の発注が間に合うことを前提条件にしていた。「参加予定のほとんどの国と協議したものの、想定していたスケジュールに間に合う国がなく、受注を断念した」(河野氏)と振り返る。

 

 

 

 

木造モジュールも「今後の受注は難しい」

 

木造の一般流通材を用いて、仮設や転用に適した木造モジュールのパビリオンを選択するという手もある。オリジナルな鉄骨造りのパビリオンと比較すると、資材の調達が比較的容易で、基礎工事の期間も短縮できる。建機レンタルなどを手掛ける西尾レントオールは木造モジュールを中心に受注しており、現在、海外パビリオン3カ国、企業パビリオン1施設、民間パビリオン2施設の建設プロジェクトに参画している。

 

だが同社も、設計や海外の要望に応じた修正などにかかる時間を考えると、これからの新規受注は難しいという。同社のレントオール事業部木造モジュール課の諏訪裕一郎課長は「万博では、(外装ではなく)展示内容で主張するという手もある。工事に時間がかからない商材や仮設用の商材も扱っているので、需要があれば対応していきたい」と話す。

 

 

 

●「仮設」を逆手に実証の場に

 

万博会場の建設物は、期間限定で使用する「仮設」であるゆえに投資が無駄だという批判もある。だが、施工を担うゼネコンは、仮設という条件を逆手に取り、課題解決に役立つ新技術の実証試験に取り組んでいる。

 

竹中工務店は、大屋根の高い部分の点検にドローンを活用しているさらに今後は、機材の輸送などにもドローンの活用を検討している

 

他にも、万博会場という広大な敷地内での移動時間削減や生産性向上を目指し、けん引車で自由に動かせる工事用の「事務所」を試験導入中だ。同社の河野氏は「建設のプロセス自体に新しい技術を導入していく姿勢が大切だ」と話す。

 

 

 

 

また大林組と西尾レントオールは、万博会場内の工事で、「リニューアブルディーゼル」を活用する。これは廃食油などから製造される次世代バイオ燃料で、大林組が西尾レントオールから借りる建機の燃料として、軽油の代わりに使用する。この実証試験を通じて、燃料の調達から使用までのプロセスの構築を目指すという。

 

いまだ課題山積の万博建設現場だが、関係各社は工夫をこらし、その解決に向けて試行錯誤する。1年後、どんな風景を見ることができるだろうか。

 

馬塲 貴子