今回は、

 転移がない前立腺癌には重粒子線治療が本当にベストなのだろうか? 

という内容です。

 

 2020年1月26日に福岡市内で前立腺癌に関する勉強会が開催されました。早起きして佐賀から参加してきました。

 

 全体のテーマは局所進行・進行前立腺癌の診断・治療です。

 

前立腺癌勉強会

 

 プログラムの中に、

「局所進行前立腺癌放射線治療 重粒子線治療を中心に」

に興味があったので参加し、勉強してきました。

 

 佐賀には九州国際重粒子線がん治療センター(通称:ハイマット)があるので佐賀県民にとって「重粒子線治療」は身近な治療方法です。

 

 私もたくさんの前立腺癌の患者さんをハイマットへ紹介してきました。

 

 しかし、現在、ハイマットへ患者さんを紹介しても最初の診察予約日が数か月先であり、実際の治療を受けるためには半年以上待ちの状態です。

 

前立腺癌の患者さんが重粒子線治療を受けるためには「転移がない」ことが絶対条件です。

 

 だけど、それさえクリアしたらなんでもかんでも「重粒子線治療」でいいのでしょうか?

 

これが私の日常診療における疑問点でした。

 

さて、講師の先生は群馬大学重粒子線医学研究センターの先生でした。

 

講演内容のまとめと私の考え、そして講演会終了後の懇親会で講師の先生に直接話を聞くことができたのでその概要です。

 

まず、講演の内容のまとめです。

 

重粒子線治療と従来のX線治療(外照射:前立腺癌に対してはIMRT)との違いとは?

 

重粒子線治療はX線治療に比べ、物理学的効果と生物学的効果の両方で優れている。

 

これは重粒子線は病変以外の正常臓器への照射線量を低減することができる(物理的効果)だけでなく、DNAの2本鎖を直接切断してDNAに大きな損傷を与えることが可能になることで、間接的にDNAを損傷するX線治療より効果が高い(生物学的効果が高い)ということです。

  

その結果、前立腺癌のグリソンスコアが高く、膀胱まで浸潤したようなハイリスク群、局所進行前立腺癌に対する治療効果が良かった。

 

現在、重粒子線治療という選択肢を保有している群馬大学病院では、転移がない前立腺癌の治療は手術か重粒子線治療の2者のいずれかで行っている。

 

という趣旨の話でした。

 

そして最後に、どのような患者に重粒子線治療を行うのが適切なのかを今後は明らかにしていきたい、という言葉で終わりました。

 

 会場から質問を受けてくれるとのことでしたので思いきって質問しました。

 

私)「なんでもかんでも重粒子線治療でいいのでしょうか?現時点ではどのような患者さんが重粒子線治療がふさわしいのでしょうか?」

 

演者の先生の回答は、

「高リスク(グリソンスコアが高い、局所で進行している)患者さんが重粒子線治療がふさわしい」

 

ということでした。

 

私見です。

重粒子線治療は従来のX線治療(IMRT)より効果は高く、副作用も少ない。そうなると佐賀県のように重粒子線治療を受ける施設へのアクセスが良ければ、患者さんは当然重粒子線治療を希望する。

 

これでいいのでしょうか?

 

この疑問は解決しないままでしたので、講演会終了後の懇親会にも参加して講師の群馬大学の先生に再度ご挨拶して、意見交換をしました。

 

ここからは群馬大学放射線学の先生との直接やりとりで得た知識の整理です。

 

①群馬大学で転移がない前立腺癌の治療が手術と重粒子線の2つになったのは、群馬やその周囲にはX線治療(IMRT)ができる施設が複数あり、群馬大学を紹介されて来るのは重粒子線治療がふさわしいと判断され、選ればれた患者さんが多いからである。

 

だから他の治療がふさわしい患者さんも当然存在する。

 

②重粒子線治療はハイリスクの患者さんに対する効果は従来のX線治療より確かに高いという結果が出ている。しかしそれ以外の前立腺癌(低~中リスク)に関しては治療効果は従来のX線治療と同じだった。

 

③だから低~中リスクの前立腺癌患者さんが重粒子線治療を受けるために長期間ホルモン療法を受けながら待機するよりもX線治療や(低リスクの場合)小線源療法、(手術)などほかの治療を受けたほうがいいのかもしれない。

 

以上のようなお話を聞くことができました。

 

将来的にはハイリスクの、重粒子線治療が本当に必要な患者さんが優先的に重粒子線治療を受けられるようなシステム作りが必要かもしれませんね、という話も懇親会の場で出ました。

 

佐賀県では小線源療法を行える施設がないことも問題ですが、ロボット手術ができる施設も複数あります。手術療法も昔に比べると合併症が減っているので条件が合えば非常に良い治療選択です。

 

患者さんそれぞれの年齢や状態に応じて、無治療経過観察でいい患者さん、手術がいい患者さん、X線治療がふさわしい患者さん、重粒子線治療が良い患者さんなどしっかり考え、正しい情報を提供し、患者さんと共に考えて治療方針を決めることが大切だと感じました。

 

某製薬メーカーさん主催の講演会でしたが、薬の宣伝のような内容ではなく、本当に有意義な患者さんのためになるいい講演会でした。

主催してくれた製薬メーカーさんに感謝します。