野村萬斎さんからのメッセージ | 羽生結弦さんの見つめる先を見ていたい

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羽生結弦選手を敬愛しています。羽生さんを応援する素敵ブログ様方を日々の心の糧にしている、ソチ落ち主婦のブログです。(横浜在住)

2018年に、

狂言師の野村萬斎さんから羽生くんに寄せられたスペシャルメッセージがあります。

2018年4月の「Continues〜With  Wings〜」開催後に発行された、このショーの【愛蔵版ブック】に掲載されていたものです。


2018年の平昌の事だけでなく、2015年初対面当時の羽生くんとSEINEIについても詳しく語られています。





先日来、Continuesの再放送を観たり、昨日DOIの話題が出たりしましたので、読み返してみましたが、改めて、その内容の濃密さ奥深さに驚かされました。芸能には全く素人の私でさえ、読んでいて気が引き締まる心地がしました。

萬斎さんが仰っているのは、ジャンルを超えた「表現者」としての根本の気構えや在り様の極意ではないかと感じたのです。


元々が受注生産であったこの冊子は、すでに入手不可となっています。

【愛蔵版ブック】をご購入なさらなかった皆様にも、是非読んでいただきたい内容です。


以下は、そのまま書き起こしたものです。

長いのですが、どうぞお付き合いください。



スペシャルメッセージ

〜野村萬斎から見る羽生結弦とは〜



彼の曇りを晴らす言葉


 (2015年8月に)初めて会ったとき、えらくはにかんでらっしゃったのを覚えています。

非常にたくさんの質問ややりたいことなどをお持ちで、ただイメージとしては何となく分かるけれど言葉にはできないという状態だったのではないでしょうか。その曇っているところから抜け出すための具体的な言葉であるとか、僕の舞台人としての感覚を求めていたように思います。

打てば響くというように非常によく反応されるなあというのが、正直な気持ちでした。彼の中の問題意識に、僕の50年くらいの歳月をかけてきた言葉が響いたのはおもしろかったですね。20歳の若者がそういう言葉に反応するということにも驚きました。

あの時は、僕がかなり一方的にしゃべったかもしれないですけれど、彼の質問がかなり的を射ていたので、するすると言葉が出てきましたね。

ある種、運命的な出会いというとおこがましいけれど、非常にフィーリングが合ったのだと思いますね。


 僕の言葉がその場でどのくらいわかったのか、そのときはわかりませんでしたが、それを咀嚼(そしゃく)したのちの演技に、彼が明らかにしたいと思ったことが確実に表れていたので、非常に嬉しかったです。

世界歴代最高得点が出たというのは、彼の中でなにかマジカルなほどの変化があったからなのかなと思いましたね。これは、結弦くんがおっしゃることで、僕が言うことではないですけれど(苦笑)



己のあり方を俯瞰する

世阿弥(ぜあみ)が『風姿花伝』の中で言っている「離見の見(りけんのけん)とは、たとえば自分を客観視、俯瞰(ふかん)して見るという感覚です。
どういう風に見せたいかというのはどういう風に見えたいかということにもなるのですが、ショートプログラムなら3分弱、フリーでは4分半のなかで自分というものをどう保っていくのかということ。
演技のなかで、単に技を構成するだけじゃなくて、自分の精神も構成するのかということも含めたあり方を彼は模索しているのかという感じがします。
使っていた『SEINEI』という曲を、彼が自分で構成し直していましたが、その構成力に「離見の見」を感じました。たとえば最後のステップシークエンスは、どんなに疲れていても奮い立つような音楽の構成になっているんですよね。観客もあの音とともに盛り上がる。
これも能楽界の言葉ですけれど、『序破急(じょはきゅう)
ゆっくりと始め、どこかでブレイクする、最後の『急』は、完璧にトップギアに入った状況をどうキープするかということなのですが、外に向かっている自分の目線がだんだん内に入ってくるというか、外に出したものをもう一回自分のなかに入れていくと、観客と一体化するんですよね。
放出と吸引というのを僕たちもやるのですけれど、その次元にまで自分を突き詰めることができれば、ある意味オートマチックに導かれて(極限の演技が)できるはずだというのが、世界歴代最高得点を出したときの彼じゃないかと思うのです。





音に合わせず「音を纏え」

 場を支配するために、天地人というすべての方向性に気を巡らせて「音を纏(まと)」という話もしました。
音に合わせにいくと絶対に遅れるから、自分が音を発しているように、と。
対談の後、リンクで練習を拝見したのですが、曲のとらえ方は大変良かったんだけれど、あの曲のたゆとうメロディには裏にもリズムがあるので、メロディに合わせたくなるのを我慢して裏のリズムに合わせた方がいいといった話はしましたね。
具体的に言うと、冒頭部分だとか、後半のストレートラインステップ前の3つのジャンプのあたりだとかの、笛だけになっているところ。その裏にズンズン、ズンズン、ってリズムが入っていたと思うんですね。
メロディに合わせて上半身は優雅に見せつつ裏にあるリズムが身体のなかで取れていると、単なる演技ではなくて、意識した演技になる
重層的な曲ですから、よく音を聞いて、本当によく構成されたと思います。





彼は場を味方につけた

平昌オリンピックのフリーの時間帯は稽古中だったので、残念ながらライブでは演技を見られなかったので、あとから見ました。
いつもは見せない彼の必死さが見えるくらいだったので、大変な状況だったんだろうというのはわかりました。でも、ああやはりこの人は圧倒的に強く、まさしく場を力につけたのだなあということを感じました。

 今季のように怪我などの不安要素があったりするとあくまで一個人の羽生結弦でしかないのかもしれなくて、そのせめぎ合いがすごくあったのかなという気はしましたが、それを精神力でカバーしたように感じましたね。
本調子だったら神懸かることができる域まで行っている人間が、そのレベルを知っていたからこそ、怪我を抱えながらもそこを保てたという気もします。
演技を見たあと彼に『死力を尽くして死闘を制したね』とメールしました。




羽生結弦という哲学

本当に脅威のアスリートですよね。才人というか、哲学のある人というか。彼を見ていると、そういう哲学をちゃんと自分で確立している。そこが圧倒的に他の人たちとは違っていますね。


 自分をそこまで律せられる、その能力と技術と哲学といった心技体を彼がどこまで究めていくのか。ある種「スケート道」になってくるのかもしれませんが、スケート道を究めてどこまで行くのか。
だんだんジャンプが跳べなくなっても、彼はスケート道を究められる人かもしれないですしね。そうしたことに興味を持ちます。
もう一度話してみたいと思いますし、今度はこちらがいろいろ教えていただきたいですね。

〈完〉
 


2018年平昌五輪



そして2020年2月四大陸選手権

2019年12月全日本EXにて





そして、更に2020年〜2021年

「天と地へ」で未来へ



野村萬斎さんに感謝しつつ、
2日間に渡り、書き起こさせていただきました。
「ステップシークエンス」とか「ストレートラインステップ」とか、何気に萬斎さん、凄くフィギュアスケートを勉強されていませんか。羽生くんの世界を理解しようと努めて下さった、そこも嬉しい点です。
(文中の赤色マークや下線は私の判断で付けさせていただきました)

読んでくださった皆さま、
長々とお付き合いありがとうございました。
 
萬斎さん独特の、羽生くんの本質だけを見てくださる鋭い視点と考察に、惚れ惚れしつつの作業でした。

このメッセージには、巷の雑音は一切入る余地などなく、
点数も順位も関係なく、
時代時期時間も関係なく、
永劫不変な、
求道者として邁進すべき高潔な道が示されているように思います。

羽生結弦を愛する者として、ただただ、羽生くんの思い描く幸せが達成されますよう、
今日も心から祈るのみです。




動画主さま、感謝してお借りします。

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