ドキュメンタリー映画「1/10 Fukushimaをきいてみる」を制作。古波津陽監督に電話インタビューさせていただきました。

2011年3月11日、東日本大震災発生後、原発事故が起きた福島が今どうなっているか。聞き手は福島県田村市出身の女優、佐藤みゆきさん。福島に住んでいる人、福島から避難している人、年齢、性別、職業など関係なく、福島に関わる様々な立場の人に話を聞いて、みんなで一緒に考えるために作られた映画です。2013年から1年に1本ずつ発表。10年かけてシリーズでその変化を記録してきました。

 


まず昨年12月に完成し、すでに全国各地で上映会が行われている「1/10 Fukushimaをきいてみる 2023」シリーズ10本目の最新作について伺いました。

-最新作2023年版も観どころ、聞きどころがたっぷりですね。

今回は11組の語り手さんにお話を聞かせてもらいました。福島の変化した様子と、逆に全然変わっていない要素という両極端のお話が詰まっていると自分でも感じています。

-震災当時5歳だった女子高校生の話が凄く心に刺さりました。

彼女は高校で私が上映会をやった時に映画の感想文を寄せて下さって、その中にあった文章がまさに取材させてもらったような視点で「自分は生まれた時からずっと被災者扱いされてきました。町がガレキからスタートしているのが記憶の中にあって、元々の町の風景を知らないから、復興でどうなりたいというビジョンが頭の中にありません」ということを赤裸々に語って、この視点はこれからの時代にとても重要な、私たちも知っておかなければいけないと思い、語ってもらえないでしょうかというオファーをさせてもらいました

-オファーしたときの彼女の反応はいかがでしたか?

先生を経由してお願いして、私で話せるならことならと受けて下さって。ただ取材の日に「実はすごく緊張してます。ずっとこのことを考えてお腹が今朝も痛かったぐらいです」と話されてましたね。

-映画では自分の気落ちを淡々と語ってらしたように見えました。

いくら自分の考えがしっかりしていても、カメラの前で語るのはとても勇気がいることなので、彼女にとっては大きな事件だったのではないかと思います。

-映画の中では彼女の考えにも変化があったことが伝えられましたね。

そうですね。他の高校生たちとの意見交流会を経て、自分の考えを伝えていくことがいかに大事なのか知りましたと、表情が明らかに変わっていたのが私にとっても印象的でしたね。

 



-前作2022年版は福島に行って学ぶ関西の高校生がインタビューに登場しましたね。

それは結構、劇的なことでした。私が上映を各地でさせてもらっている中で高校生に対しての上映会もあります。高校生の反応、感想、語っていることが面白いなと思う場面が何回もあって、この高校生たちに映画の中で語ってもらおう、と思ったのがきっかけでした。

-とても新鮮でしたし、高校生が福島を学んでしっかり語っていましたね。

福島の人に語ってもらうのが最も重要なことですけど、時間が経つに連れて、直接被災の記憶が無いとか、被災した人の話を聞いてその話を伝えていく立場の間接的な伝承をしていく人たちは、どうしてもこれから必要になってくると前々から気になっていたところでした。そういうことを実際に考えている高校生たちが現れて、福島の外でどうやって伝えていったら良いのか、そういう討論をしている場面に出くわしたので、我々大人もいっぱい知るべきだと思うし、高校生から学ぶことが非常に多くありました。映画でみんなで共有して、じゃあ大人はどうする?他の高校生はどうする?先生たちはどうする?けっこう刺激を受けて、その後、他の高校での上映の展開に繋がったり。大人はどうやって若い人たちにその問題を解決して渡していったら良いのか。それとも渡せないまま高校生に解決してもらわないといけないのか。みんな考えるようになってくれましたね。

-2023年版はその高校生たちに「福島行かへん?」と言い続けている神戸の灘中学校・高等学校の池田拓也先生のインタビューがありましたね。

池田先生は福島に行くことで学べることが沢山あるって考えてらして、様々な立場の人の話を聞いて「モヤモヤしろ」と。学校で教えられるような1つの答えが出るような問題では無く「ずっとモヤモヤしながら、考える種を持って帰ってきなさい」という考えです。僕自身も同じで「1/10」のシリーズは皆さんに観てもらったあと、ずっと考えてもらえると良いと思ってるので、池田先生がモヤモヤの価値を付けてくれたと感謝しています。

-映画では高校生たちが福島に行って学ぶ姿もありましたね。

福島に行くとすごいアンテナが立つというか、ただモヤモヤするだけでなく、如実に防災の問題から始まって、環境問題、エネルギー問題、人権問題までどんどん連なっていくんですよね。そんなフェアじゃない問題を何でこんな風に放置して良かったのか。アレ?っと、沢山ぶち当たっていくので、そのアンテナの立った高校生たちが直接現場で政府の人に質問をぶつける、そういう場面が今回の映画の中にあります。大きな映画の見せ場、と言ったらちょっと下品な言い方になりますが、この映画の中で重要な柱になっているシーンです。

 



-今回も全ての語り手さんのお話に、心が惹き込まれました。ところで10年を振り返っていかがですか?

1年を振り返るだけでも非常に難しいので、10年振り返るのはホントに難しい質問ではありますけど、記録する価値のある話を沢山、聞かせてもらったなというのが一番にあって、私自身もとても勉強になっています。ただ一方で能登の震災が起きて、こういう記録映像を撮っただけではダメで、今後、役に立っていかないといけないと改めて思いましたね。そのためには映画で語られている言葉とか想いをどんどん伝えていくことが大事だなと思っています。被災地から二度と同じ犠牲を出さないでほしいという願いをずっと聞かせてもらってきました。私たち自身も防災を固めていくことがすごい重要だと改めて思いました。最終的にはそれが被災された人々の願いに応えることではないかと思っています。

-なぜ無料上映会を続けてこられましたか?

一番最初にどうやったら信用してもらえるかなと。取材をする上で、語り手さんからも、お客さんからも信用してもらいたかったので、忖度なく偏りなく届けるために作ってます、ということをある意味、意思表示としてお客さんからの寄付金だけで製作していきます。それが一番分かりやすい方法かと思いました。結果として一番得するのは、情報を得られたお客さん。「この情報を活かして下さいね」そういうメッセージなってると良いなと思っています。

-充分なっていると思います。2018年版から観てきて毎年この映画の完成を楽しみにしてきました。この映画の拡がりは凄いものがありますね。

各地の上映主催者さんが頑張って上映会を開いて下さっていて、会場に来て下さったお客さんが「私も上映会をやりたい」「私も」とドンドン拡がっています。高校生が映画に登場し「うちの学校でも上映したい」と思って下さる先生も増えてきたことで、授業や追悼行事、勉強会など学校の中で上映する形が増えたことがすごく自分としては嬉しいです。また英語字幕を付けて海外の映画祭に出品し、海外でも観てもらえる機会が増えていることも嬉しいことです。

-そういえば数々賞も受賞されていますね。

コロナ禍で上映会が出来なくなったときに、他にどういう手があるだろうと思って、2019年版から映画字幕を付け始めました。国内外のドキュメンタリー映画祭での受賞5、入賞4。コロナ禍はオンラインイベントとして上映し、海外の人にも観て頂けましたね。
 

-さて最新作2023年版のチラシには「シリーズ10本目の記録映画、最終版」と書かれています。一番気になるのは10年経ちました。今後はどうされますか?

皆さん気になるところかなと思うんですけど。

-凄く気になる、本当に気になります。

私もそれ以上に気になっていますけど(笑) 当然、何年か前からその時がくるのが分かっていたのでずっと考えて準備してきました。まず「1/10」というのは10年間のリミットがあった前提だったので無くなります。ただ「Fukushimaをきいてみる」に切り替えようかと考えています。さらに宮城とか、岩手とか、神戸とか、海外のスマトラをきいてみる、みたいなこともやってみたいなと思っています。もっと言うと若い人たちのアイデアもきいてみる。何を聞いてみるかと言うと、防災という切り口で過去の英知を集めて、さらに未来の防災に向けてのアイデアを育てる。みたいな映像コンテンツを作りたいと思っています。まだ具体的ではなくて、この1年はその準備と研究に費やそうかと思っているのでそんな活動をする予定です。

-「Fukushimaをきいてみる」は続くということですね。

福島を中心に考えながらどんどん拡げていくイメージでいてくれたら嬉しいです。皆さんがお客さんではなく、活動するメンバーみたいに集まれるといいなと思っています。一方通行みたいに映像を流して観るという事ではなくて、こんなアイデアありますとか、こういう風にしていきましょうとか、じゃあ私はこういう活動します、みたいなことをみんなで報告し合える、発表し合える、そういう場を作りたいなと思ってます。

-最後に伝えたいメッセージをお願いします。

過去の災害の話を聞くとどうしても悲しくなるからネガティブな印象がある、そう思われる人が多いかと思いますが、実際はそこから学べることって物凄く沢山あって、なおかつ自分の命を救う方法を学ぶ、これ以上ポジティブなことは無いですよね。この映画「1/10」のシリーズはある意味、防災だけでなく色んな問題に触れられているので「自分だったらどうするだろう」という気持ちで観ていただいて、実際にポジティブに未来に生かしてもらいたいなと思って作っています。今後この活動に触れられる機会がありましたら「ぜひこれはポジティブなプロジェクトだ。自分のためになる」と思って参加して頂けると嬉しいです。

 

 

 

東日本大震災から13年になった放送日3月11日、古波津陽監督、お誕生日でした。たまたまと仰っていましたが、3.11を伝えていく、その役割を担ってらっしゃるお一人だと私は勝手にそう思っています。


これまで「防災番組いつもおそばに」では、何度も映画「1/10 Fukushimaをきいてみる」をご紹介し、その度に「この映画に出会って下さい」と言い続けてきました。今後ももちろん出会って下さい。そしてぜひ関わって下さい。

(3/11 ON AIR LIST)
M1.DREAMS COME TRUE/何度でも
M2.牛来美佳/いつかまた浪江の空を
M3.門馬よし彦/NEGAI~願い~(「1/10 Fukushimaをきいてみる」テーマソング)
M4.信政誠/呪文(リクエスト)
M5.asari/命のバトン