1から10シリーズ ~アメリカPhD編~ | アメリカ研究者(慢性痛・リハビリ)のブログ

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US PhD/Scientist. US/JP Physical Therapist. 中枢性疼痛(Nociplastic/centralized pain)を中心とした慢性腰痛、膝痛に関する研究や知見・正しい研究知識や研究方法の提供・アメリカ生活・科学・理学療法・疫学・アメリカ留学(Master, PhD, Postdoc)

Masterの1から10シリーズのように長い記事となるが、アメリカPhD留学に興味のある人へできるだけ具体的で役立つ情報を提供できるように努めていく。

 

 

PhD(博士課程)は教育者、研究者、そして科学者になる為の学位。つまり、目的は明確である。この1から10シリーズでは、筆者自身の経験、率直な意見のみならず、実際に取る側(大学院側)の都合や選考基準等も書いていく。

 

研究者とは何か新しいことを発見して、それを科学的知識として世の中に提供していく。その科学的知識は、治療ガイドライン、医療方針決定等の根幹となる。研究をして科学的な根拠を示す作業はとても責任があり、影響力のある仕事である。そして、とてもやりがいのある仕事である。

 

応じて、研究を行うためにはとてつもない量と質の研究知識と技術の獲得が求められる。ずばり、日本は臨床研究ではるかに遅れている。科学がどんどん進んでいる今日、高い質の博士課程による訓練が求められていることは明らかである。

 

研究者としてのPhDとMasterの違い

科学は研究結果のみならず、研究手法や技術、知識も進化しているので、一生研究者として訓練していかなければならない。世界的に影響力のある研究者も、常に自分を訓練して、より質の高い研究をしようと毎日奮闘している。さて、

 

PhDでは、その基礎となることを一通り、自分の研究を通じて勉強できる。めちゃくちゃ大切なステップだ。察しの良い人はもう何が言いたいかわっかているかもしれないが、研究者としての訓練は、PhDから始まる。Masterは本当の研究レベルで見るとまだまだ真似事レベル(とても大切な第一歩ではあるが)。現実的な話をするとPhDをとって初めて、自分の研究ができる。つまり研究者(科学者)になりたい人はこのPhDは避けては通れない!

 

それでは早速筆者のPhD留学の道のりを時系列で、鍵となるイベントをまず列挙する。*x*マークがあるものは、時系列の後に詳細説明やおススメする情報を提供する。

 

時系列

  • 2014年8月~9月*A*:イリノイ大学シカゴ校でMaster2年目の夏から秋に本格的に自分の進みたい大学院の研究室を探し、それを元にPhDプログラム絞り込む:University of Kansas Medical Center、University of Oklahoma、University of Pittsburgh。
  • 2014年9月:この3校の事務にコンタクトを取り、アメリカでMasterを取るのでと、PhD受験の為のTOEFLとGREの免除を交渉して、了承を取る。
  • 2014年10月*B*:自分のPhDアドバイザーとなってほしいProncipal Inventigator (PI: 研究室のボス)に直接コンタクトを取って、実際にどのような研究を現在行っているか、学生を取る予定はあるのか聞く。
  • 2014年10月~11月:3人のPIから返信があり、CVを送ってくれと言われる。
  • 2014年12月:電話、あるいは直接会ってUniversity of OklahomaとUniversity of PittsburghのPIからインタビューを受ける。
  • 2015年1月~2月*C*:3校のPhDアプリケーションをする。Masterと同じでPersonal Statement、と3通の推薦文、Masterと日本の学士の成績証明書の送付、そしてオンラインアプリケーション。ここでもやはり学位授与機構についての説明を求められる。※アプリケーション自体はMasterとほぼ同じ。詳細は以下の記事を参照
  • 2015年4月*D*:3校から合格通知が届く。University of Kansas Medical Centerは学費免除とGraduate Teaching/Research Assistantとしての仕事のオファー付き。University of OklahomaのPIからは直接取りたいと連絡があり、グラントが取れ次第、学費免除とResearch Assistantをオファーすると言われる。
  • 2015年5~6月: 悩んだ結果、University of Kansas Medical Centerに決める。そして、秋までにMasterの論文を終わらせて卒業すると大口をたたいていたので、この時期に死ぬ気でMasterの論文、Thesis、そしてディフェンスをなんとかクリアして卒業
  • 2015年8月:晴れて、PhD開始!!
*A*PhDプログラムの選び方
ずばり、ここがPhD合否に一番大きく影響するPhD過程はまだ学生とはいえど、その後科学者としてやっていきたい人の多くにとって、自分がしたい研究を行う出発点となる。つまり、自分が一生かけてやっていきたい研究内容がこの時点で具体的であればあるほど絶対にいい。まずは、基礎研究か?臨床研究か?からスタートしてできるだけ具体的に。筆者の場合は、①臨床研究→②痛み→③慢性痛→④中枢性疼痛(Nociplastic Pain)まで明確にしていた。少なくとも私の過程の②の状態までは決めおく必要がある。大きな理由は2つ
  • 自分のその後のキャリアに「直接」役立つ;研究一つを始めて、きちんとした論文になるまで3年はかかるので、そのアドバンテージはデカい
  • アメリカの場合、PhD学生を事実上とるのは学部ではなく研究室のボス(PI)。PIが「この学生を自分の研究室に入れたい」と言えばほぼ間違いなく受かる。つまり、研究目的が具体的であればあるほど自分が行いたい研究を行っているPIを探しやすいのと同時に、マッチすればそのPIも取りたいと思う確率があがる。この際、MasterでThesisを取りすでにその分野に役立つ研究スキルを身に着けていればより一層「欲しい学生」となれる確率が上がる(論文があればなお一層良い)。
これらを加味して、自分のやりたい研究をある程度具体化して、自分が入りたい研究室(PI)を絞り込んだとする。次に欠かせないこととしてはその研究室(PI)の資金の潤沢具合を調べることである。その研究室のウェブやPIの最新のCVを見て、Funding source,、Grant,等の情報を得る。NIHのR01グラントを持っているというのが1つの指標となる。他にもたくさんグラントの種類があるが、1年間の研究資金が最低でも$100,000以上はあるPIがいれば理想である。その研究者が成功している研究者であることの証明である(つまり質の高い訓練を受けられる)と同時に、PhD学生としての学費とリサーチアシスタントとしての給料を支払ってくれる可能性が高くなるからだ。1セメスターの学費のみで平気で$10,000行くこともあるし、これとは別に年約$25000(2019年時点で)ほどの給料を貰えるのはとてもつもなくデカい。
 
しかしながら、このような大きなグラントを持つPIはほんの一握りしかいないので探すのが困難かもしれない。ポスドクではなくPhD学生の場合、朗報として、研究大学院の場合、学部がティーチングアシスタントやGraduateアシスタントのようなPhD学生用の仕事を用意している場合が結構ある。この場合でも学費免除と同額の給料の受給が可能である。
 
もう一つ、自分の行きたいPhDを決めるために大切なファクターとして、その研究室のPIがProfessorやAssociate ProfessorというTenure FacultyであるかAssistant Professor(Tenure Track Faculty)であるかというのが挙げられる。Assistant ProfessorはTenureになる為に必死で、学生を育てるというよりも自分が生き残ることが死に物狂いである場合がけっこうある。このようなPIが自分のPI(つまりPhDメンター)になった場合、研究結果を出したいPIといろいろと学んで、自分のしたい研究をして、なるべく早く卒業したい学生との間に摩擦を生じるケースが少なくない。筆者はこのケースでいろいろと大変な部分があった。
 
以上のことを考慮に入れて、自分にとってベストなPhDプログラムを選択することがPhDプログラム合格のみならず、長いPhD生活において充実した時間を過ごすためのとても重要なカギとなる。
 
*B*興味のあるPIに「事前」にコンタクトをとる
実際に自分がアプライする所を決めたら、直接そのPIにコンタクトをとって、現在どのような研究をやっているか、PhD学生を取る予定があるかについて直接メールで尋ねる。このメールは死ぬほど大切なので、くれぐれも失礼のない完璧なEメールを作成する必要がある。自己紹介、そのPIの研究に興味があることや自分のしたいことや研究スキルと一致している等を簡潔にまとめて盛り込む。また、メールの最後に忙しい中お時間ありがとうございましたという文言は最上級の表現で織り込む。筆者は3人のPIにメールを送ったが、3通のメール作成に丸2日間かけた。また、筆者はその当時気づかずにしなかったが、このメールにCVを添付することも勧める
ここで上手くいけば、インタビューにこじつけることができ、そこで上手くいけばほぼ受かったも同然であるからだ。
 
*C*PhDアプリケーション
アプリケーション自体はMasterとほぼ同じ。しかし大きな違いは*A**B*で上手くいった人はこの時点でほぼく受かっている(よっぽどGPAが低いとか推薦状の内容が悪くない限り)。また、推薦人には必ずMasterのアドバイザーを入れる。
 
*D*合格通知そしてPIと情報交換
PIがインタビューをしたいと言ってきた時点で間違いなくPhD学生をとって自分の研究に貢献してもらいたい意思が明確になる。そして合格通知が来た時点で「あなたをうちの研究室に欲しい」というPIの気持ちが明確になる。オファーレターに学費免除やアシスタントの仕事のオファーが明記されていない場合、遠慮なく直接コンタクトをとって確認してみよう。研究資金の獲得には予定外の事が起こって時間がかかる場合が多々あり、合格通知作成の時期にそのことを織り込めなかったという状況が度々あるからだ。
 

最後に

 

PhD過程で学べることは測りきれない。研究者、教育者、そして科学者としての礎を築くことができると同時に、人間としても大きく成長できる。PhD卒業試験であるDissertationをクリアした瞬間に呼ばれた「ドクター」という響きはそれまでやって来た全てが報われた感覚となる。科学者としての不可欠な1歩、そしてその後の人生にとってとてつもなく意味のある時間を与えてくれるPhD過程。興味のある人達、真剣に考えている人達へ、アメリカPhDは最高に学べて、未知のことを経験できる場所です。この記事を通じて少しでもそのような人に有益な情報を与えることができるのなら幸いです。

 

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