「新しい資本主義」と中小企業経営 | 『売れプロ!』ブログ -「売れる」「稼げる」中小企業診断士に-

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売れプロ10期生の榎本 雅也です。

 

昨今、新政権のもとで「新しい資本主義実現会議」が立ち上がり、メンバーも明らかになりました。新しい資本主義については今般の衆院選はもとより、先の自民党総裁選でも岸田総理の公約のひとつとして掲げられていました。

実はこの概念、まったく新規のコンセプトではなく、前政権の時代より有識者会議の中で話題に上ってきた論題であるのです。

とはいえ、その内実は国民目線で浸透しているとは言い難く、また具体的な検討課題群も全貌はまだ明らかにはなっていません。

ただし、その骨格で理論的な支えになっている「公益資本主義」という切り口から見てみますと、もしかすると大きなパラダイムシフト=考え方の転換=新たな事業・企業・国家の成立につながりうる潜在性を持つものと考えます。本日はこの点、解きほぐしてみたいと思います。

 

1.岸田政権の「新しい資本主義」で見えてきつつあることは何か?

 

現在の提言課題としては、主に中間層の所得を底上げするための賃上げ策やそれを実現するための成長領域の特定(デジタルやグリーン分野、経済安全保障、人への投資の強化など)などが挙げられています。時には旧池田隼人政権で掲げられた「所得倍増計画」の令和版とする主張も見られます。

ただし、賃上げ政策については前政権から取り組んできた政策であり、単なるバラマキの分配政策ではパラダイムシフトにまで派生するとは考えにくいですし、そもそも基本デフレマインドが根付いている日本では底上げされた所得がそのままリベンジ消費につながって経済再活性化の道筋をたどるかという点についてさえ不透明です。

 

2.そもそも何が問題か?

 

これまで数多くの成長戦略・規制緩和・民営化策が打たれてきたにもかかわらず、日本国民の目線でいいますと、1992年と2019年を比較した従業員1人あたりの平均報酬額は371万円→370万円とほとんど増えていないという現状があるとのことで驚きです。

一方、アメリカでは特に顕著ですが、高額所得者と一般的な労働者との所得格差が生まれています。これらの背景には行き過ぎた株主至上主義、コーポレートガバナンス、金融資本主義があるとされています。つまり、株主の圧力により、長期的な視点での技術開発・設備投資等に経営資源を投下できず、四半期といった短期の目線でROEなどの一面的な指標を意識した経営をしなければならなくなっていることが実体経済の体力を削いでいるのではないか、という問題提起です。

 

3.課題解決のための「公益資本主義」とは?

 

それではそのための解決策となりうる公益資本主義とはいったい何なのでしょうか。

定義としては「会社の事業を通じて、会社が関係する経営者、従業員、仕入先、顧客、株主、地域社会、環境、そして地球全体(=「社中」=仲間)に貢献することが価値として認められる資本主義」であり、結果として「天寿を全うする直前まですべての国民が健康に暮らせる世界初の独立国家」を実現するということです(アライアンス・フォーラム財団より)。

 

抽象的な理念としては上記ですが、これを実現するためには税制や会計、各種法律などの制度面での大改革が必要とされます。具体的なポイントとしては、12個のルールに分解されていますが、いくつが挙げますと、会社は社会の公器であることを大前提として、中長期的株主の優遇や新技術・新産業投資の促進、四半期決算の廃止、株主還元とリンクした従業員還元の実現、時価会計原則の見直し、社外取締役制度の改善等が含まれています。

非常に幅広い領域にわたりますが、3つの原則として集約すると以下のようになります。

 ①社中分配

 ②中長期的投資

 ③起業家精神による絶え間なき改良改善

 

これらが「新しい資本主義」の骨格を形成するものとなっています。ただし当該理念が2013年に政治の世界に種まきされた際は十分開花できなかったという過去もあり、今回決別できるかは民間の努力とともに政治の実行力が問われると考えます。

 

4.中堅・中小企業との関係は?

 

株主至上主義・市場万能主義等の言葉から、上場の大企業の世界での綱引きのように感じられるかもしれませんが、この「公益資本主義」はまさに“三方よし[売り手よし、買い手よし、世間よし]”であり、従来日本の実業界が重んじてきた哲学に通ずるものがあって腹落ちするものではないかと思うのです。

そしてこうした哲学に共感し、実践できるのは、まさに中堅・中小企業であるという考えに私自身共感しているものです。中堅・中小企業は”社中(仲間)を大事にして、創業者の強い想いのもと、長期の視点で柔軟に経営していく”というそんな原点回帰を公益資本主義の追い風をうけて実現できると考えています。

 

そして私は資本市場・金融経済にも従事している中小企業診断士として、ぜひとも欧米追従ではない日本式の強い事業・企業・経済の実現の後押しをしていく所存です。またこれだけ大きな運動(ムーブメント)ですので、一人の力でできることは限られており、共感いただける“仲間”も同時に増やしていく活動もしていきたいと思います。

 

お読みいただき、ありがとうございました。

 

 

参考資料

2021ワールド・アライアンス・フォーラム東京円卓会議(WAF東京)基調講演より

21世紀の国富論(2007) 原丈人

新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性(2009)原丈人

「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉(2017) 原丈人