アメリカの中小企業振興にかかわる実践的な支援体制 ~中小企業診断士の視点との関わりで~ | 『売れプロ!』ブログ -「売れる」「稼げる」中小企業診断士に-

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 大学で社会学を教え、組織論に関わっている前山です。

今、中小企業診断士に対する関心は、公認会計士のような他の有名資格を上回って目を見張るものがある!とされます。確かに、扱われるスキルと知見が、経営理論、財務会計、経済学・経済政策、経営法務、経営情報など、とても現代的なものであって、独立する場合でも、企業内診断士として活動する場合でも、社会への貢献と自己成長をおこなおうとする方にとって魅力的なものと感じられます。

 

アメリカにはなぜ、「中小企業診断士」制度がないのか?

 実は、アメリカには「中小企業診断士」という資格制度・士業は存在しないのです。(他方、デロイト、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)、KPMG、アーンスト&ヤングなどの4大コンサルタントなどのような形での展開が見られます。)アメリカの社会を研究フィールドとしてきた私から見て、中小企業診断士は、日本の社会を映す鏡としてとても興味深いと感じています。今回は、米国にあってはなぜ、中小企業診断士を必要としない中小企業支援の態勢となっているのかについてお話したく思います。

 アメリカでも中小企業の経済・産業など地域社会での存在感は大きいものです。例えば、米国が経済回復を始めた94年にあって、その新規雇用の創出約330万人のうち、中小企業型産業は約60%を占めるとされます。(ちなみに、中小企業型産業とは、その産業の雇用労働者数の60%以上が雇用労働者数500人未満の企業で占められている産業を指します。)

 

「ビジネスしやすい」米国の土壌

 ところで、身近なお話をさせていただくと、少し前に自治体職員を退職した友人は退職と同時に、網戸の製造販売の起業をさっと始めました。また、シアトルでホテル業に携わる韓国出身の友人は、「自分は韓国出身だけれども、韓国やまた日本でよりも、アメリカでのほうがビジネスはしやすいね」と言っています。どうも、日本よりも起業がしやすく、ビジネスもしやすい環境があるようです。

 実は、政府・自治体の中小企業に対する開業支援のありかたが手厚い形となっていて、また民間や官民連携でのインキュベータプログラムが発達している状況にあります。

 

インキュベーター組織

 私が連携教授をさせてもらったワシントン大学の足元、シアトルでは、例えば、「パイオニアスクエアラボ」(Pioneer Square Labs)というビジネスインキュベーター組織があります。起業する人にむけての支援のために、13のベンチャーキャピタル企業と50を超えるエンジェル投資家から1250万ドル(約13億円)の資金提供を用意したとプレス発表しました。「起業になる可能性のある人のリスクを減らす」こと、そして、シアトルのスタートアップコミュニティを豊かにすることを目指しています。このようなビジネスインキュベーターが全米でおよそ1600ほどあるとされます。

 

Pioneer Square Labs

(典拠: Soper, Taylor, Top Seattle investors raise $12.5M for new 'startup studio' Pioneer Square Labs, GeekWire, 1 October 2015 (https://www.geekwire.com/2015/top-seattle-investors-raise-12-5m-for-new-startup-studio-pioneer-square-labs/)

 

全米に配置された「中小企業開発センター」(米国中小企業庁関連)による手厚いマンツーマン起業コンサルティング

 さらに、こうしたベンチャー企業の開業支援とは別に、米国中小企業庁(SBA)による、地域包括的な支援の体制があります。中小企業の経営を苦しい時に支援する日本の中小企業政策の考え方と少し異なって、米国での中小企業支援策は、厳しい自由競争世界のなかにあっての中小企業経営者に、起業や経営の支援をすることで、その力を発揮してもらおうという考えにあります。

 具体的に少しお話したく思います。中小企業の政策を担当する米国中小企業庁は、中小企業の振興のために、民間金融機関の融資に対する信用保証、起業・中小企業経営での文章作成の軽減化(Low Doc Loan制度などにみられるもの)、ワンストップショップといった方式を進めていますが、それのみならず、官民パートナーシップで起業者・中小企業家を支援する「中小企業開発センター」(Small Business Development Center: SBDC)をすべての州・エリアに配置しています。全米に約1000か所設置されています。中小企業開発センターには、開業準備に必要な情報、図書、ソフトウェア、コンピュータ端末などが整備されているほか、開業希望者のビジネスプランの相談に、専門職員やあるいは退職した企業経営幹部のボランティアが対応しています。

 具体的には、州によって若干違いはありますが、中小企業開発センターでは、10週間のスモールビジネスマネージメントコースを提供します。各セッションは週に3時間程度で、ビジネスプラン開発に関連するさまざまなトピックが検討されます。例えば、マーケティング、特定の州の規制、労働者災害補償の問題、雇用慣行、健全な経営慣行などの内容が検討されます。さらに、商取引や人脈作りなどについても検討され、また、起業にかかる費用も計算され、毎月の支出を賄うために必要な資金を得るための必要な事柄も判断される。そして特徴的なことは、これが無料で行われている、という点にあります。

 

ワシントン州中小企業開発センター(SBDC Washington)の事例

 同じ、シアトルを含むワシントン州での事例を挙げておきます。

ワシントン州全体を担当する中小企業開発センターは、おおよそ30か所の拠点とスタッフを配置しています。(その多くは、政府や自治体施設やコミュニティカレッジ施設の中ないし連携した形で設置されています。)

 

ワシントン州中小企業開発センター(SBDC Washington)のウェブサイト

(典拠:https://wsbdc.org/ )

 

 

中小企業振興に対する日米での政策的な考えの違い

 目下、私は米国で、地域経済産業と人を引き上げようとする「ワークフォースローカルガバナンス」動向の実際を明らかにする研究をすすめていますが、職業教育の州の広範なプログラムとならんで、こうした、個々人のプランを強力に後押しする中小企業開発センターの分厚い配置が起業と中小企業の経営を強力に支援していることが見えてきています。自発的に立ち上がった中小企業に、苦労するときに民間の「中小企業診断士」に寄り添ってもらって、よりよい経営に向いてもらおう、という日本での発想とはだいぶ違うものです。

 良し悪しはここでは論じませんが、一つ言えることは、先の友人たちの言葉にあるように「起業がしやすい、中小企業の経営がしやすい」という土壌を作り出しているという点があると言えます。

 

これから日本の中小企業の振興・開発をどうブラッシュアップするか?

 社会の事柄や制度の比較は、それぞれの事態のコア(本質)が見えてきて興味深いものです。本日は、中小企業の支援に対する日米の違いに触れさせていただきました。

 さて、私たちは、10年、20年、あるいは30年後に向けて、これからあるべき日本社会を作るうえでの、中小企業の振興・開発をどのように考えてゆけば良いでしょうか? とくに、日本型の良さをさらにどのように発展させたらよいでしょうか? 中小企業診断士の視点からみて、応援できるところ、あらたなチャレンジができるところを考えるとワクワクしますね。

 

福山市立大学 前山総一郎