最近、骨盤臓器脱の患者さんとお話ししていて、時代が変わったなと感じることがあります。

「ChatGPTで調べました」
「Claudeではこの手術が良いと出てきました」
「Geminiに聞いて、自分にはこの手術が合うのではと思いました」

と、ご自身でかなり勉強してから受診される方が増えてきました。

医療の情報収集も、検索サイトだけでなくAIに相談する時代になってきたのだと実感します。

AIに「骨盤臓器脱の手術には何がありますか?」と質問すると、実にたくさんの選択肢が出てきます。


「選択肢として存在する」ことと、「受診した医療機関で選択できる」ことは同じでは無いことがあります。

施設によって提供できる手術は異なりますし、同じ「ロボット手術」「腹腔鏡手術」という名前でも、実際の術式には違いがあります。

だからこそ、患者さん自身があらかじめ「どんな選択肢があるのか」を知っておくことは、とても良いことだと思っています。

骨盤臓器脱の手術には、いろいろな選択肢があります

骨盤臓器脱の手術は大きく考えると、

・腟から行う手術
・腹腔鏡手術
・ロボット支援手術
・メッシュを使用する手術
・自分の組織だけで修復する手術
・子宮を摘出する手術
・子宮を温存する手術

などがあります。

さらに、腹圧性尿失禁を合併している場合には、

「骨盤臓器脱だけ治療するのか?」
「尿失禁の手術も同時に行うのか?」
「まず骨盤臓器脱を治して、尿失禁が残ったら後から治療するのか?」

「術前術後のリハビリはどうするのか?」

という選択肢もあります。

つまり、単純に

「ロボット手術が一番新しいから一番良い」

という話ではありません。

ロボット手術にもいろいろあります

日本ではロボット支援手術が急速に普及し、骨盤臓器脱に対するロボット手術を受けられる施設も増えてきました。

よく行われている方法の一つが、子宮頸部を残して子宮体部を切除し、腟や子宮頸部をメッシュで仙骨側へ固定する方法です。

実は、同じように見える手術でも細かく見ると違います。

メッシュは膀胱側だけに入れるのか?
直腸側にも入れるのか?
子宮は摘出するのか?
子宮を温存するのか?
卵巣は残すのか?
尿失禁にはどう対応するのか?

こうした点まで確認していくと、「骨盤臓器脱のロボット手術」という一言では説明できないことが分かります。

そして、もう一つ大切な選択肢があります。

「子宮を残す」という選択肢

骨盤臓器脱だからといって、必ず子宮を摘出しなければならないわけではありません。

子宮を残したまま、下がっている子宮や腟を吊り上げて固定する子宮温存手術(hysteropexy)という選択肢があります。

ここで興味深い研究があります。

Korblyらは、アメリカで骨盤臓器脱の症状があり、ウロギネコロジーを初めて受診した女性213人に、子宮を温存したいか、摘出したいかを質問した研究を紹介したいと思います。

「子宮を残しても摘出しても治療成績が同じ」と仮定した場合、

36%:子宮を温存したい
20%:子宮を摘出したい
44%:どちらでもよい/強い希望はない

という結果でした。

つまり、子宮を残したいと考える女性は決して少数ではありません

さらに興味深いことに、「もし子宮温存手術の方が治療成績が劣るとしても、それでも子宮を残したい」と答えた女性も21%いました。

これは手術を考えるうえで、とても大切なデータだと思います。

子宮を残す手術は、治療成績が悪いのでしょうか?

「子宮を残すと再発しやすいのでは?」

と思われるかもしれません。

しかし、必ずしもそうとは言えません。

2018年に発表されたシステマティックレビューでは、子宮温存手術と子宮摘出を伴う骨盤臓器脱手術を比較した53研究が検討されています。

その結果、適切な患者さんに対する子宮温存手術は、子宮摘出を伴う手術と比べて短期的な再発率を悪化させず、手術時間、出血量、メッシュ露出などの面でメリットがみられる術式もあることが報告されています。

さらに、腹腔鏡下子宮温存仙骨固定術と腟式子宮摘出+腟断端固定術を比較したランダム化試験では、7年以上の長期成績も報告されています。

そして2025年には、321人を対象とした前向き研究も発表されました。

子宮温存手術151人と子宮摘出+腟断端固定170人を比較したところ、1年後の解剖学的な頂部再発は子宮温存群7.5%、子宮摘出群17.2%でした。

もちろん無作為化比較試験ではないため、この数字だけで「子宮温存の方が優れている」と結論づけることはできません。

しかし少なくとも、

「骨盤臓器脱なら子宮を取るのが当然」

という時代ではなくなってきていると思います。

では、何がベストなのでしょう?

私は、すべての患者さんに共通する「ベストな手術」が一つあるわけではないと思っています。

年齢、脱出している場所、子宮や卵巣の状態、排尿状態、尿失禁、排便状態、性生活、これまでの手術歴、そして何より、

「自分の子宮を残したいのか、摘出してもよいのか」

という患者さん自身の価値観によって選択は変わります。

子宮を摘出した方がよい方もいます。

一方で、子宮を温存できる方もいます。

大切なのは、

「この手術しかできません」ではなく、「あなたにはこのような選択肢があります」と説明されたうえで、一緒に選ぶこと。

ではないでしょうか。

日本ではロボット支援手術が急速に普及しています。それ自体はとても良いことです。

ただ、ロボットで手術をすることが目的ではありません。

子宮を取るのか、残すのか。
メッシュをどこまで使用するのか。
尿失禁をどうするのか。
術後の排尿や性生活までどう考えるのか。

そこまで含めて手術を選択することが、本当の意味での骨盤底診療だと思っています。

AIに相談して勉強してから受診する。

私はそれも良い時代になったと思います。

ぜひ、

「私の場合、子宮を残すことはできますか?」
「他にはどんな手術がありますか?」
「尿失禁はどうなりますか?」

と聞いてみてください。

骨盤臓器脱の手術は、「何が一番良いか」ではなく、「自分には何が一番合っているか」を選ぶ時代になってきています。


参考文献

  1. Korbly NB, et al. Patient preferences for uterine preservation and hysterectomy in women with pelvic organ prolapse. Am J Obstet Gynecol. 2013;209:470.e1-6. doi:10.1016/j.ajog.2013.08.003.
  2. Meriwether KV, et al. Uterine preservation vs hysterectomy in pelvic organ prolapse surgery: a systematic review with meta-analysis and clinical practice guidelines. Am J Obstet Gynecol. 2018;219:129-146.e2. doi:10.1016/j.ajog.2018.01.018.
  3. Izett-Kay ML, et al. Laparoscopic sacrohysteropexy versus vaginal hysterectomy and apical suspension: 7-year follow-up of a randomized controlled trial. Int Urogynecol J. 2022.
  4. Brennand EA, et al. Hysterectomy versus uterine preservation for pelvic organ prolapse surgery: a prospective cohort study. Am J Obstet Gynecol. 2025;232:461.e1-20. doi:10.1016/j.ajog.2024.10.021.