【 工事中 】 登山の経済学より ・・・ 2 | 大阪ミナミの山小屋(別館)だより

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山小屋主が訴える国立公園管理の窮状、

国の管理責任はどこへ?

 

2019.10.8 5:45

 

日本の一級山岳の多くが国立公園に指定されている。だが、登山道や山の環境を保護するための体制にはさまざまな問題がある。「日本の山が危ない 登山の経済学」特集(全6回)の第3回では、北アルプスの秘境で人気の山小屋「雲ノ平山荘」を経営する伊藤二朗さんにその問題点を聞いた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

 

民営国立公園はもう限界

登山者、行政、企業を巻き込み議論を

 

「持続可能な国立公園の管理の仕組みが必要」と北アルプス・雲ノ平で山小屋を経営する伊藤二朗さんは訴える Photo by Yoko Suzuki

 

―― 今夏、ヘリコプターが飛べず物資輸送が寸断されたことで北アルプスの山小屋は営業できなくなる寸前の危機に追い込まれました。その状況を訴えた伊藤さんのブログは話題を呼びました。

 

これを機会に、登山者に現在の山を取り巻く状況を広く知ってもらいたいと願っています。日本の国立公園は、そこに立地する山小屋の経済力に日常的な管理の全てを依存しているのが現状です。建前では国が行うべき管理をいわば「グレーゾーン」内で山小屋が代行している形です。

 

現在北アルプスで営業している山小屋は、戦後間もなく小屋を建設して山小屋事業を始めた人たちから世襲で引き継がれてきたところばかりです。私が経営する雲ノ平山荘も、父(伊藤正一氏・故人)が1963年に建設したものが始まりでした。

 

そして、山小屋の間には大きな経済格差があります。標高が低く多くの登山客が集まり経営が安定している山小屋は、何度もヘリを使って重機や資材を上げ、周辺の登山道の整備を行うことができる。一方、奥地で人が来ない経営難の山小屋では、そうした登山道の手当てもなかなかできない。

 

こうした小屋が仮につぶれれば、その周辺の登山道の整備や自然環境の保護、登山者のケアを行う人は誰もいなくなる。現在山小屋が行っている管理を、なんらかの持続可能な代替手段で行うための仕組みが必要だと考えます。山小屋の経営問題が国立公園の荒廃につながりかねない現状は、健全とはいえないでしょう。

 

例えば、山小屋の “縄張り”が変わると途端に山の管理状況も変わるし、グループ間で連携ができていないことも多い。北アルプスには山小屋間の組合が幾つかありますが、そのうちちゃんと連携して機能しているのは上高地周辺の一部だけです。

 

さらに、北アルプス全体が今どのような状況にあり、どのようなことを目標として管理を進めるかなどの全体のプランを描いている主体は、現在どこにもありません。そもそも、山域への入山者数を正確に把握できているわけではなく、オーバーユースを食い止める手段もありません。雲ノ平のキャンプ場は毎年ピーク時には定員の3倍近くのテントが張られますが、入域管理をしていないためどうしようもありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

モンベルの44年、

「自分が欲しい登山用品」を作り続けて840億円ブランドに

 

2019.10.9 5:50

 

特集「日本の山が危ない 登山の経済学」(全6回)の第4回では、登山用品ブランドとしては国内最大級に成長したモンベルを取り上げる。登山家でもある辰野勇会長に、その事業の要諦と経営を支えたもの、さらに日本の山の課題について聞いた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

 

「山に関わる仕事が好き」な社員は

財務諸表に出ない財産だ

 

たつの・いさむ/1947年大阪府生まれ。スイス・アイガー北壁の最年少登頂記録を持つ。商社、登山用品店勤務を経て75年にモンベル創業。 Photo by Masato Kato

 

――メーカーながら全国130の店舗を持つ、登山用品店としては事実上最大規模のチェーンに育てました。

 

僕もそうですが登山専門店は、だいたい登山家が「山道具に囲まれて商売したい」と起業したところばかり。ただ、将来後継者問題に悩まされるだろうなと、創業時にすでに予想していました。毎年若い新入社員を迎え続け、平均年齢を下げるためには成長しなければならない。会社をつぶさないために必要な規模を考えたとき、30年後までに売上高を当時の登山市場500億円の20%である100億円にすることを目標にしました。実際には30年で200億円、現在はグループで840億円の売上高となりました。

 

ありがたいことに、モンベルがまだ小さな会社だった頃から、高学歴の「山好き」が集まりました。会社の安定ではなく、山とアウトドアが好きな人が、情熱を持って仕事に当たってくれている。これは財務諸表に出ないモンベルの資産だと思います。出店も実は決まった計画はなく、先方から出店依頼があった案件を精査し、採算が取れると判断したら受動的に出しています。店舗でお客さまに正確な説明ができる人がいなければ、むやみに拡大はできません。モンベルの商品は薬と一緒です。登山用品もカヌー用品も正しく使用しなければ命に関わります。

 

――創業3年で海外進出に踏み切っています。

 

30年で日本の登山市場が伸びず、売上高100億円の目標が達成できそうにないとなったときに、海外でもビジネスをやっていれば補完できると考えたからです。海外に認められる品質かどうか力を試してみたいという思いもありました。米パタゴニアにはウエアの特殊素材や縫製技術を提供していたこともあります。現在の海外事業は直接販売とライセンスを合わせて100億円くらいの事業規模に育っています。

 

――リーズナブルで機能性の高い製品が人気ですが、どのようなポイントで開発しているのですか。

 

モノづくりをベースにした企業であることが強みなのは間違いないです。社内のリソースも開発に大きく投じています。100%自社開発で、他社と全く同じものを並べたら、モンベルの方が2~3割安いものを作ることができる。そして、創業時から「自分たちの欲しいものを作る」ことで一貫しています。新商品の企画案はうちの社員であればどの店の誰でも出せて、何千点と集まる中から選択して開発します。市場のトレンドを報告してくる社員もいますが「意味がない。一切気にするな」とそのたびに言っています。モノづくりに関してはお客さまのご用聞きになるな。これは徹底しています。

 

僕はこの前72歳でスイスのマッターホルンに50年ぶりに登ってきたのですが、やっぱりしんどい。でも、僕がこの年で登山やカヌー、自転車をやるときに欲しいものには、意外と現在登山をする同世代の団塊世代も同調してくれるんですよ。野外で茶をたてる野点セットや俳句を詠むときに使う野筆セットは僕が提案して商品化しました。まあ何十万セットが売れるとは思えないけどね(笑)。

 

モンベルには「世界で一番幸せな会社にする」という経営目標がありますが、自分が今やっている仕事と置かれた状況を社員が幸せと思えるかどうかについては、いつも念頭に置いています。今日(インタビューが行われた9月14日)開催しているフレンドフェア(会員向けの物販、アウトドア体験、飲食、音楽ライブなどのイベント)もイベント代理店に外注せずに売り子からスタッフまで全員社員がやっている。もうからないけどみんなが「やりたい」と言うので続いています。僕もこれからステージで横笛を吹いてきます。

 

 

 

 

 

 

 

登山関連市場に新規参入・再編の嵐、

頂点を獲るのは誰だ?

 

2019.10.10 5:40

 

昭和の登山家や愛好者たちが立ち上げた会社が業界の多くを占める日本の登山関連業界。特集「日本の山が危ない 登山の経済学」(全6回)の第5回では、登山の大衆化と時代の変化が、大きな地殻変動を起こしている現状をレポートする。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

 

新旧交代、登頂か滑落か 登山産業の泣き笑い

 

エベレスト最年長登頂記録を持つ冒険家の三浦雄一郎氏をはじめ、日本人で初めて世界の標高8000m峰全14座を完全登頂した竹内洋岳氏など、日本でトップクラスの登山家が多く所属する大手登山専門店、ICI石井スポーツが、2019年4月にヨドバシカメラに買収された。1964年に登山・スキー靴の製造販売で創業した石井スポーツは、16年には投資ファンド、アドバンテッジ・パートナーズの傘下に入り、17年まで3期連続で当期損失を計上する苦境にあった。

 

登山業界には山が好きな登山家が起こした老舗会社が異常に多い。だが今、こうした企業が相次ぎ業界再編の波にのまれている。06年には、30年代に早稲田大学山岳部出身の川崎吉蔵氏が創業した、登山専門出版社最大手の山と溪谷社がIT企業インプレスホールディングスに買収された。

 

11年には、大正時代創業の国内最古の専門店、好日山荘の運営会社コージツを投資ファンドのDRCキャピタルがTOB(株式公開買い付け)、12年に同社は上場廃止となる。さらに47年に京都大学の山岳部有志が発刊した専門誌「岳人」も、14年に中日新聞からモンベルが発行権を取得した(下図参照)。

 

* 図-1

 

登山は、商品やサービスの選択を間違えば最悪の場合、山で死ぬ。専門性が強く求められ、物販は専門店での接客対応が、情報収集は紙の専門誌が重視されてきた。物流システムの無駄が多くEC化率も低い。一般の流通市場の進化から取り残された形で生き残ってきた登山業界が今変わりつつある。

 

 

 

 

 

 

登山雑誌・登山アプリで

「新興勢力」が大躍進している理由

 

2019.10.11 5:50

 

高いシェアを占め、業界での歴史も長い競合が存在する市場に、後から参入して成功するのは容易ではない。特集「日本の山が危ない 登山の経済学」(全6回)の最終回では、登山市場においてこれまで競合が掘り起こせていなかった新たなユーザーを発掘し、成功を収めている2社のビジネスに迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

 

山ガールブームの仕掛け人

PEAKS・ランドネが10周年

 

2009年。日本の登山雑誌業界にそびえ立つ「山と溪谷」「岳人」という双璧に挑む、少々変わった新参者が現れた。ホビー雑誌社の枻出版社が創刊した「PEAKS」と「ランドネ」である。

「競合2誌と争っても意味がない。ならば、これまで山に関心がなかった読者に集中すべきと考えた」と、2誌の立ち上げを担当したPEAKSの朝比奈耕太編集長は振り返る。30代の男性とそれに女性という新規顧客だ。

 

PEAKSでは、登頂にはこだわらずテントで山旅を楽しむスタイルを押し出し、若手男性をターゲットにした。ランドネでは派手な色のタイツとその後一世を風靡することになる“山スカート”で山に登るという、当時は考えられなかったスタイルを提案したのだ。山ガールブームは、百名山ブームが終わりかけていた当時、新たな客層を山に送る起爆剤となった。

 

あれから10年。PEAKSとランドネの部数は伸びている。PEAKSは折り畳みフライパンやスキットル、登山用ポーチなど編集部オリジナルの山道具の付録効果もあり、毎号完売に近い実売率を誇る。10年前に読者になった30代が、40代になった今も根強い支持層になっているという。

 

PEAKSの山道具の付録は、開発に半年を費やす本格的なもので人気が高い

 

山ガールを生んだランドネは、読者のコミュニティー化に注力する。読者間で仲間意識が生まれやすい雑誌であり、限定ECサイトや「ランドネ山大学」という少人数制の女性限定登山ツアーを開催したりしている。今年からは「たのしみ隊」という名称で読者モデルや取材体験ができる会員組織も立ち上げた。「現在弱体化が進んでいる山岳会の新しい形を提案したい」と朝比奈編集長は言う。

 

最強に見えた競合2誌は相次ぎ再編に巻き込まれた。遅れてきた新規参入組は第三極として存在感を増しつつある。