アイスという足枷をはめて歩く。 | ヨシオカハルカの話。

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V6/GLAY/ハロプロ/ヒプマイ/ドラァグ・レースのヲタク。

人に口は出さない、出させない。
私は入間銃兎の女。

我が家にもついに特別定額給付金申請書が届いた。


私は早速、必要書類である身分証明書と通帳をコピーするため日曜の早朝という人の少なそうな時間帯を狙ってコンビニへと向かった。

我が家の最寄コンビニは徒歩5分ほどのところにあるセブンイレブンである。

店に到着すると入り口に「迷い犬探しています ○○ちゃん 種類は~」という貼り紙があった。

私は「可哀想に。さぞかし不安だろう。はやく見つかってほしいな」と思いながらも、果たしてああいった貼り紙にはどれほどの効果があるのだろうか?と疑問が浮かんだ。


迷い犬に限らず、迷い猫や迷い鳥を探す張り紙をこれまで色んな場所で見かけたことがある。

つまりそれだけたくさんの人が貼るということはそれなりに効果があるからなのだろうか。

いや、よく思い出せば「探しています」の貼り紙は見かけても「見つかりました」は見たことがない。

やはり効果は薄いのか?それとも見つかったら剥がして終わりがセオリーなのか?でもそれじゃ見つかったのか諦めてしまったのかわからない。「見つかりました」とたった一言教えてくれればこちらも安心できるだろうに。


そんなことを考えながら、店内へと入った私はコピー用の小銭を作るためまずは何か買うことにした。

早朝ということもありお腹がすいておらず、かといって今日のお昼ご飯を買おうにも家には味噌汁とおかずがあるし、お菓子もいまいちピンとこない。

どうしたものかと決めかねているとアイスコーナーが目に入った。


「シャトレーゼの牛乳バー」


これだ!

私は知っている。

シャトレーゼのアイスというのはとても美味しいのだ。しかも早朝買うものとしてアイスというのはうってつけじゃないか。

迷わず手に取りレジへ向かい会計をしてもらった。

完璧な選択だ。

思わず出そうになる鼻歌を抑えながらおつりを握りしめ意気揚々とコピー機の前に立つ。


するとそこには「エラー 店員をお呼びください」の文字が表示されていた。

しかしアイスという完璧な選択をした私はこれくらいのことでは狼狽えない。

店員さんを呼べばいいだけだ。レジの方を振り返るといつの間にか3名ほど並んでいる。


えっ…?確か入店した時は私しかいなかったはず。このシャトレーゼのアイスにたどり着くまでにそんなに時間がかかったのか?

私は狼狽えた。


この時間帯おそらく店員はレジのあの方1人しかいないだろう。会計を待ってもいいがコピー機の前で突っ立っているとあからさますぎてレジ打ちへの焦りを与えてしまいそうだ。それにコピー機のエラーに対応している間に誰かがレジに並ばないとも限らない。そうなると結局店員さんに負担をかけてしまう。


2秒の間にこれらのことが頭を巡り、よしここではやめておこう!と結論を出した私は、カバンに財布しまうためにちょっとコピー機の方で立ち止まってただけですよ〜顔をして店から出た。


さて、こうなるとアイスというのはかなりの足枷である。


溶かさないために一旦家へ帰るか、それともこのまま少し遠い別のコンビニへ行くか。

別のコンビニへはここから10分ほどである。つまり家からだと15分。

一旦家に帰って出直すにはまあまあ辛い距離だ。

いっそ今日はやめるか?いやそれだとただアイスを買いに来ただけの人になってしまう。それは避けたい。

幸い今日は曇りだ。

私は思い切ってこのまま別のコンビニへ行くことにした。


少し早歩きで時折アイスの強度を確認しながら向かう。

しかしいくら急いでいても決して走ってはいけない。

なぜなら息を切らしてコンビニへ入り一目散にコピーなどした日には「あ、あの人こんな必死にコピーしに来るなんて一刻も早く給付金が欲しくて仕方ないんだな」と誤解を与えるからである。


そんなことを考えているうちに到着した。

すぐさまコピーし店を出る。ここから家まで15分。

アイスはまだ大丈夫そうだ。

同じ道をたどって帰宅する。

ここでも決して走らない。

「あ、あの人コピー片手にあんなに急いでるってことは一刻も早く給付金が欲しくて仕方ないんだな」と思われないためである。


アイスが少し柔らかくなってきた。


もう歩きながら食べてしまおうかとも思ったが「あ、あの人あんなに急いでアイスを食べるってことは一刻も早く給付金が欲しくて仕方ないんだな」と思われてしまう恐れがあるのでやめた。


歩きながら考える。

ただコピーをとるだけのはずが私は何故こうも気骨を折っているのか?

日曜の早朝から私は一体何をしているのか?

私とは一体何なのか?


思考が哲学に突入しかけたその時、例のセブンイレブンの前に差し掛かった。

なんとなく気まずさを感じ、そそくさと通り過ぎようとしたが「迷い犬探しています ○○ちゃん 種類は~」という貼り紙の上に何か別の紙が足されているのがチラリと見えた。

無視しようとも思ったのだが、好奇心から足が止まった。

好奇心は猫をも殺すと言うがあれは犬だったので大丈夫だろうと近寄って読むと、それは「見つかったそうです。ありがとうございました!」という貼り紙だった。


思わず声を呑んだ。


初めて「見つかりました」という貼り紙を見た私の心は「見つかったんだ!良かった!」という安堵と「やっぱりあるんだ!このパターン!」という感動でいっぱいになった。


これはコンビニを2件はしごしなければ得られなかった充実感である。

もしあれが飼い主から電話で知らされたことだとすれば、コピー機のエラーに取り掛かっていたら電話に出ることも出来なかっただろう。


ああ、私のしたこの回り道にはきちんと意味があったのだな。

ごちゃごちゃと考えたあれこれがスーッと消え去っていくのを感じながら帰宅した私は、晴れやかな気持ちのままドロドロに溶けたアイスを冷凍庫にぶち込んだのだった。